2015/09/15

シドニー住宅市場の熱さの度合い

豪不動産マーケットの「熱さ」の尺度となるオークション成約率をみると、シドニー住宅市場の鎮静化の兆しが表れています。
以下はシドニーの地域別のオークション成約率です。今年6月から8月までの推移から、全体として熱が冷めている様子が見てとれます。


 特に、シドニー西部(West)、南西部(South West)での成約率が大幅に低下しています。これらの地域は都心からも距離があり、昔から低所得層が多いとされるエリアで、(当該エリアとしては相当な価格まで上がってしまい)割安な物件を狙う域外からの投資家の熱が冷め始めたこと、金融機関が投資用ローンを絞り始めたことが、オークション成約率低下の要因と分析されています。言い換えると、地元の実需層だけでは買い支えることができないマーケットだと言えます。

オークションで住宅を売却する場合、売り手が事前に設定した最低落札額を超えた場合のみ、オークションでの落札に至ります。(いわゆる競り売り)

需要の強いマーケットでは、複数の買い手が競って値を吊り上げ、最低落札額を大幅に上回る価格で落札されることがあります。
一方で、売り手が強気の額を設定したものの、買い手側がそこまで払いたくないという市況では、オークション成約率が低下します。

なお、オークションで成約に至らなかった場合、売り手は別の期日に再度オークションを実施するか、当日に最も高い値を提示した買い手候補者と個別に交渉することとなります。

概ね、成約率が80%を超えるとかなり需要が強い市況(売り手優位)、70%でも売り手にとって良好な市況、5060%で需給バランスの取れた市況と言われています。
ただし、伝統的に、シドニー、メルボルンでは高め、ブリスベンでは低めであることが通常です。シドニーで60%というのは弱い数字ですが、ブリスベンで60%なら悪くない数字です。

シドニーでは一時期、90%に達していたこともありました。オークションに出るのは優良物件ばかりとは限りませんから、成約率90%というのは、ほとんど何でも買われているような状況です。

今回のシドニーブームは、都心に近いエリア(特にInner West)が上昇を牽引し、徐々に割安と思われる周辺地域へ価格上昇の波が広がっていきました。西部、南西部の需要の弱さを考えると、価格が下がり始めるのは、上昇局面とは逆に、これら周辺地域が最初となりそうです。

一方、歴史的に裕福な層に好まれるLower North、近年若い年齢層(なかでも金融関係、弁護士、会計士などの専門職タイプ)の人気が急上昇したInner Westでは高い成約率を保っています。これらの地域では、底堅い需要が見込める点で投資家の人気も高く、また、実需層も十分な購買力を持っています。

以上は、近年、東京でも都心に近いほど地価やマンション価格が上昇している状況と似ています。東京のマーケットが下落局面に入った時、都心は価格調整があっても下支えされそうですが、周辺地区では近年の上昇分を完全に打ち消す下落になるかもしれません。

確かに、周辺地域でも価値が見直され、住宅価格が大幅に伸びることはあります。東京でも、利便性が大幅に改善された武蔵小杉の例があります。

もっとも、投資としてこれを狙うのはなかなか難しいです。公的機関や企業が新たな路線、駅の構想を発表したところで、本当に実現するか、いつ実現するか保証はありません。

ブリスベンでも、州政府の政権交代を機に、大規模な地下トンネル(バス・地下鉄)計画が白紙撤回されました。この計画を見込んで投資していた人がいたとしたら、大きな痛手です。

また、将来のプロジェクトの完成に賭ける場合、住宅価格が上がってしまう前に(利便性の向上が誰の目にも明らかになる前に)参入する必要もあります。

大規模プロジェクトの成功に賭けるという投資手法を、政治リスクも含めた「土地勘」のない海外でやるのは非常にリスクが高いのではないでしょうか。
「土地勘」のある人であれば、政治や企業の動向など、雲行きが怪しくなった時点で早めに撤退するなど、軌道修正もできると思いますが、通常、海外からの不動差投資では、買ったままになるケースが多いはずです。

政府が特段のプロジェクトを実施しなくても、自然に人々が集まり、追加料金を支払ってでもそこに住みたいと思わせるエリア、企業が自主的にオフィスや店舗、住宅の開発に資金を投じているエリアのほうが、投資先として安定感が高いと言えます。

現状のシドニーで言うと、Inner WestLower Northなどの地域ということになります。

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