2015/07/28

不動産をどれだけ長く保有すべきか

以下は、豪主要都市ごとに、5年、10年、15年のスパンで見た住宅価格の年間上昇率です。実質価格ですので、物価上昇分は差し引かれています。
Source: PropertyUpdate.com.au

直近5年間(黒のグラフ)で見ると、シドニーが年4.5%と突出しています。物価上昇分(年率2~3%)も加味すると、数値の上での住宅価格は年平均6.5~7.5%のペースで上昇したことになります。

他都市を見るとマイナス圏に沈んでいるものもあり、直近5年間の動きは都市によってまちまちであることが分かります。(物価上昇分を差し引いてマイナスとなっていますので、名目値の価格は概ね横ばいです)

直近10年間(赤のグラフ)で見ても、まだバラつきが見られます。

直近15年間(青のグラフ)で見て、ようやく各都市の上昇率が概ね同水準にならされています。

15年のスパンで見ると、シドニーの上昇率は最下位水準です。この点を捉えて、ここ3年間のシドニー・ブームも、過去の出遅れを取り戻したまでで、バブルではないと言われています。

また、ブリスベン、パースなど、この5年間でマイナス圏に沈んでいる都市でも、15年のスパンで見れば大きく伸びているものもあります。つまり、過去、別の時期に大きく伸びたということです。

一方、例えば、10年前にシドニーで物件を購入したものの、期待したほど価格が上昇しないので5年前に売却したという投資家の場合、直近の大幅な価格上昇を享受できていません。取引コストの分、損失が発生していた可能性もあります。

短期で見れば、これからどの都市が伸びるか、より緻密な見極めが必要です。

もっとも、「理屈の上では、こうなりそうだ」ということは言えますが、過去の事例を見ても、専門家でも予想を外しています。

不動産業界、金融業界の多くの専門家が、「シドニー相場はもう終わり。次はブリスベンだ」と2年近く(現在も)言い続けています。過去3年間でシドニー住宅価格が40%も上昇するとは、誰も予想できていません。20%ほど上昇したところで上手く売り抜けたと考えていた投資家は、今、悔しい思いをしているかもしれません。

1000万円の自己資金で5000万円のマンションを購入し、6000万円で売れた(譲渡益1000万円)というのもなかなかの利益ですが、あと一年半保有を続けていれば、7000万円で売れた(譲渡益2000万円)というのが、直近3年のシドニーの市況です。

一方、10年~15年の長いスパンで見れば、どの都市に投資していたとしても、概ね年5%程度の価格上昇を享受できたと言えます。物価調整前の数値であれば、年7~8%の価格上昇となります。

5年程度の期間で投資した場合は当たりはずれがあると言えます。一方、15年程度の期間であれば、一時的にマイナスになる時期もあるかもしれませんが、概ね安定した収益を得られそうだと言えます。

売買のたびに各種手数料、税金もかかりますし、何より、海外での不動産投資は都市の成長、人口増加に賭けているのですから、長期での投資をお勧めしたいと思います。

家賃収入の利回りも、日本と比べ、当初は低めかもしれませんが、物価上昇、所得増、人口増で中長期的には上昇圧力がかかります。最初に投じた資金との関係で言えば、家賃からの利回りは基本的に上昇を続けます。基本的に家賃の下落を見込む必要がある日本の不動産投資とは、この点が大きな違いです。

なお、ローンを組んでレバレッジを利かせる場合は、物価の上昇分も影響があります。総じて、物価の上昇に伴い、賃金水準も上昇し、物件価格(地価、建築コスト)や家賃も上昇していくと考えられます。
(景気や需給関係にも左右されますので、短期ではそうならないこともあります)

見た目のローン元本はほとんど減っていないとしても、物価上昇率分、毎年元本の価値が目減りしているようなものです。

一方、中長期で見れば、家賃収入は上昇傾向にあり、時間の経過とともに返済は楽になっていきます。(ただし、急激な金利上昇による、一時的なショックに耐えられる備えは必要です。政府の政策しだいで金利は即日上がることもありますが、家賃はすぐには増額できません)

逆に、豪ドル預金をしている方は、この元本の目減り効果がマイナスに働きます。金利として受け取った分を全部使ってしまわないよう注意が必要です。

2015/07/27

ブリスベンのマンション内覧

先週末、近所のカフェで朝食をいただいた後、帰宅途中で中古マンションの内覧会に遭遇し、中を覗いてきました。

ブリスベンの中心まで徒歩15分、高台で洪水の心配もない好立地です。すぐ周辺は閑静な住宅地でありながら、徒歩5分圏内に複数のカフェやレストラン、スーパーもあります。バス停もすぐそばにありますが、市の中心部に向かうなら、歩いてもさほど時間は変わらないでしょう。


マンション外観

仲介業者に話を聞いたところ、築5年、広さはバルコニーを入れて79㎡です。現在はオーナーが自分で住んでいるが、貸し出せば週515~530ドル(月約20万円)の家賃は取れるだろうとのこと。

間取り図には入っていませんが、建物地下の駐車場に1台分専用スペースが確保されています。なお、車社会のオーストラリアでは、シドニーの都心部を除き、専用の駐車スペースがあるのは普通です。

希望価格は535,000ドル(約4,800万円)です。


物件間取り図

内部の面積を69㎡、バルコニー面積を10㎡とすると、筆者の計算式(バルコニーは面積半分でカウント)では、平米単価7,000ドル少々となります。中古物件の場合、リバー・ビューの素晴らしい眺望でもないと、ブリスベンでこの単価では厳しいです。

なお、オーストラリアでは、売り手市場の時期やオーナーが強気の場合は別ですが、通常は交渉で4~5%の割引が行われることを織り込んだ高めの価格が提示されています。(競合する買い手が他にいるかにも左右されますので、必ずしも割引価格で買えるわけではありません)

帰宅後、大手の売買・賃貸仲介サイトで確認してみると、ほぼ同じ間取りの2部屋が賃貸募集中です。一つはさらに眺望の良い上層階かつ家具付きで週490ドル。もう一つは家具なしで週470ドル。週500ドル以上という見立ては希望的観測の域を出ません。

また、本件を合せて、3つの部屋が売りに出ています。40戸程度の中小規模マンションで、同時期に2部屋が賃貸募集され、別の3つが売りに出ているというのは良いサインではありません。

東京のワンルームマンションなら、同時期に2つ、3つの部屋が空室でも珍しくありませんが、ブリスベン全体の平均空室率は2%です。

特に、築5年しか経っていないのに、オーナーが次々に売却を望んでいるというのが不可解です。複数の専門家が、これから数年、ブリスベンの住宅価格が上昇すると予測しているにもかかわらずです。

オーナーを売却に走らせている要因は、隣地にあるかもしれません。筆者の知る限り1年以上前から空地のままですが、隣にはかなり大きな更地があります。おそらく、ここに大規模なマンションが建設される動きでもオーナーが察知したのでしょう。


すぐ隣には大きな更地が

同様の動きは、以前に賃貸で住んでいたマンションでもありました。そこは当時、築8年で、それまで合計3、4件しか売りに出なかったという、その周辺では「売りに出ないマンション」として知られた物件でした。しかしこれも、すぐ向かい側に大規模な高層マンションが建築されることが明らかになると、次々と売り物件が出るようになりました。

このケースでオーナーが不運だった点は、当該エリアの建築規制が近年、変更されたことです。従前は5階建てまでしか建てられなかったのが、20階建てまで可となりました。規制の変更でディベロッパーの採算が取れるようになったため、周辺では、低層の店舗・オフィスビル、老朽化した町工場・倉庫が、次々と20階建てのマンションに建て替えられています。

建築規制は政策によって将来変わる可能性がありますから、あまり当てにしないほうがよいのでしょう。

もっとも、このエリアも、一通りマンションが建ちきった後は、都心に極めて近い便利な地区ですから、投資としては面白いと思います。当面は過剰供給になりそうですが、物件がだぶつき、「値段はいくらでもいいから、買ってほしい」という状況になれば、海外の投資家にもチャンス到来です。

2015/07/26

富裕層に人気の移住先

豪不動産投資情報サイト(Property Observer)で、富裕層の移住先に関するTIME誌の記事が紹介されていました。

富裕層が数多く移住した上位国は以下のとおりです。(数値は2000年~2014年の流入人数推計)

イギリス 125,000人
アメリカ 52,000人
シンガポール 46,000人
オーストラリア 35,000人
香港 29,000人
アラブ首長国連邦 18,000人

社会の安定性や生活の質を求めての移住、有利な税制を求めての移住に分かれているようです。

オーストラリアの場合、所得税は低くありませんが、相続税はありません。また、トラスト(一族の資産の保有・管理を目的とする財団法人のようなもの)の設立も一般的で、この場合、そもそも相続が発生しません。「株式会社」だと株式の相続が発生しますが、「トラスト」では意思決定を行う役員が入れ替わるだけです。

移住者数でみると、人口規模で大幅に上回るアメリカよりも、イギリスへの移住者が多いのが面白いところです。
ロンドンには富裕層向けの住宅、金融サービスなどが充実していることも理由でしょう。現地での実感としては、ロシア、中東、南アジア出身の富裕層が多いと感じました。

上位5か国は英語が公用語と、外国人として生活を始めやすいという要因もありそうです。アラブ首長国連邦(ドバイなど)もかなりの程度英語が通じます。

富裕層向けの特別な永住権(ビジネスや投資目的)を与える制度があるかも、流入数に影響しそうです。
オーストラリアは今のところこうしたビザ制度を維持していますが、カナダでは昨年廃止され、許可待ちだった数万人規模の富裕層(9割が中国本土)が移住の道を閉ざされたと報じられていました。

2015/07/23

オーストラリア住宅価格予測--2015~2016年 (2015.7月現在)

豪4大銀行の一角ナショナル・オーストラリア銀行(NAB)の見通しによると、2015年7月現在で、今後の住宅価格上昇を牽引するの2015年シドニー、2016年ブリスベンとなっています。

具体的な予測値(年間上昇率)と全体のイメージが示されたグラフは以下のとおりです。
なお、括弧内は前期(2015年4月)時点での予測値です。

2015
シドニー  10.2%(7.7%)
メルボルン 6.5%(6.2%)
ブリスベン 4.0%(3.8%)

2016
ブリスベン 4.8%(5.7%)
シドニー  3.9%(3.4%)
メルボルン 3.1%(3.5%)
 

Source: NAB Residential Property Survey

半年前の予測と比べると、2015年は6%も上方修正されています。これまでのところ、プロのアナリストでさえ、相場を読み誤ったといえます。

ただ、シドニーは価格上昇が続いているとはいえ、上昇速度は減速しています。2016年には物価上昇率+アルファくらいに落ち着きそうです。

2012年ごろから始まったシドニーの不動産ブームでは、3年間で40%以上も価格が上昇しました。そもそも、2014年中には減速すると言われていたのが、まだ年10%を超える速度で高騰しています。本当に2016年に減速するか、まだ分かりません。

国内の投資家、実需層には手を出しにくい価格水準となっていますが、海外(特に中国本土)からの資金流入しだいでは、まだ上昇が続く可能性があります。キャピタルゲインや利回りよりも、とにかく海外への資産分散(逃避?)を優先している富裕層も少なくありません。

以下は、新築物件の購入者のうち、外国人が占めた割合です。ビクトリア州(メルボルン)では、マンションの3割近くを外国人が購入しています。これは都市圏全体の数値で、中には、ほとんど外国人投資家が買っているような地区もあります。(メルボルンのDocklands、Southbankなど)

 Source: NAB Residential Property Survey

現地の所得水準を考えれば、現在の価格水準でも確かに高いですが、将来の人口増、物価上昇等を織り込んだ価格と考えれば、バブルとまでは言えません。株式投資でも、将来有望な企業の株はPERが高くなりがちです。

しかし、今後2、3年のうちに、ここからさらに2割、3割上がるようであれば、到底、実需層に手が出る価格ではなく、投機的価格と言えるでしょう。

人口500万人弱のシドニーが、平米単価でロンドンやシンガポールに並ぶのは、時期尚早です。もっとも、戸建もマンションも広い物件が多いので、戸当たりの価格では、世界的な大都市と変わらないケースもあります。

マンションの場合、東京と比べると、ワンサイズ違います。東京の2LDK(60㎡)の広さであれば、シドニーなら1LDKのサイズ相当です。戸建ての場合、都市部は400㎡、郊外は600㎡が標準的な敷地面積です。

ブリスベンは2016年の上昇幅が下方修正されています。天然資源価格の低迷が長引くとみられており、それに付随するプラント・建設関連産業の活気も今一つです。

 今回の調査では2017年以降の予測は示されていませんが、業界のコンセンサスでは、2018年までを見れば、出遅れ銘柄のブリスベンが最も値上がりすると期待されているようです。とはいえ、これまでのシドニーのような大幅上昇ではなく、緩やかな上昇が見込まれています。
 
なお、上記各都市の数値は、平均値にすぎません。ひとつの都市の中でも、価格上昇率が平均を上回る地区もあれば、下回る地区もあります。

NABの同調査によると、以下の地区での価格上昇率は、それぞれの州・都市の平均を上回ると予測されています。
ブリスベン市内でいうと、Brisbane(中心区)、New Farm、Bulimba、West End地区では、ブリスベン平均の4.0%を超える上昇が見込まれています。今回、ブリスベンに関しては、伝統的な高級住宅地も複数挙げられています。

しかしこれも、「地区内の平均」の話にすぎません。厳密には、地区内のどのスポットかも選別が必要です。
同じ地区でも、洪水など自然災害の被害を受けやすい個所、交通量が多くて騒々しい個所、夜暗くて治安に問題がある箇所など、価格や賃貸需要に影響を与える様々な要素があります。



Source: NAB Residential Property Survey

我々の投資スタンスでは、中長期的に、年率5~6%の物件価格上昇をベースとして考えています。これを実現するためには、住宅需要は伸びるが、供給が追いつかない地区を選別することが大切だと考えています。

これは概ね、14年間で物件価格が2倍になるシナリオです。株式投資に比べれば爆発力はないかもしれまえんが、不動産投資の場合はローンでレバレッジを効かせられるところがポイントです。

2015/07/21

海外不動産投資のキー・プレーヤー:投資ローン仲介業者

日本でも不透明さが指摘されることもある不動産取引の世界ですが、海外での不動産投資となると、誰が味方で、誰が敵か、把握することはさらに重要です。過度に信頼して痛手を負ったり、騙されたりしないために、海外不動産投資のキー・プレーヤーを紹介します。

以下は一般に海外不動産投資で登場するプレーヤーです。
・不動産仲介業者
・弁護士(ソリシター)
・住宅診断士(ビルディング・インスペクター)
・住宅投資ローン仲介業者(モーゲージ・ブローカー)

今回は、住宅投資ローン仲介業者(以下、ローン仲介業者)について紹介します。

ローン仲介業者は、投資家の個別事情に応じた適切な金融機関、ローン種別をコンサルティングし、金融機関を選定のうえで、ローン申請手続きの代行も行います。

融資が実行されると、ローン仲介業者は銀行から紹介料を受け取ります。投資家としては、ローン仲介業者に報酬は支払いません。

投資家から見れば、ある意味タダでサービスを受けられると言えますが、ローン仲介業者の報酬は、銀行ローンの金利や手数料に織り込まれているとも言えます。

もっとも、通常のケースでは、ローン仲介業者を通さずに自分で金融機関に申し込んだとしても、金利を低くしてもらえるわけではないと言われています。

逆に、ローン仲介業者を通したほうが優遇金利を受けられるケースもあります。金融機関から見れば、自分で申し込んでくる投資家は一見さんですが、ローン仲介業者は多くの顧客を紹介してくれるお得意さんだからです。

ローン仲介業者も複数ありますが、大手行から地銀、信用組合まで、たくさん(15~20行)の金融機関と提携している業者を選ぶべきです。特定の少数の金融機関しか推薦しないというのでは、投資家との利益が相反するおそれがあります。

投資家の希望する融資金額、期間などを前提に、金利で有利な順にずらっと並べた金融機関一覧を見せて、この点でこの銀行がお勧めだと説明してくれる業者が安心できます。明確な数字の比較もなく、特定の金融機関を薦めてくる業者では不安です。

頭金の割合、収入、他の借入金の状況、金利は変動か固定かなどにより、借りられる金融機関とそうでない金融機関に分かれます。
ローン仲介業者は、数多くのケースをもとに、その投資家の条件でローンに申し込んで審査が通りそうかどうか分かりますから、投資家も無駄な労力を省くことができます。

また、繰り上げ返済の可能性、返済期間の途中で売却する可能性も踏まえて、ローンの解約手数料なども考慮の対象です。さらに、一部を変動金利、一部を固定金利とすることも可能です。こうした柔軟なローン商品を提供している金融機関のうち、金利が有利なものを選定することが必要です。

経験豊富なローン仲介業者を利用すると、形式的に金利が低い金融機関ではなく、個別の投資家の状況や志向に合わせた金融機関をコンサルティングしてもらえます。
個人的には、本人も不動産投資の経験がある担当者がお勧めです。(オーストラリアではそのケースは多いと思いますが)

また、ローン仲介業者は、不動産取引に強い弁護士や評判の良い住宅診断士の情報も持っており、この点でも便利に活用することができます。(弁護士、住宅診断士を、物件の売り手サイドの紹介に委ねるのはリスクがあります)

ただし、ローン仲介業者は、融資が実行されないと銀行から報酬をもらえません。投資家とローン仲介業者の関係は、概ねWin-Winの関係にありますが、ローン仲介業者にも、売買(融資)を成立させたいというモチベーションが働いていることは認識しておくべきです。

最終的に、その金融機関を利用するか、融資を受けてその物件を購入するかを決断するのは、あくまでも投資家の責任です。

なお、海外の不動産投資関係で、Mortgage(モーゲージ)という言葉をよく目にします。これは住宅の抵当権、もしくは、抵当権を設定してローンを借りることを意味しています。

2015/07/20

オーストラリアの不動産投資ローン事情

今回は、オーストラリアの不動産投資ローン事情を概説します。

中国本土からの投資家は現金購入者が多数のようですが、オーストラリア国内では、ほとんどの購入者がローンを利用しています。

最近は大手銀行が不動産投資ローンの自主規制(頭金2割以上を要求)を始めましたが、つい最近までは、追加の保険料(数十万円)さえ負担すれば、頭金1割、場合によっては頭金5%でも投資ローンが借りられる状況でした。

この追加の保険料というのは、頭金が少ない分、破たんするリスクが高いということで、ローン返済が不可能になった場合に、貸し手(銀行)を保護するための保険です。借り手(投資家)の保護ではありません。その保険料を負担するなら、頭金が少なくても貸してあげるよ、というのが銀行の姿勢です。

現時点では、先述のとおり投資ローンの自主規制で、頭金を2割以上要求するようになりました。もっとも、これは投資向け融資の急激な増加を抑える主旨の自己規制ですので、自宅用住宅ローンに関しては、これまでどおり、保険料さえ払えば頭金は少なくて良いようです。

現在の不動産投資ローンの金利は、変動金利で4.0%~4.5%前後が多いようです。3年~5年固定金利で4%台後半といったところです。

数年前は金利7%~8%でしたので、これでもずいぶん下がりました。もっとも、物価上昇率が2%であることも加味すれば、現在の実質金利は2%程度です。
日本で物価上昇率1%、投資ローン金利3%とすれば、実質的にはそれと変わらない金利水準です。

なお、オーストラリアでは、自宅用の住宅ローンと不動産投資ローンで、金利に違いはありません。一昔前は、日本と同様、自宅用ローンのほうが金利は低かったと聞いています。
現在では、オーストラリアの金融機関は、自宅用でも投資用でも、返済遅延や破たんのリスクは変わらないと考えているということです。

オーストラリアでは、個人の不動産投資に対して融資することは何ら特殊なことではありません。豪国税庁の統計によると、国民(成人)の約10%が不動産投資を行っている(自宅以外の賃貸用不動産を所有している)状況です。

ほとんどの金融機関が融資に取り組んでいるため、銀行同士の競争も激しく、投資用ローンだからと金利を上げると誰も借りてくれないという実情もあります。

日本の保守的な金融機関では、地主さんへの融資はともかく、個人向けの不動産投資ローンは、「あやしい」「いかがわしい」といった印象がまだあると思います。特に区分マンション投資用に取り組んでいる金融機関はごくわずかです。

また、オーストラリアの銀行は、個人の住宅・不動産購入に対して、ノン・リコース・ローンは提供していません。
アメリカのサブプライム・ローン問題の際には、銀行に住宅を明け渡せば残債は免除される(ノン・リコース)ということで、ローン返済の放棄と、差押え不動産の投げ売りが横行しました。

個人向けノン・リコース・ローンのないオーストラリアでは、経済ショックがあったり、不動産ブームが終わったとしても、アメリカのように住宅価格が急激に下落する可能性は低いと言われています。

なお、豪4大銀行のうち、以下の銀行は日本に支店を置いています。オーストラリア不動産に融資を受けて投資したい場合は、まずはこちらの支店に相談してみてはいかがでしょうか。

ナショナル・オーストラリア銀行の場合は、「ナショナルオーストラリア銀行東京支店では、オーストラリアとニュージーランドに不動産を新規購入、現地で組まれたローンの借換え、また、既にお持ちの不動産を担保にお借入れが可能な、海外不動産ローンをご用意しております」と明記しています。

ナショナル・オーストラリア銀行
http://www.nabasia.co.jp/jp/personal-private-banking/loan-products/overseas-property-finance/jp/index.html

オーストラリア・ニュージーランド銀行(ANZ銀行)
http://www.anz.co.jp/about-us/profile/

今般の日豪経済連携協定をきっかけに、カンタス航空、ANAも日豪航路の新設を表明しました。日豪の経済交流が活発化すれば、日本での事業を積極化する豪系金融機関も増えるかもしれません。

2015/07/18

海外不動産投資のキー・プレーヤー:住宅診断士

日本でも不透明さが指摘されることもある不動産取引の世界ですが、海外での不動産投資となると、誰が味方で、誰が敵か、把握することはさらに重要です。過度に信頼して痛手を負ったり、騙されたりしないために、海外不動産投資のキー・プレーヤーを紹介します。

以下は一般に海外不動産投資で登場するプレーヤーです。
・不動産仲介業者
・弁護士(ソリシター)
・住宅診断士(ビルディング・インスペクター)
・住宅投資ローン仲介業者(モーゲージ・ブローカー)

今回は、住宅診断士について紹介します。

不動産投資の場合、特定の物件を取り扱うことになります。基本的には、同品質の他のものと交換してもらうことができません。明らかに仕様書と違う場合は別として、多少問題があるとしても、それも織り込んで売買したこととなります。

中古の場合は経年劣化の痛みがありますが、新築の場合も、設計ミス、施工ミス、経費削減のための手抜きはありえます。

売買契約書の中に、住宅診断士による検査の結果次第で、契約を解除できる権利を盛り込んでおくべきです。オーストラリアではこれは通常の契約内容です。

ただし、契約の文言には注意が必要です。

売り手側の用意した契約書では、「建物の構造に重大な欠陥がある場合のみ解除できる」となっていることがあります。

例えば、下水の配管に施工ミスがあっても、解除はできません。構造に欠陥があっても、「『重大』ではない」と売り手が言い張るかもしれません。

もちろん、業者に是正を求めることはできますが、最終的に問題が解決するかは分かりません。それに要する時間と心労を考えれば、手っ取り早く契約から抜け出したほうが得策のこともあるでしょう。

ひどい場合は、「売り手の指定する住宅診断士による検査」と記載されていることもあります。

買い手にとっては、「買い手の指定する住宅診断士による検査結果に満足しない場合は、解除できる」という内容が望ましいです。

もっとも、あまりにも買い手有利の内容では売り手も納得しません。この点でも、やはり自分サイドの弁護士(ソリシター)を立て、現地の商慣習も踏まえて落としどころを探ってもらうことが重要です。

売り手側(ディベロパー、仲介業者など)が紹介した住宅診断士を利用するのは注意が必要です。

仕事を紹介してもらっている手前、「大きな問題を発見し、売買契約を潰してしまったらまずい」という心理状態で検査をしてもらったのでは、買い手としては安心できません。

さらにその検査費用まで負担させられたのでは、何のための検査か分かりません。

弁護士とともに、住宅診断士については、自分サイドに立って問題がないかチェックしてくれる人を雇う必要があります。構造に問題がある場合は、数十万円程度の出費では済みません。

仮に売り手を訴えるとしても、裁判には費用も時間もかかります。まして海外では、一筋縄ではいきません。そうした事態は未然に防ぐに越したことはありません。

我々の場合は、住宅投資ローン仲介業者(モーゲージ・ブローカー)から評判の良い業者を複数紹介してもらい、その中から選定しています。

物件のサイズにもよりますが、マンション(区分)であれば、オーストラリアでは4~5万円程度です。構造のヒビ割れのチェック、サーモグラフィを使っての壁内部の調査(シロアリ、水漏れ)や不自然な修繕跡はないか、配管の状況、床材・タイルの状況、湿気などを調査してもらえます。

数日後に報告書(レポート)が送られてくるのですが、彼らは問題を指摘するのが仕事ですから、事細かに記載されています。一見、問題だらけの物件に感じてしまいます。中古物件では特にそうです。

恐れをなして契約を取りやめてしまう人もいるようですが、何の問題もない完璧な物件はありません。ちょっとした経費で修繕できるものなのか、構造上の重大な問題なのか、診断士に問い合わせて確認することが大切です。

検査の結果、少々問題があることが発覚し、「契約を取りやめてもよいが、問題がある分を値下げするなら、買ってもよい」と交渉材料として使う投資家もいます。

海外不動産投資で手痛い失敗を防ぐには、弁護士とともに、住宅診断士の役割は重大です。2者あわせて20万円程度は、必要経費として初めから見込んでおく必要があります。

「売り手側が用意してくれるから、経費が浮いてラッキー」と考えては思わぬ落とし穴に陥るおそれがあります。もっとも、売り手側が負担といっても、たいていは売買価格の中に織り込まれているのですが。

2015/07/17

フィリピンとオーストラリア、どちらに投資すべきか

前回の記事で世界主要国の人口予測データを紹介しました。

アフリカを除く地域の中では、フィリピンとオーストラリアの人口の伸びが顕著です。我々も、中長期の視点で、主戦場のオーストラリア以外にも、フィリピンやベトナム、インドネシアには注目しています。

マレーシアも、将来自分が住むことになったら、自宅兼でキャピタルゲインを狙うのもいいと考えています。

もっとも、ベトナム、インドネシアでは、外国人の不動産保有は不可ですので、投資する場合は、不動産開発を行っているような企業の株を検討ということになるでしょうか。
 
現地人とパートナーになって所有者として名義を貸してもらったところ、勝手に売却されたという話も聞きます。これは危険です。

2010年比の人口の増減
Source: 国連 人口部のデータから作成

フィリピンとオーストラリアは、大幅な人口増が見込まれる点では同じですが、一方は世界有数の高所得国、一方は後進の新興国です。

オーストラリア投資に関しては他記事でも触れていますので、今回はフィリピンの不動産投資について考察したいと思います。

海外からフィリピン不動産に投資する場合、物件管理、賃貸管理の面で、現地では高級物件とされる価格帯になると思います。

現地の富裕層が賃貸マンションに住む慣習はまだないとすると、借り手は駐在員、あるいは先進国からの移住者(リタイヤ組)となるでしょう。

フィリピン国民もこれから所得が増えていくことが予想されますが、海外投資家が購入する物件(コンドミニアム)を現地のアッパーミドル層が借りられるくらいになるには、相当な時間が必要と想定されます。20~30年では足りないかもしれません。

将来も現地国民からの需要が期待できないとなると、ターゲットは相変わらず駐在員などに限られます。この場合、「フィリピンの人口増」「フィリピン国民の所得増」という要因は直接関係がありません。

フィリピンの経済成長に伴い、海外からの駐在員の数も増え、駐在員の所得水準も上がる(住居手当も上がる)と見込まれる場合は、筋の通った投資と言えます。直観的にはそうなりそうだと言えますが、どの程度伸びるかは予測するのが難しいです。

また、同種のコンドミニアムが多数建設され、需要・供給のバランスが崩れるおそれがないか注意が必要です。ディベロパーは、買い手(投資家)がいる限り、新規物件を建て続けるでしょう。その物件の借り手が見つかるかどうかは、ディベロパーの責任ではありません。

最終的な出口(売却)を考えると、買い手は、中期的には海外の投資家が対象となるでしょう。長期的には、価格帯によっては、現地アッパーミドル層が自宅用に購入できるくらいに所得が上がっているかもしれません。

現在、フィリピンでは、海外投資家も新築、中古とも購入できるようですが、将来、政府が規制を変える可能性はあります。

オーストラリアのように、外国人投資家は新築しか購入できなくなることも、ないとは言えません。(海外マネーで中古物件まで高騰し、国民が住宅を購入できなくなるのを防ぐ趣旨の政策)

将来自分が売却する際には、当然ながら、中古物件となっています。海外投資家に売却できなくなると、現地国民にしか売れません。

現地国民には到底手が出ないような高級物件の場合、ますます売却に苦労することになります。
日本人から見ればそれほどの金額でなくても、現地の金銭感覚では、六本木ヒルズのマンション相当ということもあるかもしれません。

一方、将来、現地の価値観が変わり、富裕層も必ずしも戸建の大豪邸でなく、都心マンションに住むのが当たり前になっていれば、出口の可能性が広がるかもしれません。

海外での不動産投資を検討する場合、何となくその国の人口増加、経済成長といったマクロデータを重視してしまいがちです。

しかし、先に紹介したように、フィリピンの人口増に賭けたつもりが、実質的には駐在員の増加に賭けていたという事態も起こりかねません。

根本に立ち返れば、住宅価格も家賃水準も、需要と供給のバランスで決まります。自分が購入を検討している物件の、将来の借り手、買い手のプロフィールを具体的に想定し、そうした層がどの程度増えるか検証することをお勧めしたいと思います。

フィリピンとオーストラリアは、人口増加に関してはそれほど変わりませんが、長期的な国民の所得の伸びに関してはフィリピンに軍配が上がります。

オーストラリアは成熟市場で安定成長、フィリピンは物件管理に不安があるものの、当たれば大きいといったところでしょうか。

資産の大部分を振り分けようとは思いませんが、ポートフォリオの一部として(失敗しても諦めのつく金額で)、長期的に国民の所得増を享受できそうな価格帯の物件を狙うなら面白いかもしれません。

海外不動産投資のキー・プレーヤー:弁護士

日本でも不透明さが指摘されることもある不動産取引の世界ですが、海外での不動産投資となると、誰が味方で、誰が敵か、把握することはさらに重要です。過度に信頼して痛手を負ったり、騙されたりしないために、海外不動産投資のキー・プレーヤーを紹介します。

以下は一般に海外不動産投資で登場するプレーヤーです。
・不動産仲介業者
・弁護士(ソリシター)
・住宅診断士(ビルディング・インスペクター)
・住宅投資ローン仲介業者(モーゲージ・ブローカー)

本記事では、弁護士(ソリシター)の役割について紹介します。英国文化圏の場合は、法廷に立つ弁護士(バリスター)と、契約など事務手続きが中心の弁護士(ソリシター)に分かれます。

不動産取引に関与するのはソリシターのほうです。日本で言えば、弁護士と司法書士の中間形態といったところでしょうか。

第一の役割は、契約書の内容のチェックです。

基本的に、売り手の仲介業者が契約書の原案を作成します。オーストラリアの場合、標準的な契約書のひな形は州によって決まっていますが(州法が異なるため)、諸条件などをある程度カスタマイズすることは可能です。

当然ながら、売り手の代理人が作成した契約原案ですので、売り手有利に、少なくとも売り手が不利にならないように作成されています。

例えば、最初に頭金(deposit)を支払う期日とその金額、融資特約など買い手が契約を解除できる条件、契約後、引き渡し前に発生した建物被害をどちら側の負担とするか、などです。

これらの諸条件について、まずは買い手が絶対に譲れない線をしっかり契約内容に盛り込み、さらに他の条件についても、過度に買い手が不利にならない(標準的な)内容に修正する必要があります。

これは必ず、契約書にサインする前に行わなくてはいけません。一旦サインしてしまうと、契約書に書かれていることが全てです。読んでいなかった、理解していなかったという言い分は通りません。

最初に頭金を振り込む期日については、契約日の翌日などとなっているケースもありますが、急用があって実行できなかったとか、曜日をちゃんと確認していなくて振り込みが実行できないなど、思わぬ失敗が起こりがちと言われています。

日付が空欄のままサインし、相手が後で記載した期日を知らなかったということもありえます。

契約書に記載されている期日までに入金を完了しなかった以上、買い手側の債務不履行責任が発生します。普通なら1日くらい待ってくれるでしょうが、売り手側に何か思惑があれば、違約金を請求される、買い手側から解除する権利を失うなど、不利な立場に追い込まれる可能性があります。

自分サイドにも弁護士を立てていれば、こうした細かなところにも目を配り、妥当な内容に契約書を修正してもらうことができます。

弁護士を雇わずに自分で手続きを行う場合、売り手側の弁護士に「これが通常の内容です」と言われたら、反論できないのではないでしょうか。

第二の役割は、所有権の移転手続きです。この点は、日本の司法書士の役割と似ています。

所有権移転登記は、特に海外では自分で行うことは事実上不可能でしょう。また、銀行からローンを借りて抵当権を設定する場合は、銀行からしかるべき弁護士を通して手続きするよう要求されるはずです。

また、自分サイドに弁護士を立てれば、契約の相手が真正の所有者かどうか調査してくれますので安心です。

また、物件の管理組合総会の議事録なども弁護士を通じて入手してもらえますので、建物に何か問題が発生していないかなどもチェックしやすくなります。

さらに、オーストラリアでは、印紙税・不動産取得税に相当する税金も、この弁護士を通じて納付するのが通常です。納税額は不動産の売買価格に応じて決まるため、契約書の写しをはじめ、諸々の証拠資料を提出する必要があるからです。

以上の契約書のチェック、各種調査等をすべて弁護士(ソリシター)に委託した場合、オーストラリアでは15~20万円程度かかります。

不利な契約を結ばされないように、また、確実に自分に所有権を移転するために、これは必要経費として織り込んでおく必要があります。

なお、大型開発物件などで、「弁護士もこちらで用意するので手間いらず」というものを見かけることがあります。

売り手サイドに仕事を紹介してもらった弁護士が、買い手のために全力を尽くせるとは通常考えられません。これで弁護士費用まで買い手が負担させられてはたまりません。

我々の場合は、売り手とは関係のないローン仲介業者(モーゲージ・ブローカー)に複数の弁護士事務所を紹介してもらい、サービスの内容や評判を調べ、見積もりをもらって委託先を決定しています。

買い手側の仲介業者(バイヤーズ・エージェント)を雇う場合は、こちらに紹介してもらうのもよいでしょう。

オーストラリアの場合、大都市には日本人の弁護士もいます。仲介業者からの紹介では不安だという場合は、まずはインターネットで調べ、委託内容や費用などを相談してみてはいかがでしょうか。

日本人弁護士のいる事務所は数は多くありませんので、その中からさらに選びたいということであれば、物件の申し込みを入れる前に、概ねの委託内容や費用を問い合わせておくとよいでしょう。

申し込みから契約書サインまでは時間に追われることもあります。弁護士が決まらないからと時間が経過してしまうと、競合者に物件を取られるかもしれません。

なお、州によって法律や取引慣習が異なりますので、物件を購入する州で開業している事務所に委託することをお勧めします。

不動産取引は金額も大きく、株のように簡単に損切りすることもできません。15~20万円程度の金額は保険料だと思って、しっかり自分側の弁護士を立てるべきだと考えます。