2015/11/25

どの価格帯の物件を狙うべきか

以下は、主要都市各地区の平均的な住宅価格をもとに、価格上位25%、中間50%、下位25%と、3つの価格帯に区分し、過去10数年間で、それぞれどのような値動きだったかを示したグラフです。(オーストラリア主要都市全体の数値)

Source: propertyupdate.com.au

住宅価格の高い地区(suburb)では、値上がり期の上昇幅が大きい代わりに、値下がり期の下落幅も大きい、つまりボラティリティが高めである傾向が表れています。(2003年頃は低価格帯がキャッチアップを演じたようですが)

逆に、価格の低い地区では、値上がり期の上昇幅が比較的小さく、値下がり期は下落幅も小さい傾向が分かります。

そして、以下は、2015年10月までの12か月間の、各都市の価格帯ごとの住宅価格の値動きです。

Source: propertyupdate.com.au

ブームに沸いたシドニー、メルボルンでは、上位の価格帯ほど、上昇幅が大きくなっています。
過去の値動きに倣えば、典型的な上昇局面のパターンです。

一方、値下がりしたパース(天然資源産業が柱)では、高価格帯ほど下落幅が大きく、これも過去の値動きに倣ったものとなっています。

高価格帯のマーケットでは、資金に余裕のある投資家とともに、そこに住むためなら追加料金も支払える高所得の実需層の需要もあるため、上昇局面では価格が上がりやすいと言われています。目下の東京都心の状況でも、これは当てはまりそうです。

一方、低価格帯のマーケットでは、比較的低所得の実需層がメインとなるようですが、他の地区と比べて価格が低いことが購入の主な動機であるため、上昇局面では価格を押し上げる力が弱いと言われています。
もっとも、この価格帯では、投資家層の参戦がもともと少ないため、価格下落局面でも振れ幅が小さいと言えそうです。

過去の傾向が示唆するこれからの動きですが、
シドニー、メルボルンが下落局面に入った場合、高価格帯の物件ほど、値下がり幅も大きくなるおそれがあります。これから参入を検討している場合は注意が必要です。

ブリスベンでは、中間の価格帯が直近では一番強かったようです。投資家(特に海外)からの注目度が低かったため、実需層が中間価格帯のマーケットをけん引していたと考えられます。

もっとも、これから本格的に上昇局面を迎えた場合、過去の値動きに倣うなら、高価格帯の物件が上昇幅を伸ばす可能性があります。

これまでシドニー、メルボルンに投じられていた資金がブリスベンに向かった場合、シドニー、メルボルンとの価格差も考慮すれば、ブリスベンの上位25%が投資ターゲットとなる可能性が高いです。

もっとも、直近でシドニー、メルボルンの不動産が活況を呈したのは、サービス産業の比重が高く、雇用も多く生まれたことも要因です。

資源産業の景気が良かった時期であれば、パースやブリスベンに移住していた人々が、シドニー、メルボルンに留まり、過去に比べて人口の伸びも大きかったようです(住宅需要の増加)。

したがって、今後、より良いリターンを求めて、投資家の目は割安のブリスベンに向くかもしれませんが、雇用の増加、人口の増加の面でまだ不透明なところがあり、実需層の弱さがブリスベンの住宅価格の重しになるかもしれません。


2015/11/23

これから注目の世界の成長都市

世界80カ国に拠点を持つJLL(総合不動産サービス企業)が、都市の競争力に関するレポート「Globalisation and Competition: The New World of Cities」を公表しました。
元のレポートはこちらから。

ロンドン、ニューヨーク、パリ、東京、シンガポール、香港の6大都市を、'Established World Cities'(確立した世界都市)としています。都市インフラ、経済活動、人的資源などの総合的な指標で、別格という扱いです。

もっとも、今後10年間で他の都市が台頭し、この「6大都市」という枠は、「8大都市」や「10大都市」に拡大されると予測されています。この枠に新規に入る有力候補として、シドニー、ソウル、トロントが挙げられています。

また、近年、国際的な存在感を高めている'New World Cities'(新しい世界都市)として、以下の20都市が挙げられています。

コペンハーゲン
ウィーン
ミュンヘン
モントリオール
オスロ
ハンブルク
トロント
バルセロナ
ベルリン
バンクーバー
ボストン
メルボルン
シアトル
マイアミ
ブリスベン
オークランド
デンバー
ケープタウン
テルアビブ
サンチアゴ

オーストラリアからはメルボルン、ブリスベンの2都市が'New World Cities'に入っています。

従来は、シドニー、メルボルンの2大都市が有名でした。一方、ブリスベン都市圏の人口も200万人を超え、中長期的に人口増加が続く見込みで、これから世界的な認知度が高まりそうです。

近年、エコノミストやモノクルなどが主催する、世界の住みやすい都市ランキングでも、ブリスベンが取り上げられるようになりました。
従来はおそらく「調査対象外」の無名都市だったと思いますが、昨年のG20開催もあり、世界的に名前が売れつつあります。

なお、ブリスベンで2028年の夏季オリンピックを招致する動きがあり、州政府・市役所として正式に招致活動を行うか否か、2016年中に結論を出すようです。

シドニー、メルボルンでは過去に開催していること、また、現在のIOCのルールで7月~8月(オーストラリアでは冬)の開催が要件となっていることから、将来オーストラリアで開催する場合は、1年を通じて温暖なブリスベン・ゴールドコースト周辺しか選択肢がないと言われています。

また、上記リストのうち、トロント、バンクーバー、シアトル、マイアミ、メルボルン、オークランドは、海外からの投資資金の流入で、住宅価格が高騰しているとよく報じられています。6大都市と比べて市場規模が小さいため、沸騰しやすいと言えます。

特に途上国の富裕層は、将来の移住の可能性(子女の留学もその足掛かりと言われる)も視野に入れているため、英語圏で生活環境の良い都市が選好されるようです。

'Established World Cities''New World Cities'とは別に、存在感を高めている途上国の大都市が'Emerging World Cities'として挙げられています。分類は以下のとおりです。

その地位を確立しつつある都市
上海、北京

競争力ある巨大都市
イスタンブール
クアラルンプール
台北
メキシコシティ

機能的な新興都市
ドバイ
サンチアゴ
バンガロール
深圳

インフラ整備に課題を抱えるが、潜在力のある都市
ムンバイ
マニラ

ジャカルタ

マニラ、ジャカルタも中長期的な成長が魅力的ですが、個別物件の賃貸管理のリスクを勘案すると、我々がいずれ投資するなら、REITか、住宅やオフィスを開発・販売している企業に投資するかなというのが、現時点での感覚です。

人口が増えるということは、新規の住宅供給も相応に増えるということです。自分が購入する物件の将来の競争力がどうなるか、より好立地に高層マンションが林立しないか、都市の中心が移動しないか、など見極めが大切だと思います。

どの地区の人気が高まり住宅価格が上がるかは分からないが、とにかくどんどん住宅が建ち、買い手もいくらでもいるという状況が想定されるのであれば、住宅の売り手サイドへの投資も面白いと思います。住宅の売れない時期を乗り越えられる経営陣の先見性、企業体力があることが前提ですが。

2015/11/19

オーストラリア住宅価格予測--2015~2016年 (2015.10月現在)

豪4大銀行の一角ナショナル・オーストラリア銀行(NAB)の見通し(2015年10月現在)によると、今後、シドニー、メルボルンは急減速、2016年にはブリスベンが上昇率1位となりそうです。

予測値(年間上昇率)のイメージが示されたグラフは以下のとおりです。


NAB Quarterly Australian Residential Property Survey

ブリスベンが1位といっても、年率5%弱で、力強い上昇とまでは言えません。シドニーの次の値上がり都市はブリスベンと過去2年ほど言われてきましたが、NABの見通しでは、ブームにまではならないようです。

もっとも、上記グラフに表れた傾向が続けば、シドニー、メルボルンは2017年にはマイナス成長となる可能性があります。今後2年間で言えば、ブリスベンが最も堅調な値上がりが期待できそうです。
家賃収入4~5%+キャピタルゲイン5%であれば、それほど悪い数字ではありません。

ただし、アナリストが出すこうした予測は、現在の傾向が続いたらというシナリオを前提とします。世界経済に予想外のことが起こったり、可能性が低いと想定されていたことが実際に起こった場合、おそらく異なる結果となります。

例えば、オーストラリアの景気が想定以上に悪化し、移民流入(人口増加)も減速したり、あるいは逆に、途上国でキャピタルフライトが起き、特定の都市に資金が流れ込んだ場合は、この予測とは異なる結果となるでしょう。

ところで、同レポートでは、外国人投資家の動向も紹介されています。

以下のようにビクトリア州(メルボルン)では、売りに出された新築マンションのうち28.5%を外国人投資家が購入したようです。

NAB Quarterly Australian Residential Property Survey 

もっとも、この数値には、豪国籍(永住権)を持つ親族など、海外からの投資であることを当局に報告する義務のない他者名義で購入する「裏口」は含まれていないため、実態の数値はさらに高いと言われています。
(豪当局は、ようやく今年から捜査権限を国税庁に移管し、本格的に取り締まるようになりました。罰則も厳格化されています)

また、3か月前に比べて、クイーンズランド州(ブリスベン、ゴールドコースト)の数値が上昇し、NSW州(シドニー)を上回るに至りました。
まだ割安とされるブリスベン、ゴールドコーストに外国人投資家の目も向き始めたようです。

一方、日本でも「シドニーでは普通の戸建てが1億円」と報道され、オーストラリアの不動産はバブルではないか、大丈夫かと聞かれることもあります。

確かに、現状、適正価格よりは割高と言われていますが、「普通の戸建て」と言っても、平均的な敷地面積は400~600㎡あります。

今、東京の練馬区(平和台駅徒歩7分)で、175㎡の敷地で1億円で売りに出ている中古戸建が見当たりますが、平米単価で見れば、東京のほうがよほど高いです。
ただ、オーストラリアでは、戸建てもマンションも、ロットが大きいため、「戸当たり」で見た価格はどうしても高くなりがちです。

日本の1980年代後半のバブルでは、ピーク時、新宿の新築ワンルームが1億円で売れたと聞いています。専有面積20㎡程度と思いますが、平米単価500万円と、これこそが正真正銘のバブル価格です。

現在建築中の、目黒駅前のマンションが平米単価200万円程度のようです。好立地ではありますが、千代田区の番町や港区の麻布、赤坂と比べ、東京の一等地の中の一等地とまでは言えません。
それが平米200万円するのであれば、シドニーの価格も都市の規模に比して割高ではあるものの、バブルと喧伝されるほどではなかろうと思います。