メルボルンのドックランズ地区(Docklands)は、もともと船着き場、倉庫街があったエリアです。
近年、地元政府主導で再開発が行われ、新しいマンション群や飲食施設などが建設されています。
近年、地元政府主導で再開発が行われ、新しいマンション群や飲食施設などが建設されています。
図の中心がドックランズ地区。
トラムに乗れば市中心部への移動も便利だが…
地図出典:Google map
従来は住宅地区とは認識されていなかったものの、市の中心部ほど近くに位置していることから、利便性の面でポテンシャルのある投資地区とされていました。
近年、およそ20階建てのマンションが建設されるたびに、特に中国系の投資家が先を争って購入していたようです。
モダンなマンションが増えていき、特に海外からの投資熱は高まっていたものの、新規供給が多すぎて空室率が高い、実際のキャピタルゲインがほとんどなかった、と不動産関連の各種メディアでは投資先としては疑問視されていた地区でもあります。
先日、筆者も現地に行ってみましたが、午後9時ごろで、マンション群の明かりは1/3も灯いていない状況でした。
ところで、不動産調査会社などが発表している地区ごとの空室率(vacancy rate)は、賃貸募集のデータを基礎にしているため、オーナーが敢えて空室のままにしている(テナントを募集していない)物件は空室率にカウントされていません。
Docklands地区の空室率は手元のデータでは5.7%となっています。しかし、地元の人の実感としては、誰も住んでいないという意味での空室率はこれよりもはるかに高かったようです。
もっとも、これまでこうした話はイメージ、噂話のレベルでしたが、ABCニュース(オーストラリアでのNHK)で、民間団体が実施した実態調査の結果が報じられました。
1年間を通じた水道の利用状況から、実質的な空室(空き家)を調査したというものです。
これによると、Docklands地区では、17%が完全に空室(水道の利用が年間でゼロ)、さらに10%がほとんど利用されていないことが判明しました。
これまでも外国人投資家が購入しても、貸し出していない部屋が多いというのはメディアでも報じられ、誰しもそういうイメージは持っていました。今回は、データで裏付けられた形です。
オーストラリア国外在住の外国人でも、新築物件に関しては制限なく購入できます。これは、人口の増加が続くオーストラリアにおいて、外国資金で新規に住宅を供給するための、オーストラリアなりの知恵です。
人口の伸び(年率1.5%程度)に住宅の新規供給が追い付かないとなると、低所得者用の住宅など、政府が税金を使って公営住宅を作り、運営しないといけません。
そこで、住宅供給、運営は民間に任せる、できれば海外の資金も活用するという発想で、外国人投資家に門戸を開放しているのです。
これは、不動産投資家は当然、家賃収入を得るために貸し出しをするだろうと、オーストラリア人の発想を基礎としています。(日本でも通常そうですが)
ところが、多くの中国系の投資家の発想は異なっていたようです。
中国でも地方部でマンションが林立するゴーストタウンがたくさんできているというニュースがあるように、オーストラリアでの投資行動に限らず、彼らの本国でも、購入しても誰も住んでいないようなマンションはたくさんあります。
中国系投資家にとっては、マンション投資は、金(ゴールド)の現物投資に似た感覚の人も多いようです。つまり、キャピタルゲイン、資産の保全、海外へ資産の分散が主な目的で、インカムには関心が薄いのです。
こうした発想の投資家が市場に影響力を持っているうちは、家賃収入の利回りが低下しても関係がないため、まだ値段が上がると判断すれば、どんどん買ってくるでしょう。
他人に貸すと傷んでしまって価値が下がると考える人もいれば、「いざ」というときのために、海外に自分が逃げ込める場所を確保しておきたい、いつでも行けるように空室のまま置いておきたい、という発想の人もいるのでしょう。
オーストラリアの住民に住宅を供給するために外国人投資家の力を借りるという発想は、今回の調査結果によるとあまり上手くいっていない部分もあるようです。全国的に報道されたことで、これから国会でも議論されるはずです。
また、実際に住んでいる人が少ないとなると、人口増加を見込んでの商業施設の開発も計画通りには進みません。街が便利になって、活気が出ることでさらに移り住んでくる人が増えるという好循環も起こらず、地区の開発計画全体が頓挫するリスクが高まります。
こうしたリスクは、途上国の大規模開発案件でも同様でしょう。
これからは、オーナーが住んでいない、貸し出しもされていないという物件には高い税金が課されるなど、政府が何らかの手を打つことも想定されます。
そうなると、これまで空き家のまま放置されていた物件が多い地区では、一気に賃貸募集が増え、家賃の値崩れが起こりそうです。
また、現行の制度では、オーストラリア国外在住の外国人は、中古物件を購入できません。つまり、外国人は自分が買った物件(売るときには中古となっている)を外国人には売れないということです。
外国人投資家が多い地区で買ってしまうと、いざ自分が売りたいというときに、買い手が見つかりにくいというリスクや、外国人投資家が資本を引き上げたときに一気に値崩れを起こすリスクが高いという点に注意が必要です。
リスク低減のためには、外国人投資家を対象に熱心に売り込みが行われてきた地区(既に値が吊り上っている地区)では買わないということです。
抜け目ない投資家としては、「既に2倍に上がった」というのは、「これから買っても値上がり余地は少ないかもしれない」、「値下がりリスクが高いかもしれない」といった読み替えが必要です。
0 件のコメント :
コメントを投稿