2015/02/10

過去のメルボルンの値動きに学ぶ、投資すべきエリア

以下はメルボルンでの長期的な住宅価格の推移を表しています。市の中心部からの距離に応じて、代表的な地区での1981年時点(ピンク)と2008年時点(赤)の価格、そして価格の上昇率(点線)が示されています。

 Source: Australian Housing and Urban Research Institute

人口増加、所得の向上、物価上昇のため、全般的に価格は上昇していますが、地区によって2倍から4倍と明暗が分かれています。

同じ時期に不動産を購入した人の間でも、5,000万円の物件が1億円になった人もいれば、2億円になった人もいるということです。自分の老後の選択肢、子孫に受け継ぐ資産の規模という観点では、これは大きな違いです。

一昔前までは、比較的裕福な層は、やや都心から離れた緑豊かな住宅街を好むのが一般的でした。1981年時点で見ると、都心から11km離れたCaulfield地区が最も価格が高くなっています。

2008年時点で見ると、この地区の価格自体は他と比べてまだ高い方ではありますが、1981年からの上昇率(表の点線)で見ると最低水準となっています。
住むのにはいい地区だったかもしれませんが、投資としてはあまり良いリターンを生んでいません。

これは、20数年のうちに、高所得層が住みたいエリアが少し変わってきたことが原因です。
都市の規模が拡大するにつれて、慢性的な渋滞など通勤の大変さが増します。仕事で忙しい高所得層は、都心に近い、通勤に便利な立地を好むようになります。

また、大きな庭付きの郊外の戸建てよりも、徒歩でカフェやレストランに行ける便利な立地のマンションを好む人が増えたというライフスタイルの変化もあるでしょう。

一方で、都心からの距離33kmCarrum地区も大幅な上昇率を見せています。1981年時点では最も低価格の地区で、2008年時点でも低価格のほうではありますが、伸び率では350%と大幅に上昇しています。

シドニーでも同様の値動きを見せた周辺地区がありますが、鉄道が敷設されるなど、利便性が向上し大きく価格が上がるケースもあります。価格や家賃が急速に上昇するに従い、住民の所得層も変わっているはずです。

結果論で見れば、遠方の郊外のほうがリターンは大きかったということも起こるかもしれません。
もっとも、鉄道の敷設計画があっても、将来の財政状況や政権交代などによって、本当に期限どおりに完了するかは分かりません。

プロジェクトの完成に賭けるのはギャンブルに等しいですから、私なら、特段のプロジェクトと関係なく、人口が増え、所得水準も向上している地区を選びます。

シドニーやメルボルンではまだまだ人口増が続きますから、これまでの傾向も続くと予測されます。

また、これからメルボルンのような大都市への成長が見込まれるブリスベンでも、過去のメルボルンで見られた傾向がこれから表れると考えれば、この点を先回りして投資すべき地区の選定を行うことができるでしょう。

2015/02/07

シドニーの不動産はバブルか

201412月末時点での住宅価格上昇率、家賃収入の利回りは以下の表のとおりです。
シドニーは価格上昇率で13%、家賃収入を合わせると17.5%とダントツの収益率となっています。
2014年に関しては、ローンを組みレバレッジをかけて投資していた場合、これをさらに上回る収益を上げた投資家も大勢いたでしょう。

Source: CoreLogic RP Data

一方でシドニーはバブル状態であって危険だという意見もあります。特に戸建ての平均価格が、平均世帯収入の9倍を超えており、維持不可能だというのです。しかし、戸建ての平均価格と市民の平均所得を単純に比べるのはナンセンスです。

確かに、一昔前までは戸建てに住むのが普通だったのかもしれません。しかし、今ではシドニーの人口は400万人を超え、年々増加が続いています。

東京の事情を考えても、世界的な大都市で、平均所得の家庭が、平均的価格の戸建てを購入することは不可能です。
買うとしても、23区外(もしくは都外)で小ぶりな物件となるでしょうから、(戸建ての中での)平均よりは下の物件となるでしょう。もしくは、購入するとしても、マンションです。
昨今は雇用が不安定化していることもあり、平均所得層ではそもそも購入に踏み切らないかもしれません。

現に戸建てを購入している経済的に余裕のある層の所得水準と比べて、住宅の価格水準が見合っているかを比べないと実態は分かりません。

また別の指標で見ると、3年前の底値と比べて、確かにシドニーは33%も上昇しています。

Source: CoreLogic RP Data

もっとも、過去10年間の年平均上昇率で見ると、シドニーは4.5%にすぎません。直近の大幅上昇を組み入れても、過去10年で見ると平均的な上昇率です。直近の急上昇は、過去伸び悩んでいた分のキャッチアップと言えるでしょう。


Source: CoreLogic RP Data


今のシドニーの住宅価格が安いとは言いませんが、一方でバブルというほど極端な水準ではありません。
シドニーが世界的な大都市に成長するにつれて、戸建てや好立地のマンションが一般家庭の手には届かない価格帯になったとしても、世界の主要都市の例を見れば不思議なことではありません。

2015/02/04

オーストラリアの住宅価格上昇率 - 2014年

以下のグラフは、2014年のオーストラリア主要都市の住宅価格上昇率を表したものです。(201412月末時点の推計値)

Source: Fairfax/Domain

シドニーは12.4%上昇とダントツですが、メルボルンも7.6%と堅調に推移しました。
次は出遅れ銘柄ブリスベンの番と言われていたところですが、2014年の段階ではまずまずで、巷で言われていたほどのブームにはなりませんでした。

今回の上昇局面は2012年の中ごろに始まりましたが、パース、メルボルン、シドニーの順にスパートし、2014年のパースは2.1%のみの上昇と息切れ感が伺われます。

シドニーも2014年前半は年率換算15%を超えるペースで上昇していましたので、年後半にはペースを落としているようです。シドニー相場はソフトランディングに向かっています。

それでも年12.4%の上昇ですから、5,000万円の物件を保有していたとすると、これが5,620万円(620万円増)に上昇し、ただ保有しているだけで相当な資産を増やしたことになります。

さらに、これに加えて家賃収入(物件価格の45%)もありますが、ローンを組んでいた場合は金利返済、また保有コストもありますので、実質的にどれだけ資産を増やせたかはケースバイケースとなります。

給料から500万円、600万円と貯めて資産を増やすのはなかなか大変です。キャピタルゲインを狙った不動産投資の場合は、エリアと物件の選定がしっかりできれば、価格上昇局面ではこれくらいは難しいことではありません。

また、レバレッジを掛けて投資する場合、物件価格が12.4%も上昇すれば、自己資金に対する利回りは相当なものです。

なお、オーストラリアではローン金利が高いため、家賃収入で金利支払いや諸々の経費をカバーするには、40%から50%は自己資金を入れる必要があります。それ以下の自己資金比率だと、月々の持ち出しが発生します。(オーストラリアでの一般的な自己資金比率は20%ですが、10%でも追加手数料を負担すれば可能です)

それでも、ローン金利が5%だとしても、保有している物件の価格が12%も上昇すれば、十分に元が取れたと言えるでしょう。

仮に持ち出しのない自己資金比率50%の投資家(家賃収入と金利支払い、諸経費がトントン)がいたとすれば、自己資金に対して24.8%も資産が増えたことになります。2,500万円を投じて1年で620万円資産が増えたというのは、なかなかの利回りではないでしょうか。

もっとも、長期で見れば、爆発的に上昇する年もあれば、値下がりする年もあります。長い目で見れば、今後は1年あたりの上昇率は5%程度に落ち着くのではないでしょうか。
街全体で平均5%上昇する場合でも、これを上回る地区、下回る地区があります。中長期的に平均を上回る6%、7%上昇が見込めるエリア選び、物件選びが投資家としての腕の見せ所です。

ところで、ある投資雑誌の特集(201312月時点)で、2014年に値上がりが期待される地区として、ブリスベンのNew Farm地区が全国1位に選ばれていました。

確かに2014年のNew Farm地区は戸建てで10%、マンション(区分)で6%程度は上昇しましたので、悪い予想とまでは言いませんが、これ以上に上昇した地区はシドニーではいくらでもあります。
雑誌記事を信じてわざわざ遠方から購入した人にとっては、(今のところ)労力の割に大したことはなかったというのが実感でしょう。不動産は中長期の投資が主眼ですから、これからに期待です。

なお、同雑誌が201212月の段階で予想した2013年の上昇予想1位もブリスベン市内のSouth Brisbane地区でしたが、こちらはさらに低い年間数%の上昇率に留まっています。

この記事を信じて買ってしまった投資家は、「こんなことなら、シドニーでどんな物件でもいいから買っておけばよかった」と後悔しているでしょう。シドニーは20132014の2年間で合計約30%上昇しています。

2015/02/01

オーストラリアでの人口増加と不動産投資

豪政府の統計局によると、オーストラリアの人口は2050年には3,760万人に、2101年には5,360万人に増加と予想されています。2012年時点の2,270万人と比べて、2050年までに65%、2101年までに136%の増加です。

Source: Financial Review
赤線が直近の推計値。
過去の推計値から上方修正されている。

これは、現在の傾向がこのまま将来も続いたらという前提に基づく中位推計(標準的なシナリオ)です。
2003年当時に行われた推計と比べて、将来の予想人口が大幅に上昇していますが、これは移民の増加が大きく影響しています。近年は年40万人程度の移民が流入しており、政府の推計はこの点を織り込んだものです。

もっとも、将来は政府の移民政策も変わる可能性が十分ありますので、今回の推計より下振れする可能性はあります。ただし、オーストラリアの出生率が1.92.0であることから、多少移民の流入が制限されても、人口が増える傾向は変わらないと考えられます

一方、日本では、国立社会保障・人口問題研究所の中位推計によると、2012年の1億2,750万人から2050年には9,700万人へ23%の減少と予測されています。


では、人口の増加が続くオーストラリアでどこに投資するかですが、2050年の主要都市の人口予想は以下のとおりです。

Source: Financial Review

ブリスベン、パースの人口の伸びが顕著ですが、シドニー、メルボルンも着実な人口増加が見込まれています。それぞれ2050年には別物の都市と言えるくらい規模が拡大しています。

途上国で政府の新都市開発を前提とした投資案件もありますが、政権交代や財政難で計画が白紙になったり、大幅に遅延もありえます。新都市開発案件に投資する場合は、この点のリスクを負っているということです。
それに見合ったリターンがあるなら考慮に値しますが、プロジェクトが成功するのを織り込んだ価格で購入したのでは、ハイリスク・ローリターンです。

オーストラリアでは、政府が特段の策を講じなくても、現状の状態が続くだけでこれだけ人口が増えるのですから、将来見通しの信頼性が高いと言えます。

2050年は35年後ですから、ずいぶん先の話のようにも感じられます。もっとも、自分がこれから物件を10年間保有し、2025年に売却する場合、その時の買い手は2050年頃の状況も念頭に置いて投資判断をするでしょう。まだまだ伸びそうだという状況でないと、高くは買ってもらえません。

人口の伸びに着目するならパースですが、資源関連産業の比重が高いため、浮き沈みの激しい面も持っています。資源関連の低迷が長引いた場合は、雇用にも影響するでしょうから、人口の流入も鈍化するかもしれません。

次いで伸び率の高いブリスベンは、鉱業、観光業、サービス業と軸となる産業がある程度分散されており、パースと比べれば安定性があります。もっとも、これから伸びる都市だけに、周辺部には未開発の土地もまだたくさん残っています。多くの人が住みたいと考えるエリアの中で、新規の住宅供給が限られる地区を選定することが肝要です。

シドニー、メルボルンは人口の伸びではやや劣るものの、大都市だけに多様な産業に支えられ、金融業や法律・会計サービスなど高付加価値産業が他都市よりも強く、住民の平均所得も他都市より高くなっています。高所得層が好むエリアや所得が伸びているエリア(かつ新規供給が限られるエリア)を選定することがカギとなるでしょう。

なお、この2年間はシドニーが住宅価格の上昇をリードしてきましたが、その前はメルボルン、その前はパース、さらに遡るとブリスベンと、価格上昇の主役となる都市は変わってきました。

長期的に見てどの都市へ投資するのが一番良いかは事前には分かりませんから、自分が買いやすい都市の中で、望ましい地区を特定するのがよいでしょう。

あとは価格のピーク時期に慌てて買わず、底値圏で買うように努めるということです。もっとも、ピンポイントで時期を当てようとすると、好機も逃すおそれがありますので、だいたいで良いという割り切りも必要です。