2015/10/25

最近のオーストラリア不動産市況の動き

シドニーのオークション成約率は、今週も70%を割り込んだようです。2016年半ばごろからの価格下落を予測する声が増えてきました。

一方、ブリスベンは60%弱と、60%前後での推移が定着してきました。市場が温まってきたようですが、どんどん値上がりするほどの熱気ではありません。

シドニーとブリスベンの住宅価格の差は、十数年ぶりの水準にまで拡大しています。今後数年のスパンでは、ブリスベン、ゴールドコーストが価格上昇の主役候補として挙げられることが多いですが、年率45%程度の穏やかな上昇というのが大方の予測です。

ブリスベンが割安とはいえ、資源価格の低迷が続き地域経済もそれほど好調とは言えないこと、金融機関がローン金利の引き上げに転じたことが、穏やかな上昇に留まる理由とされています。

4大銀行の住宅ローン金利は、Westpac銀行を皮切りに、1、2週間のうちに、ローン金利引き上げで全行そろい踏みとなりました。金融機関の横並び意識は、世界共通のようです。

今回の利上げは過熱する不動産市場への警鐘が主な理由とされており、他行も追随して対策を取った形にしておかないと、後で経営責任を問われかねないという考えかもしれません。

これから中小の金融機関にもローン金利引き上げが広がると言われています。少なくとも、金利を下げて顧客を獲得しようとする競争にはストップがかかったと言えます。

豪中央銀行が利下げすると、金融機関も住宅ローン金利を下げるというリンクは、今回の動きで途切れました。
中央銀行としては、不動産市場の過熱を気にすることなく、景気刺激策として利下げしやすい環境となるため、豪経済全体にとっては悪くない話かもしれません。

過去の値動きを見ても、シドニー、メルボルンで価格が高騰してから、ブリスベンも後追いで価格が上がりはじめる傾向があります。このタイムラグは、概ね1年から1年半と言われています。

今回もようやくブリスベンに順番は回ってきそうですが、残念ながら全般的な投資環境に関して逆風が吹いている状況です。

専門家の見解も以前と比べてトーンダウンしており、おそらく、2018年くらいまでの今回の上昇局面では、ブリスベンが大幅上昇を見せることはなさそうです。次回の上昇局面で、金融機関の積極的な融資姿勢、資源価格の回復が重なると、シドニーとの価格差を埋めるべく、ブリスベンがブームを迎えるかもしれません。

また、ブリスベンの戸建ての価格は、シドニーと比べればそれほど高くありません。シドニーでは比較的都心に近いエリアに住みたければ、一般の人には戸建ては論外で、当然マンションとなりますが、人口が半分のブリスベンではまだ戸建てにも手が届きます。

当然ながら、同じエリアでそれほど値段が変わらないのであれば、マンションよりも戸建てが選好されます。また、「郊外の戸建てよりも、都心のマンションのほうが格好いい」という意識は、シドニーでは浸透してきていますが、ブリスベンではまだまだです。

したがって、当面のブリスベンの価格上昇局面では、おそらく戸建て中心に値が上がっていくと考えられます。単純化すると、手が出ない価格まで戸建て価格が上昇すれば、価格差を埋めるべくマンションも高騰が始まるというイメージです。

もっとも、自分が住む場合はともかく、投資物件としては、戸建てには維持管理の手間や、木造ならシロアリ、価格の割には家賃が取れない(家賃利回りが低い)などの問題もあります。

ブリスベンのような地方都市でマンションに投資する場合は、戸建てとマンションの価格差が大きい地区で、しかも新築マンションの大量供給が起きにくい地区を選定するべきと考えます。

戸建てとマンションの価格差が大きい地区とは、言い換えれば、地価が高く、よほどの高所得世帯でないと戸建てには手が出ないため、それなりの所得がある世帯でもマンションを選択せざるを得ないという地区です。

なお、近年の東京市場では、統計上、戸建てよりもマンションのほうが値上がり率は高いですが、これは戸建てが多い郊外エリアと、マンションが多い都心エリアの立地の違いが大きいでしょう。

オーストラリアでは、相続税がないことも関係していると思いますが、都心に近いエリアにも400600㎡の敷地を有する戸建てがたくさん残っています。

2015/10/19

シドニー住宅市場 クールダウンの兆候

マーケットの熱を反映しやすいオークション成約率ですが、シドニーでは徐々に切り下がっています。
3か月前までは82%前後でしたが、10月17日時点、ついに65%まで低下しました(黒い折れ線)。週によって上下動はありますが、趨勢として下がってきているように見えます。

Source: Domain

一方、緑の棒グラフはオークションで売りに出された物件数(各週)です。こちらは趨勢的に増加しています。売り惜しみしていたオーナーが、そろそろ潮時と読んで売り物が増えていると考えられます。
※10月3日が少ないのは連休中を避けたためで、その前後の週が増えています。

先日、4大銀行の一つが、住宅ローン金利を0.2%切り上げたところですが、買い手の意欲は徐々に沈静化しています。一方、売り物は増えているため、複数の買い手が競って値を吊り上げることも起こりにくくなります。

なお、この銀行の動きが衝撃を与えたのは、投資用ローンだけでなく、自宅用の住宅ローンの金利も上げたためです。豪中央銀行はどちらかというと利下げに向かっているにもかかわらずです。
このため、(特にシドニーの)住宅市場はそんなにヤバいのか(銀行は、返済リスクを読み取ったから金利を上げた)という印象を与えました。

もっとも、シドニー住宅の価格については、中心地から離れた一部の地区を除いて、下がったという報告はまだありません。大方の予測では、もう少し(例えば5%程度)はまだ上がると言われています。その後も、緩やかな価格調整(1~2年をかけて、5~10%の下落)を予測する声が大勢です。

ピークに達した後も、株のように価格が急激には下がらないのは、住宅の6~7割が自己使用(自宅)であること、また、売却にも相応の取引コストがかかるため、価格が多少下がったとしても売りが売りを呼ぶ状況にはならないためです。

また、アメリカのサブプライム・ローン問題の際は、銀行差押えの競売が多発し、これが値崩れを誘発したようです。この原因は、(金融機関どうしの過剰競争で)誰にでもノン・リコースローンが提供されていたためと言われています。
※ノン・リコース:抵当に入れた住宅を銀行に明け渡せば、ローン残債は免除

オーストラリアでは、個人への融資でノン・リコースはありません。値下がりした自宅を売却したとしても、残債の返済を続ける必要があり、自宅を簡単に売りには出しません。結果として、住宅市場の値崩れが起きにくいと言われています。

もっとも、大都市の中の特定の地区については、投資用物件が8割を占めるケースもあり、もう儲からないとなったら売りが増えるおそれのある地区もあるため注意が必要です。

2015/10/15

ブレビルド(完成前)物件のリスク-シドニーの事例

シドニーのプレビルド案件については、近頃、所定の期日までに完成できないという理由で、ディベロパー側から既存の契約を解除し、改めて別の買い手に高値で売る事例が複数報告されています。

既存の契約者としては、頭金は返却してもらえますが、その間の物件の値上がり益を享受することができません。2~3年間を無駄に過ごしたことになります。

今回報告された事案では、マンションは完成しましたが、当初に約束された内容とはずいぶん違うというものです。

シドニー在住のK氏は、2012年、まだ建築が始まっていない段階で、都心の1LDKのマンションを約5000万円で購入する契約を結びました。

2015年の現在、間もなく完成ということで内覧したところ、パンフレットで示された以下のイメージと全く異なるものだったとのことです。

パンフレットでのイメージ
Source: Domain

1LDKですから、寝室1つと"LDK"で、全部で2部屋あるはずです。しかし、内覧したところ、仕切りの壁もドアも全くなく、1部屋しかないワンルームの状態だったというのです。

専有面積は予定通りだったとしても、1LDKとワンルームでは、需要層も異なりますから、資産価値も違ってしまいます。

本来は前掲イメージのとおり、仕切り壁とスライド・ドアで独立した寝室になるはずでした。
ディベロパーの言い分によると、市役所が当初どおりのレイアウトでは建築許可を出さなかったため、仕方なく壁を撤去したとのことです。

確かに写真を見ると、採光窓も通気口もありませんので、本来はベッドルームとして認められません。

ディベロパーとしては、固定の壁ではないからグレーゾーンで認められると見込んでいたようですが、結局、この場所に壁を作り寝室を設けてはいけないと市役所に言い渡されたようです。

ディベロパーとしても一部、非を認めており(少なくとも、契約者に告げずに建築を続行したのは問題です)、契約を解除して頭金を返却するか、内装をアップグレードした上で広めのワンルーム物件として受け入れるか、の選択肢を提供しています。

K氏は弁護士と相談中とのことですが、裁判をするにしても訴訟費用と時間がかかります。

なお、当該物件の内部専有面積は42㎡とのことですが、シドニーでは1LDKとして許可される最少面積は50㎡です。本件では、購入前に専門家に相談していれば、何かがおかしいということは明らかだったとも言えます。

シドニー(NSW州)での最低専有面積(バルコニーを含まない)は以下のとおりです。日本のワンルームのような20㎡ほどの物件は存在しないため、投資金額はどうしても高くなりがちです。

  • 35m2 for studio (ワンルーム)
  • 50m2 for 1 bedroom
  • 70m2 for 2 bedroom
  • 90m2 for 3 bedroom


当初予定より部屋の数が一つ少ないというのにK氏はショックを受けたようですが、他にもパンフレットで説明されていたグレードとの違いを指摘しています。ご参考までに、比較写真を以下に紹介します。

他にいくつも物件を保有しており、一つくらい失敗しても大した問題ではないという方は別として、やはり完成後の新築物件を内覧したうえで購入契約を結ぶほうが安全です。完成前に完売してしまうようなブーム期を避けるということでもあります。

パンフレットのイメージ

 完成時の実際
おそらく向かい建物とのセットバックの関係で
バルコニーは縮小。キッチンも別タイプに

パンフレットのイメージ
 高級ホテルのようなバスルームになるはずが、

完成時の実際
普通のタイル張り、シャワーもシンプルに。
ただし、こうした内装変更がありうることは、通常、契約書にも明記されています。
Source: Domain

2015/10/01

割安の郊外物件に投資するリスク

シドニーの都心から30~40km離れた周縁地域では、オークション成約率が50%にまで低下したと報告されています。どんな地区でも、どんな物件でも売れるような熱が冷め始めたことは確かなようです。

この点から、将来の投資にあたっての示唆を見出すとすれば、たとえ人口増加が続いているとしても、周縁地域から先に投資熱が冷め始めるという点は留意しておくべきと思います。

通常、こうした周縁地域は、価格が上がり始める時期も後れを取ることが多いため(都心近くの住宅が手が出ないほど高額になってから、ようやく周縁部が注目される)、結局、値上がり局面の期間が短いということになります。

住宅を探すにあたっては、できることなら、より勤務地に近い場所、より便利な場所に住みたいと考えるのが自然な感情です。予算の都合でそれが叶わない場合、1駅、2駅遠い地区を検討し、それでもダメならさらに遠方を、という順序で検討するケースがほとんどと思います。

都心近くでも、街の雰囲気や治安によって、必ずしも郊外より高いとは限りませんが、基本的には、価格も家賃もまず都心近くのエリアで上昇し、周辺に波及していくのが通常です。

割安と感じられる価格が形成されているのは、それなりの理由があるはずです。周縁地域や地方の小規模都市で「一発当てる」ことを狙う場合は、他の大勢のマーケット参加者がまだ気付いていないポテンシャルを見抜く必要があると思います。

電車の新線が開通する、新駅ができるというのが典型的ですが、大当たりを狙うなら、こうした話が住宅価格に織り込まれていない段階で動く必要があります。

その場合、大きなリターンを狙う代わりに、新線が計画倒れに終わるリスク、開通が遅れるリスク、駅や線路の位置が当初計画と変わるリスクを取ることとなります。

一方、こうした計画の実施がかなり確実になってから参入する場合、まだアップサイドは残されていると思われますが(騒音問題などの不確実要素の裏返し)、リスクを取って初期に参入した投資家や、たまたま昔からそこに住宅を持っていた人に比べて、リターンは少なくなると考えられます。

なお、真の初期参入者は、住宅の買い手ではなく、そこで広大な土地を仕入れて、期が熟すのを何年も待っていたディベロパー(住宅の開発事業者)です。

オーストラリアでは、都市部の鉄道はたいてい州政府が運営しています。ディベロパーは、政権交代などで新線の計画が白紙撤回された場合、買い手のつかない広大な土地を持てあますリスクを負っています。その一方で、プロジェクトが無事に完遂されれば、リターンも大きく取ることができます。

住宅の購入者も、将来、予想通りに街が発展すればリターンは狙えると思いますが、ディベロパーが初期参入者として一定のリターンを取りますから、過剰な期待は禁物です。