日本では、老後の年金代わりに、不動産投資に関心を持つ方が増えています。
ワンルームマンション1件で月5万円、2件で月10万円の収入を年金に加えて手にできると考えるなら、悪い話ではなさそうです。
毎月一定の金額が振り込まれるならと安心しがちですが、10年後、20年後の現実に即した状況が示されていることは稀です。
『お金持ちの教科書』の著者、加谷珪一氏がおっしゃるように、「安心」と「安全」を混同しないよう注意しなければいけません。みんなやっているなら「安心」、プロに任せれば「安心」、とは必ずしも言えません。むしろ、闇雲に「安心」を求めてしまうと、カモにされるということであります。
人口減少や高齢化の問題はひとまず置いておくとしても、建物の老朽化、間取りや設備の陳腐化による家賃の下落は織り込む必要があります。
新築マンションの供給が一切ストップすれば、古い物件でも家賃を維持できるとは思いますが、ディベロパーは、買い手がいる限り新築マンションを建て続けます。
例えば、年平均1%の家賃下落があったとして将来の家賃収入を試算し、それでも年金代わりとして満足な額だと確認できたなら、ひとまず安全と言えそうです。(加谷氏の言葉を借りれば、具体的な数値などを基に「安全」と確認できたなら、ようやく「安心」することができます。)
一方、その想定家賃から維持管理費を差し引き(老朽化に伴い、維持管理費は高くなる傾向があります)、ほとんど手元に残らないということであれば、年金としては当てにすることができません。
さらに一定の空室率、入退去に伴う修繕リフォーム費・客付手数料、また、修繕積立金が足りずに一時金を徴収される可能性も見込んでおく必要があります。
安定した賃貸経営を続けていくためには、手元に残った家賃収入を年金として全て使うことはできません。不測の事態に備えて、企業で言うところの、内部留保として蓄えておく必要があります。
我々の経験では、一度退去があると、空室損、クリーニング費等のオーナー負担分、客付手数料・広告費で、家賃3~4か月分くらいはロスが発生します。(23区内、礼金なしの場合)
「築20年を過ぎれば家賃は下がらない」と言われること(セールス・トーク?)もありますが、実際には、「築浅のころに比べて、下落速度が緩やかになる」です。立地、広さが同水準であれば、築20年と築40年で家賃が同じということはありません。
仮に築40年の物件で、築20年の物件と同じ家賃を取ろうと思えば、相当な改修費がかかるはずです。労せず実現できることではありません。また、区分所有では自分の意志でバリューアップできる範囲も限界があります。
投資効率の面では、下手にコストを掛けてバリューアップを図るより、家賃を少し下げてそのまま貸したほうが良かった、という事例も中にはあります。
なお、サブリース契約(業者借上げ)も考えられますが、オーナー側への提示家賃は、上記の維持管理費や空室損などを加味したうえで、サブリース業者の収益分を差し引いた金額となります。(そうでなければ業者もビジネスになりません)
なお、こうした業者側の取り分は、建物の建築費に乗せられている場合もあり、この場合、当初のオーナーへの提示家賃は高めに設定されます。オーストラリアでも同様の事例が報告されていますが、この家賃水準がずっと続くと勘違いしてしまうようです。
サブリース業者がテナントから受け取れる家賃水準が下落(あるいは空室率が上昇)すれば、オーナーへの提示家賃を切り下げるのも当然の成り行きです。サブリースの場合も、受け取り家賃の下落、サブリースを解約した場合(業者に提示された家賃に同意できない場合)にどう運営していくかも想定しておかないと、安心とは言えません。
長期に日本の不動産へ投資する場合、取れる家賃は当初がピークで、基本的に減少していくことを念頭に、投資計画を練る必要があろうかと思います。
一方、将来の家賃が下がる可能性が高い(少なくとも伸びる可能性が低い)代わりに、当初の表面利回りは世界の大都市と比べて相当に高いため、例えば10年ほどでキャッシュを貯めたい、短期間で複数物件を買い進めたいという向きには利用価値があろうかと思います。(まともな価格で転売できる見込みがあることが前提です)
なお、オーストラリアでは、築古物件でも、基本的に家賃は上昇を続けています。これは、建物の老朽化による家賃下落よりも、物価や賃金の伸び、人口増加による家賃相場全体の上昇のほうが速いためです。
オーストラリアの住宅投資では、当初の家賃収入の利回りは低く(現状、4~5%の表面利回り)、短期ではキャピタルゲインのほうに主眼が置かれています。
もっとも、中長期で保有することで、家賃の水準も徐々に切り上がり、家賃利回りの上昇も狙える投資であると言えます。
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