2015/06/30

オーストラリア、シドニー不動産はバブルか

シドニーの不動産マーケットは現在バブル状態と言われることがあります。

以下のグラフは政府統計局が公表した、各都市の住宅価格の推移です。

2008年からのデータで見ると、直近3年のシドニー(青線)の価格上昇は相当急激です。
(各都市、2008年の価格を100)

Source: propertyupdate.com.au

一方、時間軸をもう少し長くとって、2003年からの価格推移で見ると、以下のグラフのようになっています。(各都市、2003年の価格を100)

Source: propertyupdate.com.au

確かに、近年の値動きだけを見れば、シドニー(青線)が急上昇していますが、2003年との価格比では、他都市の後塵を拝しています。もう少し上昇が続けば、ようやくブリスベン、アデレードに追い付くという水準です。
パースやメルボルンにはまだ及びません。

2004年から2008年にかけて資源ブームの恩恵で住宅価格も上昇した他都市に比べ、当時は冴えなかったシドニーですが、ようやく今、その価値が見直され、他都市が過去10年に上昇した分を追いかけている局面であるとも言えます。

また、パース(黄色)を見ると、鉄鉱石産業の拠点都市として、資源ブームの2006年まですさまじい価格上昇が起きました。その後、資源ブームの終焉とともに、住宅価格も多少は下落していますが、それでも、バブル崩壊と言う程ではありません。

もっとも、ピーク時期に無理をしてローンを組んで投資した場合は、家賃収入の低迷も合せ、相当な衝撃を受けたと推察します。

資源価格の影響を受けやすいパースでは、住宅価格の上下動が見られますが、全体として見れば緩やかな上昇が続いています。資源価格の低迷が続く中でも、人口の増加が続き、価格を下支えしていると考えられます。

なお、パース都市圏は人口200万人規模です。資源産業のみに依存した小規模な地方都市では、ブーム終焉で住宅価格が半分に下落したエリアもあります。

中期で見たシドニー市場の立ち位置、また、他都市での不動産ブーム後の価格の推移から考えると、今後、シドニーの価格上昇がピークに達したとしても、大幅下落(もとの価格水準に戻る)ということはなさそうです。

せいぜい(これから訪れる)ピークから10%ほど下落し、しばらく横ばいが続くというのが穏当な予測だと考えます。ただし、物価上昇率が年2~3%のオーストラリアでは、価格の横ばいは実質的には緩やかな値下がりを意味します。

今回のピークは1、2年のうちに訪れそうですが、上記グラフの2010年~2012年のような調整時期を経て、オーストラリアの人口、経済の成長が続く限り、また次の価格上昇サイクルに入っていくだろうと考えます。

先日公表された政府のデータでも、2015年3月末までの四半期で、シドニーの住宅市場は年率換算10%を超えるペースで上昇が続いています。

いつピークを迎えそうかについては、専門家でも意見が分かれていますが、おそらく急にマイナスに振れるということはなく、まず上昇スピードが減速し、ついにマイナスになるというシナリオが妥当だと考えます。

シドニー住宅市場の上昇スピード減速については、半年ほど前にそのような兆候が表れ、「いよいよブーム終焉か」という報道もたくさんありましたが、また元の上昇スピードに戻っています。

1980年代後半の日本での株、不動産バブルと同様、一時的な調整でまた上を目指すのか、本格的な下落の始まりなのかは、最終結果を見ないと分からないかもしれません。

さらに価格が上昇した場合、儲けそこなってしまう(実需層にとっては、マイホームが夢のまた夢になってしまう)という怖れと、近く下落に転じた場合、高値掴みになってしまうという怖れで、オーストラリア国内でもジレンマになっています。

中長期的な視点で、しかも現金で購入できる投資家層にとっては、一時的に価格が下落しても、10年後に今よりも値上がりしていればいいと考えるなら、今、シドニーで購入するのもありでしょう。これからさらに値上がりが続く可能性もありますし、待っていれば値段が下がるとも限りません。

現在、中国本土からの投資資金が大量に入ってきていますが、彼らのうち概ね7割は現金購入(キャッシュ一括払い)と言われています。

一方、ローンを組んで投資する場合、現在のシドニー市況ではリスクが高いと考えます。どの国で資金を調達するかにもよりますが、中期で見れば金利が上がる可能性が高いでしょう。

緊急用の十分な資金がある場合は別ですが、返済が苦しくなり、値段が下がったところで売らざるを得ないとなると、結果的に高値掴みをしたことになります。

仮に購入時と同じ値段で売却できたとしても、売買の諸経費、税金も考慮すれば、数百万円の損失となる可能性があります。

現在のシドニー市況は、既存の参入者がさらに資産を増やす(可能性がある)局面、あるいは、多少損失が出ても構わないという富裕層がさらに賭け金を増やす局面と考えます。

これから資産を築きたい層、損失が出ると困る層にはリスクが高い局面です。
結果的に、さらなる価格上昇局面を逃すことになるかもしれません。しかし、金額の大きい不動産投資で大きな失敗をしては、立ち直るのも容易ではありません。

数百万円の損失など大したことはない、それよりも海外への資産分散を優先したいという投資家は別ですが、現在のシドニー市場で新規参入するのは、大きな勝負に出ているという認識で臨む必要があると考えます。

2015/06/29

人口の増える国、減る国 - 国連の中長期予測

「オーストラリアも先進国だから、これから人口が減っていくんでしょう」と日本から来た方に言われることがあります。実際には、毎年1.5%前後、人口が増え続ける見込みです。

以下は、国連の人口予測データを基に作成したグラフです。
それぞれ、中位推計(最も穏当なシナリオによる推計)の数値を採用しています。各国の2010年時点の人口を100として、2020年、2050年、2100年のデータをグラフ化しました。

先進国グループ
 Source: 国連 人口部

先進国の中では、英米系の国が上位に位置しています。出生率が比較的高いことに加えて、移民の流入が続くことが要因とされています。

これから先進国の間で高技能移民の獲得競争が熾烈になるにつれて、英語で生活・仕事ができること、高等教育機関が充実していること、豊かな住環境、自然環境の観点で、英語圏先進国は有利な立場にあります。

ヨーロッパ諸国でも、イギリスとドイツでは長期的に明暗を分けそうです。

もっとも、上記のデータは中位推計ですので、政府が思い切った移民政策を採用するなど、シナリオが変われば別の結論となる可能性があります。

次に、以下のグラフは、主要な新興国に、比較としてオーストラリアを加えたものです。

新興国グループ1
 Source: 国連 人口部

ナイジェリアの伸びがあまりにも顕著です。

もっとも、いくらポテンシャルがあるとはいえ、商社はともかく、現時点では個人レベルでナイジェリア不動産に投資というのはハードルが高すぎます。

我々も不動産投資ではありませんが、ビジネスへの投資の観点で、アフリカの人口増、経済規模の成長を享受する方策を検討しています。

上記グラフでは他国の違いがよく分かりません。そこで、ナイジェリアを除いたグラフを以下に掲載します。

新興国グループ2
Source: 国連 人口部

人口の伸びに関しては、中長期的にフィリピンが有望株です。もっとも、オーストラリアも先進国ながら、フィリピンとそれほど遜色ありません。

マレーシアも2050年頃までは高い伸びとなりそうです。一方、マレーシアでの不動産投資に関しては、保有期間に注意する必要があるかもしれません。

中長期的な成長に賭けて投資するのだとすると、10年、15年といったスパンで保有することになると思います。2015年に購入するなら、2030年頃の売却を視野に入れるというスタンスです。

そのとき、将来の買い手もさらに10年先、15年先の2040~2045年頃の状況も視野に入れて検討すると思います。

まだ随分先の話ですが、将来は低成長を前提とした値段しか付かないかもしれません。

タイは、当面は横ばいですが、2100年までの長期で見ると、日本、ドイツといった高齢化社会の先進国と変わらない水準と予測されています。


中長期的な視点で安定投資を考えるなら、やはり人口が伸びている国や地域を選ぶのが穏当な選択と考えます。

日本では空き家の増加が問題になっていますが、不動産は取り壊すにもコストがかかり、人口が減少する国では需要と供給をバランスさせるのは容易ではありません。

国レベルで人口が増加しても、自分が行った特定の投資が上手くいく保証はありません。しかし、昇りのエスカレーターに乗っているほうが、上手くいったときの利益も大きく、失敗したときも市場全体の上昇で中長期的にはカバーされると考えられます。

一方、下りのエスカレーターに乗っても、利益を上げることは可能と思いますが、ピンポイントで優良地区、投資に適した時期を選別することが必要となるのではないでしょうか。

2015/06/26

オーストラリア不動産市況-2015年3月末時点(政府統計)

オーストラリアの主要都市の不動産価格指数の動きについて、先日、政府統計局が公式データを公表しましたので紹介します。2015年3月末までの住宅(新築、中古の全体)の売買実績データを集計したものです。

Source: Australian Bureau of Statistics

2015年3月までの1年間で見ると、シドニーが13.1%の上昇と、ダントツです。
直近四半期で見ても3.1%の上昇と、ペースを維持しています。

ただし、人口(1.5%)、所得(1.4%)、物価(2~3%)の伸びを考慮しても、年10%を上回る価格上昇が何年も続くのは行き過ぎというのが専門家のコンセンサスであり、今回の上昇局面はそろそろ終わりとの声も高まっています。

もっとも、ピークを迎えた後の動向については、横ばいを予想する声と、10%程度の下落を見込む声に分かれています。(物価上昇を考えれば、横ばいは実質的には価格低下です)

一方、メルボルン、ブリスベンは、それぞれ年率4.7%、3.9%と、悪くはないですが、まずまずの上昇率です。
ただし、直近四半期のデータでは0.6%、0.4%の上昇にすぎず、ペースが落ちているように見受けられます。

以上は各都市の全体としてのトレンドを示したデータで、当然ながら、シドニーのどこに物件を持っていても13%の値上がりが享受できたわけではありません。

現在、東京の不動産マーケットも値上がり局面にありますが、東京の中でも23区、さらに23区の中でも都心3区で値上がりが顕著なのと同様です。

その都市が全体として上昇基調にあるのは有利な条件ではありますが、その都市の中のどの地区で、どのタイプの物件を狙うかはシビアに選別する必要があります。

株式投資と異なり、低コストで簡単に損切りや利益確保はできませんので、来年上がるかどうかだけでなく、中長期的に(総じて)堅調に上がり続けるかが大切な視点だと思います。

なお、民間の調査会社も各種の価格データを公表しています。公表時期が早いのがメリットですが、全ての取引を把握しているわけでなく、業者の聞き取りに依拠しているため、必ずしも正確とは言えません。

一方、政府は全ての売買の正確な金額を把握していますので、こちらが公式データということになります。ただし、州政府経由で中央政府が情報を集約し、公表するまでに時間を要します。

オーストラリアでは、印紙税、不動産取得税に相当する税金は、実際の売買価格をベースに個別に計算されますので、売買契約書やローン契約書の写しなど、証拠書類を添えて州政府に提出しなければいけません。

証拠書類は弁護士(司法書士)経由で提出されますし、わずかばかりの税金を節約するために金額を操作するということは、罰則の重さを考えればまずないでしょう。いずれにせよ、親族間の取引など、不自然な取引価格には査察が入ります。

このため、政府が全ての不動産取引の実勢価格を把握しています。これは、オーストラリアの不動産業界が、透明性で世界トップクラスと評価されている一因と思われます。

なお、先ほど、政府統計が公表されるまでに時間を要すると言及しました。売買契約が締結され、その後にローンの本審査等もあり、契約から1~2か月後に決済が行われ、さらに弁護士(司法書士)経由で必要書類が州政府に送付されます。

したがって、政府が公表している価格水準は、実勢価格としては数か月前のものであると言えます。市況のトレンドを確認するための指標としては確実ですが、現在もその価格水準で買えるか、値段交渉できるかという指標としては使えません。

将来の投資に備えて、マーケットをフォローするために政府統計は有用ですが、いざ自分が投資する段階となれば、直近の、より詳細なデータを有している民間調査会社のデータを利用する必要があります。特定の地区限定の売買履歴データであれば、数十ドル程度で提供されています。

2015/06/25

海外不動産投資のキー・プレーヤー:不動産仲介業者(その2)

日本でも不透明さが指摘されることもある不動産取引の世界ですが、海外での不動産投資となると、誰が味方で、誰が敵か、把握することはさらに重要です。過度に信頼して痛手を負ったり、騙されたりしないために、海外不動産投資のキー・プレーヤーを紹介します。

以下は一般に海外不動産投資で登場するプレーヤーです。
不動産仲介業者
・弁護士(ソリシター)
・住宅診断士(ビルディング・インスペクター)
・住宅投資ローン仲介業者(モーゲージ・ブローカー)

本記事では、不動産仲介業者のうち、買い手側の業者について紹介します。

オーストラリアではBuyer's agent(バイヤーズ・エージェント)と呼ばれています。

彼らは、買い手の委託を受けて、物件の選定、内見、価格や条件交渉まで行います。また、建物診断士の手配やその立ち合い、契約書をチェックする弁護士の紹介も行っています。

物件を見つけるだけ、交渉だけといった使い方もできますが、フルサービスを委託した場合は、概ね売買価格の2~3%を報酬として支払うケースが多いようです。

まともなバイヤーズ・エージェントであれば、委託者である買い手の資産状況や予算、投資方針、将来設計などをコンサルティングしたうえで、最適な物件を紹介することとなります。

また、売り手から特定の物件を預かっているわけではないので、物件の選定は、市場に出ている(あるいはこれから出てくる)全ての物件が対象となります。

一見、バイヤーズ・エージェントのように振る舞っているが、実は売りたい物件が決まっているという業者には注意が必要です。

端的に言えば、自分(だけ)が報酬を支払う人は自分の味方、他人が報酬を支払う人は自分の味方ではないということです。(オーストラリアでは、双方から報酬を受け取るのは禁止されています)

バイヤーズ・エージェントを活用している事例は、オーストラリアでは全取引の10%程度で、主に国外、州外からの投資家が利用しているようです。(アメリカのほうが盛んに活用されています)

これから伸びる地区の選定にあたって地元の専門家としての知識があること、適正な価格水準を知っていることは、遠隔地からの投資家にとって安心材料でしょう。

逆に、バイヤーズ・エージェントを利用しない場合は、投資に適した地区の選定や、適正な価格水準について自分で勉強しなければいけません。売り手は仲介業者に委託することが通常ですから、そうしたプロの業者と自分で交渉する必要があります。

筆者は自分たちで現地に足を運べる立場ですが、自分が海外投資家の立場なら、2~3%の報酬を支払ってでも、信頼のおけるバイヤーズ・エージェントを探し、活用すると思います。

高値掴みさせられる心配は少なくなりますし、値下げ交渉をしてもらえば、報酬分くらいは捻出できそうです。その上で、専門家として地区、物件の目利きもしてもらえます。

売り手の都合で非公開で売却したい案件なども、バイヤーズ・エージェントに声が掛かるケースが多く、相場より安く購入できるケースも耳にします。売り手も早く処分したいという気持ちがあること、非公開のため購入者間の競争が少ないことから、安値となる傾向があります。

また、契約前に自分で現地に赴けないなら、専門家に見てもらうことは非常に重要です。結果的に問題は起こらないかもしれませんが、周辺の住宅が荒れているとか、高圧電線が近くを通っているなど、現地を見ていれば購入していなかったという事態もありえます。

同じ通り(ストリート)に面している住宅でも、川辺から200メートルまでは高級地区、200~500メートルは中上流地区、それ以上離れると中流地区など、相場が随分変わることもあります。
必ずしも高級地区を狙う必要はないとは思いますが、中流地区の物件を、高級地区相当の値段で買ってしまっては投資になりません。

「相場より20%も高い値段で買ってしまった」という事態を避けられるだけでも、必ずしも現地事情に詳しくない海外投資家にとって価値があると思います。

もっとも、売り手側の仲介業者同様、バイヤーズ・エージェントも(手付け金を除き)売買契約が成立しないと報酬をもらえません。基本的には買い手の味方ですが、できれば手っ取り早く契約を成立させたいと考えることが、ないとは言えません。

したがって、業者を選ぶ際には、報酬体系もさることながら、顧客の評判を大事にしているか、顧客の評判がビジネスの基盤となっているかが大切です。一見の投資家にどう思われようと痛くもかゆくもないような、大組織の一部署では、この点で不安です。

また、大手セラーズ・エージェント(売り手側仲介)の子会社、あるいは一部門のバイヤーズ・エージェントも、独立性の面で不安です。親会社の抱える物件を優先的に薦めてほしいと言われれば、社員としては断れないのではないでしょうか。

バイヤーズ・エージェントの多くは中小規模です。

一人だけでやっている業者の場合、顧客の評判を重視せざるをえないという点で、しっかりやってくれそうですが、個人的な力量に左右される点で不安があります。

自分なら、情報共有や人材育成のシステムが確立されている中規模の業者(社員が実力のある創業者から直接薫陶を受けているような規模)を選びます。
イメージとしては、主要都市に1つ、2つずつ拠点事務所があるタイプの業者です。

2015/06/24

キャピタルゲインを狙うには

以下の表は、2015年3月四半期に売却された住宅のうち、キャピタルゲイン(キャピタルロス)があったものの割合を示しています。
シドニーでは近年の大幅な価格上昇(3年間で約30%)のため、ほとんどのケースでキャピタルゲインを達成しています。

Source: Business Insider Australia

シドニーでもわずかにキャピタルロス(Pain)のケースがありますが、これは近年の価格上昇後の局面で買ったものの、何らかの事情ですぐに手放さざるを得なかったケースであろうと考えられます。

全般に見て、主要都市(Capital City)のほうが、地方(Regional)よりも、キャピタルゲインを達成できるケースが多いことが示されています。

都市部のほうが需要が底堅く、新規の土地の供給も限られることが要因と考えます。(主要都市でも、高層マンションが林立している一部の地区は注意が必要ですが)
値段が安いからと地方の物件に手を出すのは、特に現地に詳しくない海外投資家にはお勧めできません。

また、シドニーを除き、戸建て(Houses)のほうが、マンション(Units)よりもキャピタルゲインのケースが多くなっています。高層マンションが次々に建って、売るにせよ貸すにせよ、需要が追い付かないということがないよう、地区選びには慎重を要します。

戸建ての場合、少なくとも都市部では、新規供給数が増えることはまず考えられませんが(新しく建てるなら、マンションになる可能性が高い)、都心から離れた郊外では、工場跡地など広大な土地がありますから注意も必要です。

次に、以下は平均保有期間です。
主要都市で、キャピタルロスが発生したケース(Pain)での平均保有期間は5年間。一方、キャピタルゲインを達成したケース(Gain)では、平均保有期間は9~10年となっています。

Source: Business Insider Australia

短期的には、景気や金利の動向、過剰供給などのあおりを受けて、価格が下がることもあります。

もっとも、オーストラリアのファンダメンタルズを考えれば、人口増、GDP増、物価上昇が中長期のトレンドです。長い期間保有するほど、ファンダメンタルズを反映した価格に収れんすると考えられます。

今回お示しした過去のデータから、主要都市で、地区を間違わず、そしてできればピーク局面で買わない(高値掴みしない)ことを心掛け、中長期の視点で保有を続ければ、キャピタルゲインを達成できる可能性はかなり高いと言えます。

また、長期保有を可能にするためにも、資金難で想定よりも早く手放さざるをえないという事態に陥らないよう、物件購入前に資金計画を立てておくことが大切です。

日本での不動産投資と同様、売買のコスト、税金もかかります。2、3年の短期保有では、ブーム直前に買って、ピークで売り抜けるといった幸運に恵まれない限り、ほとんど利益は出せないと思います。

2015/06/23

シドニー、メルボルンに向かう中国マネー

以下は、中国本土から世界主要都市への不動産投資の資金の流れです。
総金額の伸びもすさまじいですが、時期によってロンドンが人気となったり、ニューヨークが人気になったりと、変遷するようです。
2014年はオーストラリア(シドニー、メルボルンの合算)が一番人気となっています。

Source: Business Insider Australia

人口規模で考えると、シドニー、メルボルンを合せて900万人くらいですので、ロンドンやニューヨークに匹敵する規模となります。

第一に選好する都市が変遷していることから、比較的割安な都市を求めて、資金が動いているようです。日本でも一時期マレーシア投資が流行しましたが、業者が活発に宣伝し、投資家が情報を得やすい場所へ、投資資金が集中するということも考えられます。

周りのみんながそこに投資しているから安心だとか、乗り遅れたくないという心理も働いているかもしれません。

また、将来の移住も見据えて、永住権の取りやすさなど、各国の移民政策にも左右されることもあるでしょう。カナダは昨年、富裕層専用の永住権制度を廃止しました。

オーストラリアでは、不動産業者も中国語サイトを開設したり、中国に支店を設けたりと、基本的には中国マネーを歓迎しています。中国語を話せる不動産仲介業者は、歩合制で、若くして年収何千万円というケースもあるようです。

一方、住宅価格の高騰で住宅を取得できなくなった庶民の間では、徐々に海外投資マネーへの嫌悪の芽が生まれつつあります。まだ一部の意見にすぎず、社会的な摩擦を生んでいるというほどではありませんが。

どうやらこれは初めてのことではなく、20数年前はゴールドコースト中心に日本マネーの爆買いで、摩擦があったようです。

豪政府もこうした庶民の声と、投資を歓迎する産業界の声の板挟みで、対処する必要があるのは分かっているが、なかなか動きにくいというのが現状のようです。

この3年間で30%上昇したシドニーの不動産市場ですが、これでもまだ北京や上海、香港に比べれば割安のようです。対人民元での豪ドルの下落も効いています。豪政府が多少規制を強化したところで、中国マネーの流入は減少しそうにありません。

2015/06/22

豪ドル預金で資産を増やせるか

日本国内でも豪ドル預金を提供している金融機関は数多くあります。

もっとも、中間マージン、為替手数料もありますので、直接オーストラリアの銀行で預金するのに比べれば、諸条件は劣るようです。

そこで今回は、日本在住者よりも有利な条件と考えられるオーストラリア人は、そもそも豪ドル(自国通貨)預金で儲けられるのかというお話です。

当記事の執筆時現在の預金金利(1年定期)は以下のとおりです。

コモンウェルス銀行(豪最大手)… 2.6
INGダイレクト(ネット銀行大手)… 2.9

元本保証でこの金利なら資産が増えていきそうですが、所得税や物価上昇も考慮した実質利益を考えたいと思います。

INGダイレクトの1年定期2.9%を前提に、1000万円相当額の預金をすると、受け取る金利は29万円です。

オーストラリアでは、預金金利に課税される所得税は総合課税です。平均的な所得層($37,001 – $80,000)に課税される34.5%(所得税+社会保険料)が適用されたとします。

預金額  1000万円
金利    29万円
所得税等  10万円
手取り金利 19万円

次に、物価上昇分(価値の目減り)について検証します。

現在、オーストラリアの物価上昇率は年2%程度です。豪中央銀行は23%に保つことをターゲットとしていますが、現在、低体温の景気を反映し、概ね下限に位置しています。

現在の2%の物価上昇率を加味すると、現在の1000万円は、1年後の1020万円と実質的な価値が同じとなります。

したがって、先述の「手取り金利」から20万円を差し引いた、-1万円が、実質的な預金者の運用益となります。マイナスになってしまいました…

手取り金利   19万円
物価上昇分  20万円
実質運用益  1万円

手取り金利19万円に全く手を付けなかったとしても、それでようやく元本の価値をギリギリ維持できたかどうかというところです。

表面的な数字の上では、税引き後でも手元のお金が19万円増えているように見えます。

しかし、それを生活費等に使ってしまった場合は、実質的には元本を毀損することとなります。(リタイヤ後など、元本を少しずつ取り崩すことを意図しているなら別です)

不動産投資の場合も、受け取る家賃の中から維持管理費、修繕費、所得税などを負担する必要があり、受け取った分を全て生活費などに使うことはできないのと同様です。

こう考えると、所得税は、受け取った金利全体にではなく、物価上昇分を差し引いた実質金利に課税してほしいものです。

預金金利で本当に利益を出せるのは、預金金利が8%で、物価上昇率が3%といった、景気の過熱を抑えるために金利が高くなっている一時期(リーマンショック前など)だけではないでしょうか。

中長期的に安定して預金金利で資産を増やすとか、(元本を実質的に目減りさせることなく)預金金利だけで生活するというのは不可能だと考えます。

日本から豪ドル預金を行っている方に比べ、手数料などが少ない現地の預金者でもこうした状況です。

日本国内での豪ドル預金の場合、金利で資産が増えるというよりも、円安リスクのヘッジとして、将来円安になっていれば、解約時に受け取れる円が増えている可能性があるということに尽きるのではないでしょうか。

また、中長期的には日本国内の物価上昇も効いてきます。

投資として儲けるというよりも、ある種の保険として、外貨への資産分散、リスクヘッジの役割が大きいと考えます。

一方、将来、オーストラリアに行った時に使えばいいということで、豪ドルのままで受け取ることを選択した場合、為替リスクは少なくなりますが、オーストラリア国内の年23%の物価上昇率を加味する必要があります。

2015/06/19

シドニー相場もそろそろ沈静化か

以下は、不動産コンサル会社による各都市の市況一覧図です。(2015年6月現在)
シドニーは12時を差しており、今がピークでこれから下がるとの見立てです。
一方、メルボルン、ブリスベンはまだこれから上がるとの見立てとなっています。

Source: HERRON TODD WHITE

シドニーの不動産が高すぎる、バブルではないかと1年以上前から言われていましたが、まだ値段は上がり続けているようです。

海外からの投資家(特に中国本土)が価格を押し上げ、若い人が住宅を買えなくなったという報道も続いています。

もっとも、実態は、海外マネーは1割程度のようです。確かに価格を押し上げる効果はあるかもしれませんが、やはり基本的にはオーストラリア在住者の資金が不動産に向かっていることが大きいようです。
(ただし、海外投資家に人気の地区に限ると、ほとんどが海外マネーという地区やマンションもあります。東京都心も、そうした物件が出てきているようです)

先日、豪4大銀行が不動産投資ローンをやや絞りはじめたことから、沈静化の兆しが見えます。
自己使用の住宅は別ですが、投資用の場合は、物件価格の8割までしか融資しない(2割の頭金+諸経費の自己資金を求める)方針が打ち出されました。
政府の介入を招く前に、銀行のほうから自主規制の形をとったようです。

また、ビクトリア州(メルボルン)でも、海外からの投資家に限り、不動産取得税に相当する税金を割り増しにするなど、過熱をおさえる動きが見られます。

一方、オーストラリアは歴史的な低金利です。不動産価格が上昇(ローン金額が増加)しても、返済金利は比較的低く抑えられています。

また、豪ドルの下落で、アメリカ、中国の投資家の視点では、近年30%上昇したシドニーの価格でも、自国通貨建てでは2、3年前と変わらない価格水準とのことです。
当面は国内、海外の投資家、実需層にも、まだ余裕がありそうです。

1980年代後半の日本の不動産バブルのときには、新宿の新築ワンルームが1億円で売れたという話がありますが、シドニーの一等地でもそこまでには全く至っていません。

不動産の価格上昇で若い世代、低所得層が割を食った一方で、不動産業界、建築業界は活況を呈しています。資源価格の低迷が続く中、経済の下支えのためにも、政府も冷や水をさすのをためらっています。

シドニーの一大ブームはそろそろ終わるかもしれませんが、大幅な金利上昇でもない限り、緩やかな上昇、少なくとも横ばいが続くと見込まれます。

もっとも、オーストラリアの国内景気も決して良くはないため、今のところ、どんどん金利が上がる状況は想定されていません。政府も豪ドル下落を志向していますから、当面は低金利を維持というのが専門家のメインシナリオです。

海外不動産投資のキー・プレーヤー:不動産仲介業者(その1)

日本でも不透明さが指摘されることもある不動産取引の世界ですが、海外での不動産投資となると、誰が味方で、誰が敵か、把握することはさらに重要です。過度に信頼して痛手を負ったり、騙されたりしないために、海外不動産投資のキー・プレーヤーを紹介します。

以下は一般に海外不動産投資で登場するプレーヤーです。
・不動産仲介業者
・弁護士(ソリシター)
・住宅診断士(ビルディング・インスペクター)
・住宅投資ローン仲介業者(モーゲージ・ブローカー)

本記事では、不動産仲介業者(主に売り手側)について紹介します。

オーストラリアを含め英米系の多くの国では、売り手、買い手双方の仲介を兼ねる「両手取引」が禁止されています。(中立を装い、どちらか一方の便宜を図るおそれがあるため)

売り手側に雇われた仲介業者(セラーズ・エージェント)か、買い手側の仲介業者(バイヤーズ・エージェント)か、はっきり分かれます。委任契約に基づき、それぞれ売り手、または買い手のために最善を尽くすことが義務となります。報酬も片方からしか受け取れません。

オーストラリアでは、エージェントのほとんどが売り手側の仲介業者です。売却時に広告から、交渉、契約書作成まで全部自分でやるという人はまずいないと思いますが、購入時には自分の足で探すという人は多いものです。マーケット規模の面で、売り手側仲介業者のほうが圧倒的に多くなっています。

ホームページ等で売り物件を紹介している業者は、全て売り手側の仲介業者です。買い手にとって、必ずしも敵ではありませんが、少なくとも、自分のために動いてくれる味方だと誤信してはいけません。
彼らは、売買が成立したら売却金額の2%~3%の報酬を売り手から受け取るという契約になっています。買い手からは何も受け取らないのですから(両手取引禁止国の場合)、買い手の便宜を図ってくれるとそもそも期待することはできません。

「希望の物件を探してあげる」と買い手に言うこともありますが、それはあくまでも売却の委託を受けている物件の中でということです。
また、「買い手側の仲介手数料はいただきません」と言うかもしれませんが、これはサービスではなく、そもそも受け取ってはいけないのです。

一方、売り手側の業者が敵かというと、そこまでははっきり言い切れません。
売買が成立しないと仲介業者も報酬がもらえないため、売り手側に立つといっても限度があります。売り手のために最善の価格・条件を目指す義務はあるものの、まずは契約を成立させたいというのが本音です。

例えば、マンションの価格5000万円で、仲介手数料3%、歩合制で担当者個人への報酬が半分とします。そのままの価格で売却すれば、担当者は75万円を手にすることができます。
一方、担当者が交渉でがんばり、さらに100万円高く5100万円で売却できたとして、担当者の取り分が増えるのは15千円です。
高く売れるに越したことはないが、多大な労力をかけるよりは、早く契約まで持っていきたいというのが実際です。

ここで、買い手が4900万円なら買うと値下げを提案したとします。仲介業者の担当者としては、個人の取り分が15千円減りますが、それでも735千円は確保できます。いつまでも揉めているよりは、売主を説得して契約まで持っていき、他の担当物件に注力したいと考えても不思議ではありません。

投資家としては、売り手側の仲介業者を自分の味方だと誤信しないよう要注意ですが、全面的に売り手の味方とも限らないので、上手く活用することが大切です。
値下げの提案や諸条件の交渉も、仲介業者を通じないと売り手本人に伝わりません。仲介業者との関係を大事にして、上手く伝えてもらうことも必要です。売り手側の事情(値下げ交渉の余地)も聞き出せるかもしれません。

逆に、将来、自分が売り手サイドになった際には、あまり価格や条件に固執しては、お金にならないお客さんということで、委託した物件を放置されるかもしれません。

次回の記事では、買い手側の仲介業者(バイヤーズ・エージェント)についてご紹介します。