2015/08/25

オーストラリアの都市と地方の格差

オーストラリアの国土面積は日本の20倍以上ですが、実は居住に適した土地はそれほど多くありません。広大な国土に人口が点在しているわけではないのです。

北部は熱帯、内陸部は砂漠、乾燥地帯と、快適に住める地域は中緯度の沿岸部周辺に限定されます。このため、オーストラリアの都市人口率は約90%と、日本同様に世界有数の高さです。

日本の場合、東京都の人口は1300万人。日本の総人口の約10%です。首都圏全体で3000万人と、約25%です。

シドニー(都市圏)の人口は480万人。豪人口の約20%です。メルボルンも440万人と、約18%を占めています。

シドニー、メルボルン、ブリスベン、パース、アデレードの5大都市で、人口の約6割を占めています。

不動産投資家にとってのメリットは、投資先地域のターゲットを絞りやすいということです。さらに、将来の成長性、地域経済の安定性の観点からは、シドニー、メルボルン、ブリスベンに絞られるでしょう。

なお、将来の資源価格の反発を見込んで、パースや地方の鉱山都市の不動産を今のうちに仕込もうと狙っている投資家も一部います。しかし、いつ資源価格が上昇するかは見通せません。

いずれ資源価格が上昇することに賭けるなら、資源会社や資源価格インデックスに賭けるほうがシンプルだと思います。不動産の場合は売買の手数料も決して安くありませんし、保有期間中の維持管理、ローン返済にもコストがかかります。

また、資源産業中心の都市で不動産価格が高騰しやすいのは、資源価格が上昇を始めた時期よりも、資源会社が新しい鉱山を開発するなど、新規のインフラ投資を行っている時期です。建設需要で多くの人手が必要となり、住宅需要も一気に高まります。

資源会社が新規投資を活発化するには、資源価格が高値で安定すると見通せる状況になる必要があり、少なくとも今から数年を要するでしょう。

以下は2005年から2015年にかけての大都市(州都:青色)と地方(茶色)の住宅価格の推移です。

Source: propertyupdate.com.au

2005年から2008年頃までは、大都市も地方も同じように価格が上昇しています。しかし、2009年以降、天然資源や農作物の価格が下落してから、大都市と地方で大きな格差が生まれています。

個人資産のうち住宅の占める割合が大きいオーストラリアでは、近年、資産形成の面でも都市と地方で明暗が分かれました。過去5年間、地方でも、総じて見れば、値下がりしてはいませんが、物価上昇率も考慮すれば、実質的には住宅の資産価値は増えていないと言えます。

以下のグラフのように、大都市の間でも、詳しく見ると、各都市の主要産業によって明暗が分かれています。
2004年から2008年にかけて資源ブームのころは、資源関連企業の拠点が多いパース、ブリスベンの上昇が顕著でした。当時、シドニーの住宅価格はほとんど横ばい、下落している時期もあります。

Source: propertyupdate.com.au

一方、2013年以降は、大企業の本社が置かれ、金融、サービス業など多様な産業に支えられたシドニー、メルボルンが力強い上昇を見せています。

ただし、過去のシドニー、メルボルンの値動きを参照すると、力強く上昇した後は、数年間、横ばいが続いています。

いつまで上昇が続くか、ピークを打った後、何年横ばいが続くか事前には分かりませんが、少なくとも、今は無理をしてまで(多額のローンを組んでまで)シドニー、メルボルンで買う時期ではないだろうと考えています。

なお、オーストラリア大都市の人口は、「シドニー市」などではなく、「都市圏」で括られることが通常です。シドニーには、日本の政令指定都市に該当する自治体が存在しません(メルボルンも同様)。38の中小規模の自治体にまたがる都市圏が、「シドニー」と呼ばれています。東京で例えれば、「東京都」や「都庁」が存在せず、区市町村だけが存在するようなものです。

現状、州政府がシドニー全体を所管していますが、都市のグランドデザインを描くためにも、将来はシドニーの都市政策専任の役所を設けてほしいものです。英ロンドンもかつては同様の状況でしたが、2000年に都市政策を担う「ロンドン市役所」(GLA)が設けられました。

一方、ブリスベンには、人口100万人を擁する「ブリスベン市」が存在します。隣接するベッドタウンの自治体も合せて、ブリスベン都市圏では人口200万人規模とされています。 

2015/08/24

キャピタルゲイン、キャッシュフロー、どちらを狙うか

将来の価格上昇が期待される場合、それを織り込んだ現在の価格が形成され、家賃の利回りは低くなる傾向があります。現状、一等地住宅の家賃利回り(グロス)は、台湾やシンガポールでは2%程度、シドニーでは3~4%程度です。

一方、将来の物件価格下落(家賃下落)が見込まれる場合、それを補うため現在の家賃利回りは高くなる傾向があります。近年、東京でも価格上昇に伴い利回りが低下したとはいえ、まだ表面利回り6~8%は狙うことができます。世界の大都市の中では高い水準です。

日本の地方都市ではさらに高い表面利回りとなっていますが、将来の価格下落に加えて、空室率の増加、家賃下落のリスクも織り込んでいると言えます。

キャピタルゲイン狙い
オーストラリアのように人口、所得(一人当たり実質GDP)が伸び続けると予測されているマーケットの場合、中長期的には住宅価格の上昇が期待できます。物価、賃金の上昇に伴い、結果的に、家賃収入も増えるでしょう。

これらを織り込んだ価格が形成されているため、現時点で、安く買うことはできません。家賃の利回りも低いです。ローンを組めば当初は(家賃が相応に上昇するまでは)持ち出しが発生します。

このため、物件を買い進め、資産規模を一気に拡大させるのは困難です。現金で購入できる資産家、不動産以外に相当な収入(サラリー)がある高所得層でないと、2件、3件と短期間で買い進めることはできません。

既に所有する物件の値上がり分(エクイティ)を抵当に入れて、次物件のための頭金を借りる方法もありますが、次物件の保有コスト、ローン返済分のキャッシュフローを別途確保する必要があります。

オーストラリアでは、投資物件を3件以上所有しているのは、不動産投資家のうちの1割未満にすぎません。日本のワンルームのように、数百万円から買える小型物件が(少なくとも都市部には)存在しないという要因もあります。

キャピタルゲイン狙いの不動産投資は、中長期的に資産を形成したい、次世代に資産を引き継ぎたいという方に向いていると考えます。一気に資産規模を膨らませ、潤沢なキャッシュフローを得てリタイアしたいという方には向きません。

なお、途上国での不動産ブームでタイミングが合えば、短期でも大幅に資産価値が増えることがあるかもしれませんが、売買のコスト、譲渡所得税を差し引けば、手元にはそれほど残らないかもしれません。

キャピタルゲイン狙いの資産形成では、数年間のスパンで、物件価格が上昇し、家賃収入も増え、ローン返済にも余裕ができた時点で、次の物件取得(買い増し)を考えるというのがオーソドックスです。

以下は、オーストラリア主要都市での過去10年間の家賃上昇率(年率)です。

Source: propertyupdate.com.au

シドニーでは、年平均4.8%上昇し、過去10年間で家賃が約1.6倍になっています。10年前に家賃の表面利回り5%で資金を投じていた場合、現在は利回り8%相当のキャッシュフローに成長したことになります。(さらに、直近3年間だけで約40%のキャピタルゲインもありました)

もっとも、直近では景気の低空飛行を反映し低い伸び率に留まっていますが、それでも年2~3%とプラス圏を維持しています。

なお、以上は各都市の平均値です。平均を上回る地区・物件を選定することが中長期でのパフォーマンスを大きく左右します。家賃収入が増えれば、当初は持ち出しが発生していたローン返済も年々楽になり、次の物件取得の足掛かりとなります。

キャピタルゲイン狙いの投資を続け、自分がリタイアする時期を迎えた際、家賃収入も相応に増えているはずですが、成長資産の性質上、資産規模の割にキャッシュフローは少ないはずです。

例えば、価値2億円相当に成長していたとしても、その時点の一般的な表面利回りが5%とすれば、家賃収入は1000万円。維持管理費、所得税を差し引けば手元には数百万円しか残りません。

そこで、この時点で売却して現金化する、キャッシュフロー型の資産に組み替えることも選択肢です。
売却せずにリバースモーゲージで銀行から融資を受け、老後資金に充てている投資家もいます。

キャッシュフロー狙い
現時点で家賃収入の利回りが高いということは、将来の物件価格の下落、家賃の下落リスクを織り込んでいると言えます。(少なくとも、多くのマーケット参加者がそう考えているため、その利回り水準が形成されています)

オーストラリアでも、戸建ての裏庭に「離れ」(俗称:Granny flat おばあちゃん用の離れ)を増築し、そこを別の世帯に貸し出すことで、家賃利回りを上げる手法もあります。もっとも、そうした特殊な物件は将来の転売先が限定されるため(おそらく、キャッシュフロー狙いの投資家しか買わない)、キャピタルゲインの側面が弱くなります。

東京でも築古のワンルームマンションであれば、ローンを組んでも、想定されるキャッシュフローは黒字で回せるはずです。持ち出しが発生しないため、物件保有の規模を拡大しやすいと言えます。

一方、オリンピック開催等による一時的なブームを別とすれば、中長期的に見て、例えば、年1%程度の価格下落、家賃下落も見込んでおく必要があります。

中長期的に人口が減少し、実質賃金もそれほど伸びないと想定されるマーケットでは、投資した最初がピークで、リターンは年々減少する可能性があります。

今のところは、個人的な実感としては、東京のワンルーム家賃も下げ止まり感があります。2年前までは、テナントさんの入れ替わり、契約更新の際には、以前より少し下げないといけないという圧力を感じていました。家賃を下げないなら、代わりに礼金(更新料)、敷金をゼロにするなど、実質的な値下げが必要でした。

現在は、管理会社さんからも「家賃据え置きで契約更新していいですか」という連絡をいただいたくらいで、価格の維持は難しくないという印象です。

もっとも、保有物件が年々古くなっているのは事実で、10年後、20年後も現在の家賃水準を保っているとは到底考えられません。

キャッシュフロー狙いの場合、持ち出しが発生しない物件であれば、買い進めることは難しくないかもしれません。しかし、当初の家賃収入をいつまで保つことができるか、将来売却した際にはキャッシュフローとキャピタルゲイン(ロス)のトータルで、どれくらいの資産を築くことができるか、シミュレーションしておくことが必要です。

人口の減少、家賃の下落リスクも考慮すると、建物が古くなっても持ち切るというのはリスクが高いと考えます。現時点ですら、郊外の築数十年のマンションは苦戦しています。20年後、安定した年金の代わりになるとは到底考えられません。

自分で一棟保有している場合は全面的なリノベーションなど手が打てるかもしれません。しかし、区分所有の場合は手段が限られます。バリューアップして家賃を上げたいオーナーと、家賃は低くて構わないからコストを掛けたくないオーナーの利害が対立することがあるからです。

自分が所有する居室内だけ立派に改装しても、建物の外観や共用部のグレード・雰囲気とマッチしていなければ、高めの家賃を払ってでも住みたいというテナントさんを見つけるのは困難です。

キャッシュフロー狙いの場合、市況を見ながらになるとは思いますが、5年、10年のスパンで、キャッシュフローから蓄えた分も活用しながら、より都心に近い一等地の、新し目の物件に買い替えていく必要があろうかと思います。将来、人口が減少したとしても、需要を維持できる優良資産を築いていくという観点です。

もっとも、キャッシュフロー型の場合、初めに取り組みやすい、黒字である限り物件を増やしやすいというメリットがありますが、毎年所得税を支払い、残った分を再投資に回すこととなるため、効率の面ではデメリットもあります。
特に、税率の高い高額所得者の場合、キャッシュフローでは赤字だが、キャピタルゲイン(含み益)で黒字となる投資スタイルのほうが有利と考えられます。

キャッシュフロー型の投資で資金ベースを築き、(当面、リタイアを考えていないのであれば)、これを原資として、キャピタルゲイン型の投資にシフトしていく戦略も考えられます。

2015/08/22

「海外投資家に人気の物件」は安心か

ブリスベンでも次々とマンションが建設されています。街のどこを見てもクレーンが目につきます。



数年前までは、一棟のマンション建物のうち、外国人投資家(非居住者)への販売は区分所有権の50%が上限という規制がありました。

現在は、外国人投資家の割合に関する制限がなくなり、メルボルンの特定の地区では、ほとんどが外国人オーナーという物件もあると聞きます。

地元の相場を知らず、多少割高でも買ってしまう海外富裕層は、ディベロパーにとっても優良顧客です。

以前、メルボルンの物件で、中国語のみの宣伝しかしてない豪ディベロパーがメディアに糾弾されていました。ディベロパーにとっては、値引きせず現金で買う外国人富裕層は自国民より優先というところでしょうか。日本でも「爆買い」が言われていますが、オーストラリアでも存在感を発揮しています。

ただし、オーストラリアでは、物品の購入よりも、不動産市場での存在感が日増しに増大しています。個人投資家の住宅購入はもとより、ディベロパー企業の進出、農地買収も行われています。

外国人投資家、中でも中華系の方は、都心に近いタワーマンションを志向するようです。しかし、オーナーのほとんどが投資家で、しかも海外に住んでいるとなると心配なこともあります。

日本の投資マンションでも珍しくありませんが、管理費や修繕積立金を滞納するオーナーもいます。これを海外まで督促するのは大変な労力とコストです。

「他の人が払っていないのだから、自分も払わない」というオーナーが続出し、しかも海外在住となると、どうにもなりません。

こうなると管理会社も補修や清掃コストを切り詰めるほかなく、荒れたマンションになっていきます。当然、家賃水準や空室率、将来の売却価格にも影響します。

また、中国でのマンション投資ではよくある慣習のようですが、空室のまま「保管」することがよくあるようです。他人に使わせると「傷んで価値が下がる」という発想のようですが。

中国ではスケルトン渡し(内装は自分で実施)なのでまだ理解できますが、オーストラリアでは内装つき(システム・キッチン、食器洗い機なども含む)ですから、全く使用していないとしても、10年も経過すれば間取りや内装、付帯設備の陳腐化(型やデザインが一昔前のものになる)は進みます。

そうした空室のままの部屋が多いと、住民が増えることを見込んで進出してきた店舗や飲食店が撤退し、まさにゴーストタウンのような様相を呈してしまいます。

こうした状況で有名なメルボルンの地区に行ったことがありますが、夜9時ごろでも、驚くほど部屋に明かりがついていません。全て、築5年以内くらいの立派なマンションです。

将来の人口増や街の発展を見込んで投資した場合は、あてがはずれるかもしれません。

「海外投資家に人気だから安心」ではなく、「海外投資家に人気であれば、リスクがある」と認識すべきでしょう。

一般に、オーナーが自分で住んでいるケースのほうが、賃貸で住んでいるケースよりも、維持管理がしっかり行われる傾向があると言われています。これは日本でもそうでしょう。

日本の投資用マンションのオーナー総会に出席したこともありますが、総70戸で、出席者は3名程度です。投資用マンションは、どこでもこんなものと聞きます。

特に海外の物件では、自ら総会に出席し、維持管理にも目を光らせるのは事実上不可能です。

他人に乗っかるようで、ちょっとずるいかもしれませんが、過半数のオーナーが自分で住んでいるマンションを購入し、建物の維持管理はこうした自己使用のオーナーに事実上任せるのが得策です。

オーストラリアでは、自宅もいつか売却することを想定しています。ほとんどの人は資産形成の一環で住宅を購入し、資産価値の維持、向上には非常に熱心です。

一般的な傾向として、大都市のど真ん中にあるタワーマンションは、投資家の割合が高いようです。特に近年販売されている大型物件は、海外投資家の割合が増えています。

以下は、中華系の方々に人気地区での新築大型物件です。ほとんど地震のないオーストラリアとはいえ、将来、土台の補強が必要になったりすると修繕費が大変そうです。



自己居住のオーナーの割合は概ね5割以上が望ましいですが、閑静な住宅街にある中小型の物件であれば、そうした条件を満たすことが多いでしょう。中小型物件では大々的なPRをしていないことが多く、特に海外や州外の投資家の目に止まりにくいのです。

海外からの投資家は、むしろそうした物件に目を向けるべきだと考えます。

2015/08/19

完成前物件(プレビルド)のリスク

マンションが完成する前に、パンフレットやモデルルームを見て不動産投資を行うケースがあります。

プレビルドの投資では、以下のメリットが考えられます。
・頭金(10%程度)だけで物件を確保できる
・残金の支払いを建物完成まで先延ばしできる
・完成前に購入権の譲渡も

一方、リスクとしては以下の点が挙げられます。
・完成時期の遅延
・躯体に施工ミス、手抜き工事はないか
・内装などが当初の説明どおりか
・完成時の住宅市況は想定どおりか

さらに、最近、プレビルド案件に関して、イギリスで為替リスク、オーストラリアで融資リスクが報じられており、紹介したいと思います。

まず、イギリス案件で報じられた為替リスクです。

本件は、マレーシアの大手ディベロパーが参画し、ロンドンで建設が行われている案件です。

マレーシア企業が関与していることもあり、マレーシア人も多数、プレビルドで購入したようです。支払いは英ポンド建てです。

頭金の支払いまでは問題なかったでしょう。建物はまだ完成していないようですが、当初と比べて、マレーシア・リンギットが英ポンドに対して既に35%下がりました。

投資家は、建物が完成し引き渡しを受ける際に残金(購入価格の約90%)を支払う必要があります。マレーシアからの投資家にとっては、リンギット建てで考えると、支払う金額が当初想定より35%増えたことになります。

資金に余裕がある投資家なら、長期投資として割り切れるかもしれません。しかし、資金繰りがギリギリだった投資家は、(リンギット建てで)35%も増額となると融資を受けられるか銀行の判断が変わるおそれもあります。

次に、オーストラリア案件で報じられた融資リスクです。

オーストラリアでは、建物完成前の案件はOff-the-planと呼ばれています。ディベロパーが計画段階で物件の売り出しを始め、建物が完成するまでに約2年間のタイムラグがあります。

例えば、2017年に完成予定のマンションの一室を、2015年に5000万円で売買契約を結んだとします。

2015年の契約時に支払うのは、たいてい物件価格の1割の500万円です。(deposit:頭金)

融資を受ける場合、この時点でも事前に銀行に相談するはずですが、これはあくまでも仮のものです。本審査は2017年に残金4500万円を借りる際に行われます。

「金融機関の現在の審査基準や、投資家の所得や資産状況に変化がなければ、2年後も融資可能と思われます」といった目安にすぎません。

融資する側としても、2017年時点で投資家の所得や雇用がどうなっているか、まだ分かりません。したがって、現時点で融資を確定することはできません。

オーストラリアでは、融資の事前審査が有効なのは、90日間程度です。2年先の融資を確約することはとてもできません。

そして、先月来、豪主要銀行が投資家向けの不動産投資ローンを絞り始めました。これは、投資家主導で不動産価格が高騰している状況への政府の懸念に応えること、返済リスクの高い融資を減らしたいという銀行自身の思惑(経営安定化)があると言われています。

具体的には、
・投資用ローンには物件価格の8割までしか融資しない
・自宅用ローンよりも高い金利を要求する
というものです。(後者は日本では当たり前ですが)

プレビルドで購入する場合、当初に支払いが必要な頭金は大抵1割です。残りの9割は、銀行から融資を受ける予定の投資家も多いと思われます。(特に豪国内の投資家)

しかし、大手銀行に関しては、8割までしか融資しない方針に変わりました。中小の金融機関も追随する可能性があります。

物件価格が5000万円だった場合、融資が受けられるのは4000万円までです。頭金で既に500万円を支払っているとしても、さらに500万円の現金を捻出する必要があります。

しかも、銀行は、独自の「物件価格」を基準に融資可能額を算定します。ローン返済が滞った場合、物件を売却して融資を回収できそうか考えているためです。

投資家が契約した「物件価格」が高すぎると判断された場合、銀行が査定した「物件価格」の8割までしか融資を受けることができません。

この場合、投資家はさらに自己資金を用意する必要があります。また、融資を受けられるとしても、当初想定より高い金利となりそうです。

このため、追加での自己資金を捻出できず、やむなく解約し、頭金を失う投資家も少なくないと懸念されています。

あるいは、物件の引き渡しまでは乗り切ったとしても、想定より高い金利支払いに耐え切れず、行き詰る投資家も出てくると懸念されています。

また、建物の完成直前で解約が続出した場合、ディベロパー側は頭金を没収できるとしても、それは物件価格の一部にすぎません。ディベロパーが資金繰りに行き詰まり、連鎖的に影響が広がるおそれも指摘されています。

悪いシナリオでは、融資の制限、金利の上昇を受けて、徐々に投資家の活動が鈍り、新築物件のだぶつき、価格の低下が起こりそうです。さらに、住宅市場の低迷を受けて、金融機関の評価額も下がり、想定していた金額の融資を受けられない、住宅購入の解約が増える、ますます在庫が増える、といった悪循環に陥るおそれがあります。

自分が購入する側の場合、こうした事態でも倒産しそうにないディベロパーを選ぶことが大切です。今回のブームに乗って、次々に案件を開発している新興企業もあります。

物件完成前にディベロパーが倒産してしまうと、プロジェクトを引き継ぐ企業が現れるかも不透明で、仮に頭金は戻してもらえるとしても、いつになるか分かりません。

2015/08/12

業界大物による、オーストラリア不動産市況の見通し

以下は、豪全国規模の不動産仲介ネットワークを一代で築いたJohn McGrath氏が講演会で示した市場予測です。

やり手と言われる実業家が、自社の豊富なデータ、顧客の動向などから導いた予測です。エコノミストの予測とは異なり、現場を知る地に足の付いた見通しとして貴重なものと思います。

・シドニーの住宅価格の上昇はピークに近い
・今回の上昇局面は、8~9割がた終わったと言える
・残りの上昇幅は3~5%ほど
・その後、数パーセント下落した後、しばらく横ばいが続くだろう
・もしこのまま10%を超える上昇が続けば、その後が心配
・以上のことは、メルボルンでも同様
・他の都市は、これから上昇局面に入るところ
・今後3年間は、特にブリスベン、ゴールドコーストが注目
・パースの市況に関しては、天然資源価格しだい
Source: Australian Financial Review

なお、この1年ほどで実際にMcGrath氏はブリスベンの支店を増やしており、単なる口先の予測ではなく、自身もブリスベンへの資金投入を増やしています。

ブリスベン市内では、New Farm、Ascot、Bulimba、Paddingtonなど、これから住宅価格の上昇が期待されている地区に拠点を設けています。

これらの地区は、利便性と住環境の良さを兼ね揃え需要が高い一方、建築規制(高さ制限)のため新規供給(特に大規模マンション)があまりありません。

一たび国内外から資金が流入すれば、一気に価格が高騰し、有望な投資先としてますます注目される可能性があります。

McGrath氏はそこまで見越して、自身のビジネス資金をこうした地区に先行投資しているのではないでしょうか。

株や商品の世界でも、著名な投資銀行やエコノミストが「これからは〇〇だ」と推奨すれば、資金が特定の株・商品にますます集まる傾向があります。

業界の著名人でやり手と言われるMcGrath氏が、「これからはブリスベン。中でもNew Farm、Paddingtonが有望」と各方面で宣伝するだけでも、自己実現的に住宅価格が付いてくるかもしれません。

2015/08/11

住宅は買うべきか、借りるべきか

家を買うのと借りるのと、どちらが得かという議論はオーストラリアでも盛んです。

オーストラリアでは、買ったほうが得だと言われています。これは、豪中央銀行所属のエコノミストが先日(個人の見解と断りながらも)発表したことでもあります。

当面予測されるローン金利、家賃水準、住宅価格の上昇などを考慮すると、同程度の物件を借りるよりも購入するほうが有利との研究結果です。

ただし、当該研究では、オーストラリアの全国平均値を使っているため、特定の都市で買ったほうが得かどうかまでは言及されていません。

いずれにせよ、最終的にどちらが良かったかは結果論で、将来を正確に見通すことは不可能です。

もっとも、オーストラリアのように人口が伸び、住宅価格、家賃も上がり続けると想定されるマーケットでは、現在の値段で住宅価格(保有コスト)を確定させることに意義があります。

例えば、将来6千万円に値上がりする可能性があるマンションを、今なら4千万円で買うことができ、借入金額もこれで固定できます。(もちろん、金利上昇に備えて手を打っておく必要はあります)

金利水準が概ね変わらなければ、将来の返済金額(保有コスト)もそれほど変わりません。例えば、4千万円のローンで、金利が4%であれば、毎月の返済(金利分)は13.3万円です。10年後、金利が4%で変わっていなければ、(元本返済が進んでいないとしても)やはり返済は月13.3万円です。

一方、賃貸を続ける場合、物価の上昇、人口の増加が続く限り、好立地物件の家賃は上がり続けると予測されます。

現在の家賃が月13万円、物価上昇率が年2%で家賃も同率上がるとすると、10年後、家賃は月16万円ほどに上がっています。20年後は月19万円です。人気地区であれば、物価以上に家賃が上昇するかもしれません。

賃貸を続ける場合は、この点に中長期でのリスクを抱えます。

平均以上に所得を伸ばせる世帯でない限り、家賃の高騰で、徐々に都市の周縁部へ押し出されるおそれがあります。こうした現象はgentrification(ジェントリフィケーション)と呼ばれ、シドニーでは既に相当進んでいますが、ブリスベンでもその兆候が見られます。

その地区に賃貸で住んでいる人にとってはたまりませんが、住宅オーナーにとっては、さらなる価格、家賃の上昇につながる好現象として認識されています。

将来もその地区に住み続けたいのであれば、特に需要の多いエリアほど、今の値段で買っておいたほうが安全というわけです。

一方で、中長期にわたり人口が減少し、物価もそれほど上がらないと予測されている日本の状況です。

オーストラリアとは逆のことが当てはまると考えます。東京ですら、中長期で見て、住宅価格や家賃が、物価以上に上がることはないでしょう。

インフレになれば名目値での価格は上がるかもしれませんが、例えば、物価10%上昇に対して、家賃5%上昇であれば、実質的には5%の下落です。

港区など都心なら大丈夫とも言えません。周辺区での価格・家賃が大きく下落すると、そんなに安く住めるならそちらで構わないという人が転出していき、都心にも間接的に下落圧力がかかります。(同様に、千葉、埼玉での価格下落は、都内周辺区の価格にも影響を及ぼすでしょう)

都心と周辺区との間に物理的な境界でもない限り、都心だけ家賃が高止まりすることは考えられません。

もっとも、望ましいことではありませんが、ロンドン、ニューヨークのように、地区によって治安が大きく異なり、安全のために特定の地区に住まざるを得ない状況になったなら、都心だけ価格・家賃が高止まりするかもしれません。

中長期的に見て、住宅価格、家賃が共に下落すると考えると、現在の価格水準で保有コスト(ローン返済額)を固定してしまうのは、経済的に得策とは言えません。

住宅購入と賃貸に関する様々なシミュレーションを見ても、住宅価格や家賃の下落を織り込んでいないものが散見されます。

経済的観点からは、20年後に1千万円の価値しかないと思われる資産を、今、3千万円で、しかもローン金利を支払ってまで買うのは合理性を欠きます。(満足感などは別です)

これから人口減少の進む日本では、一般的には、収入があるうちは賃貸を続けて家賃下落の恩恵を受けながら、引退後は全国どこでも住みたい場所に住宅を購入するのがバランスの面で理にかなっていると考えます。

一生賃貸を続けることも考えられますが、高齢になってから、家主と揉めて引っ越さなければいけないといった事態は大変です。どこかの時点で、引退後の自分のニーズにあった終の棲家を(現金で)購入するのが、経済的合理性と安心感、安定感も含め、総合的にベストではないでしょうか。

おそらく20、30年後には、地方都市の住宅価格は相当下落しているはずで、中古マンションを現金で購入するのは現在より容易になっているはずです。現在、新築で売られている物件を、20年後に「築20年」の価格で買うということです。

価格・家賃の上昇が見込める海外で不動産を購入し、自分は日本で賃貸に住むという選択も考えられます。
最終的にその物件に自分が移り住むことも考えられますし、将来海外の物件を売却し、終の棲家の購入と老後資金に充てることも考えられます。また、外貨建ての家賃を受け取り続け、年金を補うことも選択肢です。

日本国内の不動産に投資する場合は、中長期では売却価格、家賃が下落することを見越したうえで、どの時点で売却し利益を確定するか、リノベをしながら保有を続けるか、戦略的に取り組む必要があります。

今のところ、東京都の人口は年10万人程度増加が続いています。当面は底堅いですが、将来の転換点を視野に入れておく必要もあるでしょう。

現在は家賃から十分なキャッシュフローがあるとしても、20年後、30年後も同水準の家賃収入を保てると考えるのは非現実的です。

建物の老朽化、間取りや設備の陳腐化もさることながら、将来は人口減少にともなう空室率の増加、空室を埋めるための競争の熾烈化が想定されます。

また、住宅価格は金利(金融機関の融資姿勢)に左右されやすいと言われますが、一方、家賃の水準は所得の伸びに左右されると言われています。

東京のワンルーム投資の場合、当面は高齢者等の単身世帯が増加するため、空室が急激に増えることはないとしても、入居希望者の所得(年金)の低下に伴い、マーケット全体として見れば、支払える家賃水準も徐々に低下していく可能性があります。

2015/08/10

自然災害と海外不動産投資

自然災害リスクに関する国連報告書によると、フィリピンは世界2位の高リスク国となっています。(171ヵ国中)
※ 国際防災戦略事務局(UNISDR) World Risk Report 2014

フィリピンは、台風、地震・噴火に加え、島嶼国という地理的要因のため津波、海面上昇などの被害も受けやすいとされています。

なお、日本は17位、ベトナム18位、インドネシア34位、マレーシア88位、タイ90位、オーストラリア126位、アメリカ127位、シンガポール160位です。(順位が高いほど高リスク)

日本の場合は、脆弱性は低い(耐震等の対応は行われている)ものの、災害の発生可能性が比較的高いため、世界の中では高リスク国に分類されています。

別記事でフィリピンの将来人口の伸びに注目しましたが、いざマンションなどに投資となると、自然災害にも目を配らざるを得ません。台風で水浸しにならないか、地すべりは起きないか、外壁や構造の劣化は大丈夫か、などです。

現地で地震や台風が発生した場合、当然ながら不動産は動かすことも隠すこともできません。野ざらしで耐えてくれるのを祈るのみです。

このため、過去に自然災害が起こった時の履歴、建物の管理状況を見極める必要があると実感しています。同じ地区の中でも、なかなか水が引かない地点など、脆弱なスポットがあるはずです。

日本も世界の中では17位と高リスク国ですが、それでも海外から不動産投資マネーが流入しています。リスクと、それに対するリターンを冷徹に見極めての行動でしょう。(短期投資かもしれませんが)

リスクがあるから全く投資しないというのでは、平均を上回るリターンも達成できません。

オーストラリアの場合、サイクロン等の風害や洪水、森林火災、干ばつが主要リスクとして挙げられています。最北部の熱帯地域、内陸の乾燥地域や森林地帯での自然災害リスクが高く、穏やかな気候にある都市部では災害リスクは比較的低いようです。

ただし、都市部での不動産投資を前提に考えるなら、洪水リスクに関しては、投資する地区を選定するにあたり、市役所が公表している洪水マップなどで十分な調査が必要です。(特に2011年に大規模洪水が発生したブリスベン)

また、都市周縁部の新興住宅地域で投資する場合は、周りを囲む森林の火災による影響も考慮が必要です。都心の近くでマンションに投資する場合は、こうしたリスクはほぼ無縁と言えます。

2015/08/06

オーストラリア不動産投資の利回り

オーストラリアの不動産投資(住宅系)は、基本的にキャピタルゲイン狙いが本流です。

家賃収入の表面利回りは4~5%です。キャッシュフローの面では、東京のワンルームマンションのほうが優れています。

キャピタルゲイン狙いの醍醐味は、価値の値上がり(含み益)には課税されないこと、そして、毎年複利で価値が上昇することです。

キャッシュフロー型で資産を増やす場合、所得税を納めた後、残った資金で再投資を行う必要があります。

キャピタルゲイン型の場合は、いわば、税金を引かれず、増えた分を自動的に再投資に回しているようなものです。(もちろん、最終的に売却した時点で、譲渡益には課税されます)

オーストラリアでの住宅投資は、キャピタルゲイン狙いの投資となりますので、これから中長期で資産を築きたい方、または、子孫に安定した資産を引き継ぎたいという方に向いていると言えます。

今すぐリタイアして、家賃収入で生活したいという方には、オーストラリアの住宅投資は向きません。

もっとも、中長期的には物価上昇とともに家賃も上がり、相当な家賃収入になることは想定されます。しかし、短期的には、4~5%の利回りのキャッシュフローで、ここから経費負担、納税を行う必要があります。

キャピタルゲインを狙うとして、将来どれだけの価格上昇が見込めるか。我々は年率5~6%を狙うのが妥当と考えています。
これは、複利計算で、12年~14年で価格が2倍になる上昇率です。

価格上昇の要因として考えているのは以下の構成です。
・ 人口 年1.5%増
・ 一人当たりGDP(実質所得) 年1.5%増
・ 物価 年2~3%増

短期的にはマイナスになったり、10%以上上昇する時期もあるはずですが、中長期的には前記の要因で年5~6%程度、住宅価格が押し上げられると想定しています。

ただし、人口増加による価格上昇圧力をフルに享受するには、需要が増える一方で新規供給が制限される地区を選定する必要があると考えます。この点で、オーストラリアならどこに投資しても同じとは言えません。

人口が増える都市に投資するのは望ましいですが、その都市の中で、必ずしも人口が増える地区に投資するのが良いとは限りません。ある地区で大幅な人口増が予測されているということは、今後、大規模マンションが次々に建つ(役所も建築許可を与えるつもりがある)ということです。

経済的に余裕のある層が、利便性や治安などの面で、追加料金を支払ってでもその地区に住みたい。しかし、空き物件、売り物件が少ないため、値段が吊り上ってしまうという状況が投資家にはベストです。

年率5~6%の価格上昇というのは、以下のグラフのとおり、過去10年間の主要都市全体の平均上昇率とも概ね一致しています。

Source: CoreLogic RP Data

一昔前までは、オーストラリアの住宅価格は7~10年で2倍になると言われました。これは年率にすると7~10%の価格上昇です。

しかし、これからは少し減速するだろうと言われています。過去に比べて、世帯所得の伸び(共稼ぎ世帯の増加)、高いインフレ率、家計債務(住宅ローンの年収比)の増加といった、住宅価格の急速な上昇に寄与してきた要因が頭打ちになってきているためです。

以下のグラフは、1998年以降の、豪主要都市全体の住宅価格の上昇率(年率換算)推移を示したものです。

2000年代前半までは、年率15%を超える上昇が数年続くような時期もありました。近年はピークの時点で15%上昇に届くか、届かないかといった水準で、それも短期間に留まっています。

なお、2008年前後のリーマンショック時期、2011年前後の欧州債務危機でも、年率5%程度しか価格が下がっていない点も注目に値します。

Source: CoreLogic RP Data

豪中央銀行では、1990年代前半にインフレ・ターゲットが導入され、現在も物価上昇を年2~3%に収めることが目標とされています。

以下のグラフのように、かつては物価上昇率が10%を超える年や一ケタ台後半となる年も珍しくありませんでした。

近年は、景気によって多少は物価が上下しているものの、概ねターゲットのレンジ内に納まっています。2000年代後半以降では、物価が3%の水準を超えると金利引き締め策が取られ、物価が急降下している様子が見てとれます。
物価の上昇率が高止まりする可能性は、以前より低くなっています。資源価格の低迷が続く状況では尚更です。

Source: Reserve Bank of Australia

年率5~6%のキャピタルゲインは、着実な上昇とは言えますが、爆発力があるとまでは言えません。仮に、現金で購入し、家賃収入を合せても年10%程度です。

中国からの投資家は7割程度が現金買いと言われています。資産を増やすというよりも、資産を守りたい、海外に資産を分散したいという富裕層には、こうした戦略が好まれています。

一方、ローンを組んで投資した場合は、自己資金の割合にもよりますが、家賃収入はローンの返済と管理費などで全てなくなるでしょう。自己資金が少なければ、毎月の持ち出しが発生するかもしれません。

もっとも、自己資金1/3なら、キャピタルゲイン分で、自己資金比で年15~18%のリターンを期待することができます。そして、安定した物価上昇が続く限り、中長期的には家賃収入が増加し、ローン返済も楽になっていくことが期待できます。

オーストラリアは先進国ですので、途上国での投資のように一発逆転を期待することはできません。ただし、中長期的には価格・家賃の上昇を期待できます。

この点で、スタート時点での利回りは同程度でも、中長期的には価格や家賃が下がっていく(購入時がピーク)と想定されるマーケットでの投資に比べて、将来性があると考えられます。

2015/08/05

海外の仲介業者は信頼できるか

不動産取引には、売主、仲介業者、契約書のチェックや所有権移転登記を行う弁護士(司法書士)、融資を行う銀行、建物診断士など、多様なプレーヤーが関わります。

現地の法律、商慣習もあるため、いくら勉強熱心な方でも、一人ですべてを行うことはできません。

ある程度は専門家に任せる部分もありますが、相手の話が分かる程度には、少なくとも騙されない程度には、勉強しておく必要があります。

明らかに素人だと思われては、騙そうとする欲求が生まれないとも限りません。

海外投資での失敗の原因は、本来自分の味方ではない人を味方だと思う「勘違い」から始まっているものが多いようです。

基本的に、自分が直接コンサルティング料や委託料を支払っていない人、自分が直接選任していない人は、自分の味方ではありません。

昔からの友人ならともかく、無料で「ここだけの話」を教えてくれて、手間を掛けてくれる人などいません。

"他の誰か"から仕事を委託され、対価も受け取るのですから、その"他の誰か"の利益のために働いています。

日本では、業者が売り手と買い手双方の仲介を行うこと(両手取引)が認められています。一方で、例えばオーストラリアでは、両手取引は利益相反行為として禁止されています。(この点で、日本の不動産市場は、世界標準と比べて透明性が低いと評価されています)

海外で物件を探すとき、「タダで紹介してあげる」という業者がいるかもしれません。それは売り手から仲介手数料(売値の2~3%)を受け取るからです。
(オーストラリアでは、買い手からも受け取ると法律違反です。好意で無料ではありません)

「おすすめ物件」は、売り手(仲介業者)にとってのお勧めであり、必ずしも買い手にとってのお勧めではありません。

売り手側の仲介業者(seller’s agent)は、売り手の利益を最大にする法的義務を負っています。買い手の味方では決してありません。

誰が売り手側の仲介業者か。ホームページなどで売出し中の物件をいくつか紹介している業者がそうです。(オーストラリアでも、買い手側の仲介業者はごく少数ですので、基本的にはほとんどが売り手側の仲介業者です)

もっとも、味方でないなら敵か、とも言い切れません。売買が成立しないと仲介業者も売主から手数料がもらえません。仲介業者にとっては、買主も大切なプレーヤーです。

まず、買い手としては、(売主側の)仲介業者を自分の味方と勘違いしてはいけません。これが大きな失敗の根本原因です。

とはいえ、敵だと思っていては話も進められません。情報を聞き出す機会も逃してしまいます。「取引先会社の営業窓口を務めている社員」くらいの感覚でちょうどよいのではないでしょうか。
基本的には自社の利益を優先しますが、個人の売り上げ成績のこともあり、内心では様々な動機、思惑が混在しています。

売り手側の仲介業者は買い手の味方ではないことを出発点とすれば、仲介業者から提供される投資情報、パッケージで提案されているローン、契約書をチェックする弁護士に関しても、そのつもりで受け取る必要があります。

最後にまとめですが、自分が雇っていない人、自分がお金を払っていない人は、自分の味方ではありません。彼らは委託主(売り手側)の利益を守る法的な義務を負っています。売り手側の利益を図らないと、背任行為になってしまいます。

味方ではないと認識したうえで、売り手側の交渉窓口として、うまく接するということです。

オーストラリアでは、ある程度経験のある投資家であれば、仲介業者が売り手の利益を代表していることは当然分かっています。それを分かったうえで、上手に付き合います。

それでも、経験の浅い方は、親切にしてもらっているうちに、自分の味方のように勘違いしてしまうことがあるようです。(予算の上限や、いつまでにどうしても買う必要があるなど、交渉で不利になることまでバラしてしまう)

ところで、まだメジャーな存在ではありませんが、売り手側の仲介業者との交渉や物件の選定、建物診断に不安のある投資家は、買い手側の仲介業者(buyer’s agent)に依頼することも徐々に増えています。

この場合は、買主の利益を代表する仲介業者を自分で雇うことになりますので、売買価格の2~3%を買主が支払います。

このように、自分が選んで雇い、自分で対価を払う人以外は、自分の味方だと勘違いしてはいけません。

もっとも、お金を払えばちゃんと仕事をしてくれるとも限りませんから、評判、実績などを事前にチェックする必要があるのは言うまでもありません。

2015/08/04

シドニーが18%上昇
-オーストラリア住宅市況 2015年7月時点

オーストラリア主要8都市の住宅価格は、前年同月比で11.1%上昇しました。
主な都市の上昇率は以下のとおりです。

・ シドニー   18.4
・ メルボルン    11.5
・ ブリズベン     3.9

上記キャピタルゲインに家賃収入を加えた年間総リターンは、以下のとおりです。

・ シドニー     22.8
・ メルボルン    15.2
・ ブリズベン     8.8

実際に売買が行われた住宅価格の中央値。新築・中古の全体2015年7月末時点)

Source: CoreLogic RP Data

シドニーは昨年の15%上昇に続き、力強い上昇局面が続きました。ローンを組んでレバレッジを利かせていた場合、家賃収入は返済と保有コストで消えるとしても、キャピタルゲインで相当な利回り(特に自己資金比)となったはずです。

自己資金(頭金+諸経費)2割の場合、不動産価格が30%上昇すれば、自己資金(自己の持分)が2.5倍になります。2年で利回り150%です。
ただし、含み益ですので、現金化したい場合は別途売却コスト・税がかかります。

大まかなイメージでは、5000万円の物件に、自己資金1000万円、ローン4000万円で投資した場合、物件価格が6500万円(30%上昇)となれば、自己の持分価値(物件価格-ローン残高)は2500万円となります。

日本でも話題となったピケティ教授がおっしゃるように、適切な資産に投資することで、ますます資産が増えていくという状況です。

2年間で1500万円資産を増やすというのは、給料から税金・社会保険料を払い、生活費を差し引いて余った分を貯金するという手段では、通常達成できることではありません。

メルボルンも昨年の9%上昇の勢いを維持しています。

ブリスベンは、昨年の7%上昇から減速していますが、それでも3.9%の上昇と底堅さを見せています。
我々は、中長期のキャピタルゲイン年率5~6%をターゲットとしていますが、これを少し下回る水準です。

以下は、過去10年間の住宅価格の上昇率(年率)です。主要都市平均は年5.6%上昇となっています。

Source: CoreLogic RP Data

以下は、直近の底値(トラフ)からの住宅価格の値動きを示しています。

Source: CoreLogic RP Data

シドニーは底値から50%近くの値上がりと、そろそろ一相場終わりと言われていますが、どうでしょうか。


仮にシドニー相場がピークに達した場合、その後どうなるのか。これを示唆するものとして、前回のピーク後の動きを調べてみたいと思います。

以下は、前回ピーク時の価格と、現時点(2015年7月末)の価格を比較したものです。


Source: CoreLogic RP Data

シドニーは現在、前回ピーク時を40.4%上回る価格水準に達しています。
一方、先のグラフで示されているように、直近の底値からは47.9%値上がりしています。

つまり、前回のピークから底値までの下落は、単純計算で7.5%だったということです。暴落ではなく、緩やかな価格調整の水準だったと言えます。

なお、メルボルン、ブリスベンで同様に数値を計算すると、前回ピークから底値までは13~14%の下落となっています。
前回ピークで買ってしまった投資家は残念ですが、暴落というほどではありませんし、メルボルンの場合、今も持ち続けていればそれなりの含み益が出ています。

過去と同じようになるとは必ずしも言えませんが、過去の値動きを参考にするなら、今回ピークを打った後、暴落と言うよりは緩やかな価格調整が行われると言えそうです。

今、シドニーで買うべきか否か。不動産業界のニュースを見ても、シドニーの好立地では短い日数で物件が売れています。売り手もまだまだ強気です。掘り出し物を安く手に入れられる状況ではありません。

むしろ、ろくに現地も見ず、住宅診断も実施せずに買い付けを入れないと、競合者に持って行かれるような状況と聞いています。(東京でも優良物件は似たような状況のようですが)

確かに、今買わないことで、今後の値上がり機会を逃す可能性もあります。また、買わずに待っていても、大幅な値下がりの機会は来ないかもしれません。

それでも、我々の戦略では、もう少し市況が落ち着き、優良物件をじっくり見比べられるようになるまで待ったほうがよいと考えています。

住宅診断もせずにすぐ購入しないと買い負けるという状況では、バクチになってしまいます。買った後で「しまった」となっても、不動産は簡単には売却できません。