2015/09/10

プレ・ビルド(完成前販売)の新たな問題点

最近、シドニーで問題となったケースを共有したいと思います。

ある投資家は2012年にシドニー郊外で戸建ての購入契約を結びました。ディベロパーが土地を造成し、十数戸の戸建てを建築して分譲、2015年に残金支払い・引き渡し予定というものです。

契約金額は、2012年当時の相場を反映したものです。その後、2015年までに、シドニーでは平均住宅価格が40%も値上がりしました。

2012年の契約時の価格が5000万円とすれば、現在の価値は7000万円ということです。

投資家としては、価値の上がった住宅を割安の価格で購入でき、投資として大成功となるはずでした。

一方、ディベロパーとしては、面白くありません。今、改めて売りに出せば7000万円で売れるにもかかわらず、2012年に結んだ契約のせいで5000万円しか受け取ることができません。

そこで、ディベロパーのほうから契約を解除するケースが散見されると報じられています。

プレ・ビルド(オーストラリアではoff-the-plan)販売の場合、通常、契約にサン・セット(日没)条項が盛り込まれています。これは、特定の期日までに完成させることが不可能となった場合、ディベロパー側からも契約を解除できるという条項です。

もちろん、ディベロパー側には期日までに完成させる義務はありますが、努力義務に留まります。役所の審査が長引いた、建築ブームで人手や資材を確保できなかったなど、ディベロパー側も止むを得なかったと主張していますが、真相は分かりません。

「わざと完成を遅らせたのではないか」と裁判に持ち込むことも考えられますが、時間も経費もかかります。他の購入者の意向を取りまとめるのも容易ではありません。

手付金(通常、価格の1割)を返却してもらって、あきらめるしかないのがほとんどのケースでしょう。

プレ・ビルドで購入する場合、ディベロパーの信用、実績が大切です。どの企業にもスタート・アップの時期はあり、全ての新興ディベロパーがダメだとは言えませんが、不動産ブームに乗って急速に規模を拡大している新興ディベロパーは見極めに注意が必要です。日本でも、2005年に耐震強度偽装事件がありました。

完成前に販売価格が決まっているとすれば、ディベロパー側の利益をさらに増やすためには、建築コストを削るほかありません。

購入者側は、良質な物件を、できるだけ安く買いたいと考えます。一方、ディベロパー側は、できるだけコストは低く、販売価格は高くと考えます。利害が相反することを前提に、交渉、契約に臨む必要があります。

契約書には、止むを得ない事情がある場合、内装はもとより、占有面積の広さまで変更できる条項が盛り込まれているケースが多いようです。当然ながら、変更がある場合は、より低いグレードに、より狭い面積へとなります。変更権限をディベロパー側が握っている以上、その逆はありません。

専有面積が当初計画より10%狭くなることを許容する条項もあると聞きます。シドニーでは、平米単価100万円程度も珍しくありませんから、50㎡のつもりが45㎡の物件を引き渡されたのでは、500万円も価値が目減りしています。

当初は敷地いっぱいに建物を建築する計画だったが、役所から修正を言い渡され、計画通りの総戸数を建築するためには、戸当たりの面積を小さくするほかない、というケースもありえます。

もっとも、こうした可能性が契約書に明記され、購入者がそれにサインした以上は、後でどうすることもできません。

したがって、こうした計画変更(設計ミス)が起きる可能性が低く、仮に計画が変更されたとしても誠意を持って対応してもらえると考えられる、実績あるディベロパーを選ぶことが大事です。

オーストラリアでは、建築許可の履歴が市役所のウェブサイトで公開されています。これを見ても、当初の計画通りに完成ということは通常ありません。何か月も、時には何年にもわたって、計画の提出、役所の審査、計画の修正が重ねられています。

こうしたリスクを避けたい場合は、既に完成した新築物件を、(自分が雇った)建物診断士の検査のうえで購入することもできます。

既に完成した物件の場合、眺望の良い部屋などは既に売り切れているかもしれません。しかし、自分が住むわけでなく、あくまで投資として考えるなら、賃貸に出した時の想定家賃と購入価格の見合いで、十分検討に値する物件もあるはずです。

もっとも、同一建物の他物件と比べて、明らかなマイナスポイント(ごみ置き場、駐車場出入り口のすぐ近くなど)がある物件は、割安でも避けるのが無難です。

(購入時の値段も相応に高いはずですので)必ずしも最上階、角部屋でなくても良いと思いますが、少なくとも、可もなく不可もなくの水準に留めないと、将来のテナント、売却先の層が限定されてしまいます。

「総じてクオリティは低いが、値段が安ければ買ってもよい」と自分が考えたなら、将来の買い手、借り手も同様に考える可能性が高いです。内装は後で変更できますが、立地、位置取りは変えることができません。

現在のシドニーのように不動産ブームの時期は、売れ残り物件も減少します。理想的には、人々の関心が不動産投資から離れた時期に、たくさんの売れ残り物件の中から、自分に最も有利なものを選ぶことができる時期に参入するのがベストです。



完成前に買わないと売り切れるという市況のときもありますが、大勢の人が不動産購入に殺到している段階で参入するのがそもそも投資として得策か疑義があります。

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