2015/12/21

フルローンの開始で、東京のワンルームは高騰が続きそう

東京で賃貸管理をお願いしている不動産会社の方の情報ですが、同社が提携している銀行で、ワンルームマンション(区分)にフルローンを出すようになったそうです。(東京・神奈川圏)

ワンルーム投資の場合、頭金1割入れても、フルローン(頭金なし)でも、80万円程度の違いしかないため、銀行側のリスクは大して変わらないとの考えのようです。

不動産価格は、景気の状況や金利水準もさることながら、銀行の融資姿勢に大きく左右されると言われています。これは世界共通のことです。

我々もそこまで不動産投資歴が長いわけではありませんが、敷地付きの一棟物ではなく、区分ワンルームにフルローンというのは、これまで聞いたことがありません。それも、ノンバンクではなく、銀行です。

購入諸経費の60万円程度の資金があれば、800万円くらいの中古ワンルームが買えることになります。

もっとも、上記のフルローンの話は、同社の仲介で購入する場合に限定されています。ローンの返済が滞りかねない物件(家賃収入に比して価格が高すぎる物件)を顧客に勧めることはないと、銀行側に信頼されてのことです。

また、現時点では、年収500万円以上のサラリーマン限定とのことです。頭金(自己資金)を入れる場合と比べて月々の返済額が増えますから、銀行側としては、念のためサラリーから補てんする可能性も見ています。

今のところは限定された動きですが、ライバル行が追随してフルローンに取り組んだり、金利を下げたりするかもしれません。

これまでは投資用資金が最低140万円貯まらないと物件を購入できなかったのが、60万円貯まった時点で投資を検討できるようになります。

そうなると、物件を追加したい投資家、初めてワンルームを購入したい投資家の需要掘り起こしにつながりそうです。

銀行が低金利、低い自己資金比率で、高所得層以外にも融資を続ける限り、不動産価格が上がり続けるというのは歴史が教えるところです。(その期間が長いほど、逆流の痛みも大きくなりますが)

銀行が融資姿勢を変えない限り、当面は東京のワンルームマンションの価格は上昇(少なくとも高止まり)が続きそうです。

政府も物価上昇を指向していること、ワンルーム価格が高騰しても実需層への影響は少ないこと(庶民が住宅を買えなくなったとの不満には直結しない)、ワンルーム融資は金融機関の経営の安定性を損ねるほどの規模ではないことから、監督官庁がすぐに水を差すということはないと考えます。

2015/12/17

2025年の都市の競争力ランキング

英経済誌エコノミストのシンクタンク、Economist Intelligence Unitが、2025年時点で予測される都市の競争力ランキング"Hot spots 2025"を発表しています。

経済の強さに大きな比重が置かれていますが、都市インフラ、人的資源、文化活動、生活環境など、32項目で、世界120都市を採点したものです。

ランキング上位は以下の通りです。

1 ニューヨーク
2 ロンドン
3 シンガポール
4 香港
5 東京
6 シドニー
7 パリ
8 ストックホルム
9 シカゴ
10 トロント
11 台北
11 チューリッヒ
13 アムステルダム
14 ワシントン
15 コペンハーゲン
15 ソウル
17 ロサンゼルス
18 サンフランシスコ
19 ボストン
20 フランクフルト
20 メルボルン

上位5位の顔ぶれは、2015年現在の構図とそれほど変わりません。

注目すべきは、シドニーが6位にランクされていることです。今から10年後には、パリと同等か、それを上回る存在感を発揮するようになると予測されています。

近年のシドニー不動産の高騰は、シドニーが、かつてのオセアニアの地方都市から、世界的な大都市に変わりつつあることを織り込む動きだとすれば、納得できます。一等地どうしで平米単価を比べれば、まだ、シドニーはパリより安いはずです。

他にオーストラリアからは、メルボルンが20位に入っています。ロサンゼルスやサンフランシスコ、ドイツで最上位のフランクフルトに並ぶ都市に成長すると予測されています。

なお、オーストラリアの他都市は、調査対象に入っていません。世界的に知られた都市としては、まだ認知されていないようです。
人口200万人を超え、住みやすい都市ランキングでも取り上げられるようになったブリスベンが、ゆくゆくは調査対象に含まれるだろうと思います。

2025年予測では、東京は5位と、シンガポール、香港に追い越される予測となっています。

総合得点では、ニューヨーク 75.7、ロンドン 73.1、シンガポール 71.2、香港 68.1、東京 68.0、シドニー 67.3、パリ 67.0です。

上位2都市が頭抜けていて、それに次いでシンガポール、少し差を開けられて香港以下のグループが続いている構図です。

成長性という点では、これからの10年で香港、東京、パリと並ぶ世界的大都市になると予測されているシドニーが面白いと思います。今後2~3年は住宅価格も調整局面を迎えそうですので、その間に品定めをしておくといいかもしれません。

2015/12/10

2016年はディベロパー受難の年に

シドニー市場の大幅下落は予測されていないものの、これまで活況に沸いたディベロパーにとっては難しい局面を迎えそうです。

第一に売却価格の低下、第二にキャンセル続出の可能性です。

売却価格の低下
まず、シドニー、メルボルンの不動産熱が冷め始めており、想定していた価格で売りさばけない可能性があります。

特に、不動産価格が既に高騰していた2015年に土地を仕入れたディベロパーについては、業界からも心配する声が挙がっているようです。

なお、オーストラリアの大手ディベロパーに関しては、土地を仕入れて大規模マンションの建築許可を取り、そのうえで外国資本のディベロパー(主に中国本土)に高値で転売しているとの事例がよく報じられていました。(いわば土地ころがし)

中国系のディベロパーは、自国の投資家に売りさばく自信があるようですが、大丈夫でしょうか。かつてジャパンマネーも、ニューヨークやハワイ、ゴールドコーストでの苦い経験がありますが。

キャンセル続出の可能性
次に、プレビルド(完成前)の契約で売買契約を結んでいた場合、買い手(特に投資家)が決済に辿りつけない可能性が指摘されています。

監督機関の指導もあり、ここ数か月来、金融機関が消極的になりました。投資用に関しては、大手金融機関では頭金2割以上が必要です。

以前は追加の保証料を支払えば、頭金5%でも購入できたため、差額の現金を用意する必要が生じる投資家が大勢いると言われています。

例えば、2016年にマンションが完成した時点で50万ドル(4500万円)で購入するという約束で、2014年時点で建築開始前に契約したとします。

これまでの一般的なケースは、1割の頭金5万ドル(450万円)を自分で用意し、残額45万ドルは銀行から借りるというものです。2014年時点では、金融機関もそれで事前了解していたと思います。

しかし、金融機関の事前審査は、その時点での参考に過ぎません。当時の条件のままで、2016年に融資を実行する義務は金融機関にはありません。

現在は融資基準が変更されたため、2016年に決済を行う際、銀行からは8割(40万ドル)までしか借りられません。残りの1割、5万ドル(450万円)の現金を決済期日までに捻出する必要があります。

実際にはさらに厳しく、銀行が融資するのは、契約書に記載された購入金額の8割ではなく、銀行が査定した資産価値の8割です。
シドニー市場の軟化もあり、仮に資産価値40万ドルと査定されると、その8割の32万ドルしか融資を受けられません。

このまま50万ドルの契約を決済するためには、手付の5万ドルとは別に、13万ドル(1200万円弱)の自己資金を用意する必要があります。

このため、追加資金を用意できずに契約不履行(手付金没収)となるケース、あるいは、あえて手付金を放棄して契約から抜けるケース(40万ドルの価値しかない物件に50万ドル支払うくらいなら、手付5万ドルを放棄するとの判断)が続出するのではと言われています。

買い手が撤退した場合、ディベロパーは手付分は徴収できますが、当初予定していた売却代金を受け取ることができません。通常、ディベロパーも銀行から融資を受けているため、返済に行き詰るリスクが指摘されています。

2007年頃までの東京の不動産プチバブルでも、新興ディベロパーがもてはやされた時期がありました。シドニーも似たような道をたどるかもしれません。

バブルの歴史を研究した経済学者ガルブレイスによると、ブーム期には「革命児」としてスター扱いされた人物が、バブル崩壊とともに断罪されるというのは、大昔から全く変わっていないとのことです。

また、先日、創業者一代で売買・賃貸仲介ネットワークを築いた企業が、オーストラリアの不動産仲介業としては初となる株式上場を果たしました。(ディベロパーはいくつか上場企業があります)
こうした象徴的な出来事があると、ひとつの時代の終わりも近いと言われることもあります。

2015/12/09

オーストラリア不動産の買いやすさ

シドニーを中心に、近年の住宅価格の高騰が報じられているところです。

オーストラリア主要都市の平均値ですが、頭金が貯まるまでの期間、住宅ローン返済や家賃支払いの負担感の推移を示したのが以下のグラフです。

Source: propertyupdate.com.au

まず。グラフの赤線(右軸)です。住宅価格の20%の頭金を貯めるために、平均的な可処分所得の世帯で、約7年かかることが示されています。

これは過去20数年間で見ても最も長い期間ですが、所得の伸び以上に、住宅価格が高騰したことが示唆されています。

一方、グラフの青線(左軸)、ローン返済の負担については、可処分所得のうち26~27%となっています(頭金2割、ローン8割を前提)。これは過去と比べても平均的な数値です。
住宅価格は高騰したものの、住宅ローン(不動産投資ローン)金利が4~4.5%と、オーストラリアとしては過去最低水準にあることが要因です。

2008年頃は返済比率が35%を超えていますが、当時のローン金利は8~9%という水準でした。(その代わり、定期預金でも6~7%くらいの利息が付いていましたが)

住宅価格の高騰で、2割の頭金を用意するためのハードルは上がりましたが、ローン金利の低下で、月々の返済自体はそれほど苦しくないというのが現状です。

若い人にとっては頭金を用意し不動産マーケットに参入するのが大変ですが、既に購入を済ませた層にとっては、金利が急騰しない限り、ローン破綻が増えることはなさそうです。

現行水準の金利が続く限り、オーストラリアの不動産マーケットが崩壊するリスクもまずないと言えます(シドニーでは調整局面があるかもしれません)。
ローン返済を続けられるのであれば、あえて安値で投げ売りする必要もないわけです。

なお、変動金利と固定金利のどちらを選択するかについては、難しいところです。後で振り返ってみれば、間違った選択をする人が多いと言われています。

近年では、最も金利の高かった2008年ごろが、固定金利を選んだ人の割合が最も高かったそうです。金利はさらに上がるに違いない、さらに上がったら大変、と考える人が多かったと聞きます。

一方、歴史的な低金利の現在、固定金利を選択する人はかなり減っていると聞きます。さらに下がる可能性が高いというのが理由のようです。

株式市場で、ピークで買って、底値で売ってしまう人が多いのと似ている気がします。

なお、「これから金利が上がる」と一般に知れ渡るころには、既に金融機関は固定金利を引き上げているはずで、金利が上がりそうになったら固定金利に切り替える、という戦術はあまり上手くいきそうにありません。

固定金利を選択し、その後に変動金利がさらに下がれば、悔しい思いをするかもしれません。もっとも、現行の固定金利でそれなりに満足できるのであれば、安心のための保険料を支払ったと考えて、変動金利より高めの金利でも良しとするのもアリだと思います。

また、グラフの濃い青線(左軸)は、家賃支払いの負担を示しています。現在、可処分所得の21%程度です。自宅を購入しローン返済をするのに比べて、5%程度負担が軽いことが分かります。

その代わり、住宅のキャピタルゲインやローン元本の目減りを享受することはできません。賃貸の場合は、その浮いた5%分で、年金基金の積み立てを増やす、株に投資する、投資用不動産を買うなど、資産形成を行う必要があると言われています。

手元資金に余裕があるからと生活水準を上げてしまうと、大変な老後が待っているとよく言われているところです。

2015/12/05

住宅は買うべきか、借りるべきか-その2

将来の住宅価格、家賃水準、住宅税制、ローン金利を正確に予測することは不可能なため、厳密にどちらが良いと結論を出すことはできませんが、以下の要因で、自分なら、日本では賃貸、オーストラリアでは自宅所有を選びます。

日本の賃貸メリット
・賃借人の保護が手厚い
 (よほどのことがなければ意に反して追い出されない。期間更新が原則
 一方、賃借人側からは、事前の申し出で、契約期間中でも退去可能)
・中長期で、家賃は低下傾向

日本の自宅所有デメリット
・住宅価格は低下傾向(都心の一部を除く)
・ローン金額が現在の住宅価格水準で確定
 (例えば、将来3千万円の価値に下がるかもしれない物件を買うために、今、4千万円のローンを組む必要がある)

オーストラリアの自宅所有メリット
・中長期で、住宅価格は上昇傾向
・ローン残債の重みは、物価上昇とともに実質的に目減り(その分、ローン金利が高いので、効果はある程度相殺されますが)
・中古市場が厚く、売却も容易(ただし、雇用者数の伸びている都市部)

オーストラリアの賃貸デメリット
・賃借人の保護が薄い(居住が保証されるのは、あくまでも契約期間のみ。更新の保証なし
 契約期間中に自己都合で退去の場合は、空室期間の家賃を補てんする義務あり)
・家賃は上昇傾向

資産運用コンサルタントの内藤忍氏の言うように、日本での自宅所有は「趣味」と捉える必要があろうかと思います。いわば高級外車を購入するようなもので、損得ではなく、精神的な満足感の話ということです。

一方、オーストラリアで賃貸住まいを続けるのは、特に老後は、かなり不安定な立場に追いやられることとなりそうです。
現行制度では、契約期間(通常、半年~1年単位)が終わるのを機に、大家が自分で住みたい(子どもに住ませたい)から退去してほしい、リノベーションでバリューアップしたいから退去してほしいという要求を拒むことはできません。

また、大家が当該物件を売却した場合、買い手も投資家であれば問題ありませんが、買い手が自分で住みたいと言うケースもありえます。

住宅ローン金利が4~4.5%のオーストラリアでは、目先のキャッシュフローだけを見れば賃貸のほうが有利です。

一方、賃貸に住む限り、住宅の値上がり益を享受することはできません。老後に向けた資産形成の点では、賃貸に住む場合は手元に残った資金を株などに投資し、住宅とは別の形で資産形成を行うことが不可欠と言われています。(想定利回りの点で、貯蓄だけでは追いつかないでしょう)

住宅ローンを組んでいる人に比べて、当面の余裕資金は多くなりますが、これを投資(資産形成)に回さず使ってしまった場合は、老後が大変になるという点で専門家の意見は一致しています。

現状のオーストラリアの年金制度は、一般に老後を迎えるころには自宅を所有している(残債もゼロ)という伝統的なライフスタイルを前提に設計されています。年金から家賃を支払うことは基本的に想定されていません。

現状では、以下のように、55歳以上の年齢層では、8割以上が自宅を所有しており(残債なしは6割少々)、賃貸住まいは15%ほどです。
若い世代ほど自宅の所有率は低く(賃貸率は高く)なっています。
Source: propertyupdate.com.au

現役時代に住宅を購入しなかった場合は、老後を過ごすための自宅を現金一括で購入できる資金、あるいは、年金+金融資産等からの収入で、問題なく家賃を払い続けられる状況を整えておく必要があります。

これができなかった場合、その個人の年金原資(オーストラリアは確定拠出型)を取り崩し、それが尽きた時点で高齢者向けの生活保護を受給することとなります。ゆとりある老後を送ることは困難です。

住宅を購入した場合は、ローンの返済という形で、いわば強制的に貯蓄(および不動産投資)をしているようなものと言われています。

確かに、いくら住宅価値が上がっても、自宅に住み続ける限り収入は生みません。ただし、中古住宅市場が大きいオーストラリアでは、売却することで、まとまった老後資金を手にすることもできます(全期間、自己使用の場合は、譲渡所得税は非課税)。売却で得た資金の一部で、小ぶりなマンションに住み替え、残りを老後資金に充てることも可能です。

オーストラリアの平均的な世帯の資産構成は以下のとおりです。不動産が半分強を占めています。これは二十数年前からあまり変わっていません。
ほかに株式が7.2%、年金基金が21.7%、その他(現預金、国債など)が19.4%です。

Source: propertyupdate.com.au

2015/12/03

毎月の手取り家賃があれば安心か

日本では、老後の年金代わりに、不動産投資に関心を持つ方が増えています。
ワンルームマンション1件で月5万円、2件で月10万円の収入を年金に加えて手にできると考えるなら、悪い話ではなさそうです。

毎月一定の金額が振り込まれるならと安心しがちですが、10年後、20年後の現実に即した状況が示されていることは稀です。

『お金持ちの教科書』の著者、加谷珪一氏がおっしゃるように、「安心」と「安全」を混同しないよう注意しなければいけません。みんなやっているなら「安心」、プロに任せれば「安心」、とは必ずしも言えません。むしろ、闇雲に「安心」を求めてしまうと、カモにされるということであります。

人口減少や高齢化の問題はひとまず置いておくとしても、建物の老朽化、間取りや設備の陳腐化による家賃の下落は織り込む必要があります。

新築マンションの供給が一切ストップすれば、古い物件でも家賃を維持できるとは思いますが、ディベロパーは、買い手がいる限り新築マンションを建て続けます。

例えば、年平均1%の家賃下落があったとして将来の家賃収入を試算し、それでも年金代わりとして満足な額だと確認できたなら、ひとまず安全と言えそうです。(加谷氏の言葉を借りれば、具体的な数値などを基に「安全」と確認できたなら、ようやく「安心」することができます。)

一方、その想定家賃から維持管理費を差し引き(老朽化に伴い、維持管理費は高くなる傾向があります)、ほとんど手元に残らないということであれば、年金としては当てにすることができません。

さらに一定の空室率、入退去に伴う修繕リフォーム費・客付手数料、また、修繕積立金が足りずに一時金を徴収される可能性も見込んでおく必要があります。

安定した賃貸経営を続けていくためには、手元に残った家賃収入を年金として全て使うことはできません。不測の事態に備えて、企業で言うところの、内部留保として蓄えておく必要があります。

我々の経験では、一度退去があると、空室損、クリーニング費等のオーナー負担分、客付手数料・広告費で、家賃3~4か月分くらいはロスが発生します。(23区内、礼金なしの場合)

「築20年を過ぎれば家賃は下がらない」と言われること(セールス・トーク?)もありますが、実際には、「築浅のころに比べて、下落速度が緩やかになる」です。立地、広さが同水準であれば、築20年と築40年で家賃が同じということはありません。

仮に築40年の物件で、築20年の物件と同じ家賃を取ろうと思えば、相当な改修費がかかるはずです。労せず実現できることではありません。また、区分所有では自分の意志でバリューアップできる範囲も限界があります。
投資効率の面では、下手にコストを掛けてバリューアップを図るより、家賃を少し下げてそのまま貸したほうが良かった、という事例も中にはあります。

なお、サブリース契約(業者借上げ)も考えられますが、オーナー側への提示家賃は、上記の維持管理費や空室損などを加味したうえで、サブリース業者の収益分を差し引いた金額となります。(そうでなければ業者もビジネスになりません)

なお、こうした業者側の取り分は、建物の建築費に乗せられている場合もあり、この場合、当初のオーナーへの提示家賃は高めに設定されます。オーストラリアでも同様の事例が報告されていますが、この家賃水準がずっと続くと勘違いしてしまうようです。

サブリース業者がテナントから受け取れる家賃水準が下落(あるいは空室率が上昇)すれば、オーナーへの提示家賃を切り下げるのも当然の成り行きです。サブリースの場合も、受け取り家賃の下落、サブリースを解約した場合(業者に提示された家賃に同意できない場合)にどう運営していくかも想定しておかないと、安心とは言えません。

長期に日本の不動産へ投資する場合、取れる家賃は当初がピークで、基本的に減少していくことを念頭に、投資計画を練る必要があろうかと思います。

一方、将来の家賃が下がる可能性が高い(少なくとも伸びる可能性が低い)代わりに、当初の表面利回りは世界の大都市と比べて相当に高いため、例えば10年ほどでキャッシュを貯めたい、短期間で複数物件を買い進めたいという向きには利用価値があろうかと思います。(まともな価格で転売できる見込みがあることが前提です)

なお、オーストラリアでは、築古物件でも、基本的に家賃は上昇を続けています。これは、建物の老朽化による家賃下落よりも、物価や賃金の伸び、人口増加による家賃相場全体の上昇のほうが速いためです。

オーストラリアの住宅投資では、当初の家賃収入の利回りは低く(現状、4~5%の表面利回り)、短期ではキャピタルゲインのほうに主眼が置かれています。
もっとも、中長期で保有することで、家賃の水準も徐々に切り上がり、家賃利回りの上昇も狙える投資であると言えます。


2015/12/01

豪不動産、キャピタルゲインの実際

オーストラリアの住宅価格調査会社CoreLogic RP Dataが、住宅の値上がり(値下がり)状況に関するデータを公表しています。これは、2015年4月~6月の売買実績を基にしたデータです。
(元の記事とレポートはこちら

オーストラリア全体では、購入時に比べて、値上がりしたケースが90.9%、値下がりしたケースが9.1%。

価格が2倍に値上がりしたケースも、全体の30.8%を占めています。

値上がり分の平均額はプラス$259,174(約2,300万円)、値下がり分の平均額はマイナス$65,585(約600万円)です。

なお、上記の数値は、同一物件の購入時と売却時の価格を単純に比較したもので、売買に係る諸経費やインフレ率などは考慮されていません。

(投資用の場合)家賃収入も併せないと最終的な収支は不明ですが、諸経費や譲渡税も考慮すれば、実質的な値上がり益はより少なく、値下がりによる損失はより大きくなるはずです。

なお、平均保有期間については、値上がりしたケースは9.9年。さらに、価格が2倍になったケースでは、16.4年。
一方、値下がりしたケースの平均保有期間は5.3年です。

単純化すれば、長期間保有しているほど値上がり益を享受できる可能性が高かったと言えます。長く保有していれば、いつかは住宅市況の値上がり局面に当たるときが来ます。また、中長期では、都市圏の拡大(人口増)や賃金の伸び、物価上昇率など、住宅価格を押し上げる要因が効いてくることもあるでしょう。

過去3年間で40%超の価格上昇が起きたシドニーでは、当該四半期の売却事例のうち、約98%が購入時と比べて値上がりを記録しています。値下がりケースは、戸建て2.2%、マンション(区分所有権)1.8%にすぎません。

Source: CoreLogic RP Data

シドニーでの値下がりのケースは、資金難などのため、購入後、すぐに売却せざるを得ない状況に追い込まれたケースだろうと推察します。また、マンションのプレビルド案件(完成前の購入)で、実勢価格より高い値段で契約してしまったというケースもありえます。

これまでシドニーでは、住宅さえ保有していれば、よほどのことがない限り、誰でも保有資産の価値を増やすことができたと言えます。

もっとも、現在のシドニーの価格で参入した人が売却を始める数年後には、値下がり案件の割合は、だいぶ違った数字になっているかもしれません。

11月末時点の価格データが出始めていますが、シドニーでもついに市場全体的に価格が下がり始めたとの報道もあります。

上記のデータで、シドニー以外では様相が異なります。
値下がり事例の割合は、メルボルンでは、戸建て3.5%、マンション10.5%。
ブリスベンでは、戸建て7.2%、マンション16.6%です。

これでもまだ、値上がり事例のほうが8割~9割と圧倒的に多いのですが、誰でもほぼ確実に儲かったとまでは言えません。

住宅需要と比べ供給がひっ迫していると言われるシドニーでは、戸建てもマンションもそれほど変わらずに値上がりしました。値下がりケースの割合で見ても、双方それほど変わりません。

一方、メルボルンやブリスベンでは、戸建てとマンションの差が顕著です。これらの都市でマンションに投資する場合は、当該エリアの需要と供給の見極めが大切です。工場や倉庫、農地だった用地の転用で、新築マンションがどんどん建つおそれのあるエリアもあります。

個人的には、戸建てとマンションの値段があまり変わらない郊外のエリア(土地が安く、マンション価格のうち建物分の割合が大きい)では、マンション投資はリスクが高いと考えます。

仮にそうしたエリアで投資する場合は、おそらく住民もファミリー層が多いはずで、戸建てを選ぶのが素直だと思いますが、戸建ては家賃利回りが低めであること、建物管理の手間がかかるというデメリットもあります。

エリアの選択については、大都市圏(各州都)とそれ以外の地方部の平均値を比べると明白です。
同調査によると、大都市圏(Capital City)は、戸建ての5.0%、マンションの8.4%が値下がりを記録。
地方部(Regional)は、戸建て12.5%、マンション23.8%です。

全般に、大都市で中長期的に物件を保有するのであれば、かなり高い割合でキャピタルゲインを狙えると言えますが、都心から離れたエリアや地方部で投資する場合、特にマンションには注意が必要です。