このところ、大手の金融機関、投資銀行がシドニー住宅市場へ警鐘を鳴らす頻度が増えました。
適正な住宅価格に比べ、ゴールドマンサックス(米投資銀行)によると20%割高、バークレイズ銀行(英)によると14%割高とのことです。ソース記事(ブルームバーグ)はこちら
また、それとは別に、モルガンスタンレー(米投資銀行)もオーストラリアの不動産市場はピークに達したと表明しています。
「シドニー住宅市場はバブルだ」と言われることもありますが、ゴールドマンサックスの主張する20%程度の割高であれば、バブルとまでは言えないのではないでしょうか。
過去3年間で45%上昇というのは相当な伸びですが、2012年時点の価格が割安だったという要因もあります。現在はオーバーシュート(過熱)局面であろうと考えます。
いずれにせよ、投資家としては、今のシドニー市場にこれから参入するのは得策とは言えません。そこで、次に参入するならいつが適切か、以下のシナリオ(ソフトランディング)をもとに検討します。
- 2015年現在は適正価格より20%割高
- 2016年は上昇率が5%に鈍化
- 2017年、2018年は、年5%下落
- 2019年以降は横ばい
- 潜在的な「適正価格」は毎年4%上昇
「適正価格」については、物価上昇(インフレ)率2~3%、実質賃金伸び1.5%、人口増加2%(大都市圏)を考慮すれば、基本的に上昇が続くと想定されますが、少し弱めに年4%上昇として検討します。
過去数十年のデータでは、住宅市場全体を見ると、年平均7%で価格が上昇してきたようです。もっとも、直近では資源ブームによる好景気、その前は高金利(物価高)、共稼ぎ世帯の増加(世帯収入増)、ローン借り入れの増加という、住宅価格を押し上げる明確な要因がありました。
これから当面は低金利、資源価格の低迷、世帯収入や借り入れは微増ということで、年7%ペースでの上昇は続かない、せいぜい年5%程度が妥当との意見が大勢です。
なお、我々が実際に投資する際には、住民の所得が平均以上に伸びており、さらに人口増加による住宅価格の上昇圧力を受けやすい(新規供給が需要に追い付かない)地区を選定しています。
2012年のシドニー住宅の実勢市場価格を100とし、2015年の価格を145(45%上昇)として、上記のシナリオをあてはめたものが下表です。(筆者作成)
これをグラフ化したイメージは以下のとおりです。
この試算を前提とすると、今回のシドニー住宅ブームが始まった2012年は、適正価格より7%割安であったと言えます。
また、これから徐々に住宅価格が落ち着き、物価や賃金の上昇が概ね現状どおり続くと仮定すると、2019年には市場価格が適正価格を下回り、2020年には2012年当時と同じような状況となりそうです。
当面は東京の不動産市場の活況に乗っておき、オリンピック頃を契機に、シドニー不動産に乗り換えるという戦略も考えられます。
なお、今回のシドニー市場の上昇局面がさらに続き、本当にバブルと言える状況になった場合、あるいは物価、賃金の伸びが想定以上に低下した場合は、調整期間が長引き、割安感が出るまでの時期が後にずれると思われます。
過去の株や不動産バブルの研究によると、バブルが発生するためには何らかの「神話」が必要なようです。
「地価は絶対に下がらない」「IT革命」「新興国経済は先進国の停滞と切り離されている」など、価格が上がり続ける理屈を多くの専門家が提唱し、一般の人々もそれを確信するようになる必要があります。
少し前に大幅に下落した中国株も、「政府が下落を容認しないはず」と多くの人が信じていたようです。
こうした「神話」に当初は懐疑的だった人、投資に縁遠いタイプの人(最後の買い手)が、周りの知人も儲けていると聞き、ついに我慢できずに参入した時点が、バブルの最終局面です。
バブルの時期には、みな合理的な行動をしているつもりであり(投資していない人のほうがバカにされる)、さらなる価格上昇が行動の正しさを裏付けるため、それがバブルかどうかはバブル発生中には通常気づきません。
崩壊した後で、「あれはバブルであった」と初めて一般に認識されるようです。
昭和の株、不動産バブルのときは、価格が下がり始めた際も、「これは調整であって、すぐにまた上がりはじめる」と考えていた人も多かったと聞きます。
目下のシドニー住宅市場の場合、まだ価格は下がっていませんが、既に「バブルだ」「割高だ」と多方面から声があがっています。一般の住民、投資家も、このペースで価格が上がり続けると信じている人はほとんどいません。バブル相場の典型的な要素が欠けているようです。
なお、豪国内ではシドニー市況が割高であることは「常識」と言えますが、かく乱要因としては、人民元建て、米ドル建てで換算すると、そこまで割高になっていないことです。特に中国から大量の資金が流入すると、人口2400万人に過ぎないオーストラリアには相当な影響を与えます。
豪金融当局も不動産投資向けローンの増加に歯止めをかけるよう指導しており、少なくとも国内要因では、過熱感は収まりつつあります。
もっとも、貸出総量の増加速度を緩やかにするという趣旨であって、前年比で減少させるという趣旨の指導ではないため、相場のクラッシュにつながるとは考えられていません。
なお、シドニー、メルボルンの不動産市場が沈静化すれば、豪中央銀行は心置きなく追加利下げができると言われています。為替を扱われている方は、この点も留意すべきと思います。
今回は本当のバブルには至らず、ブームのレベルで幕を閉じそうです。現在は資源価格も低迷しており、オーストラリア経済がどこまでも成長するといった「神話」を描くには至りませんでした。
もっとも、次回のシドニー住宅ブームと、資源価格上昇のタイミングが重なった時、正真正銘の住宅バブルが発生するかもしれません。ただ、資源価格が要因となる場合、2000年代半ば頃の実績から考えると、ブリスベン、パースのほうが爆発力がありそうです。
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