2015/08/11

住宅は買うべきか、借りるべきか

家を買うのと借りるのと、どちらが得かという議論はオーストラリアでも盛んです。

オーストラリアでは、買ったほうが得だと言われています。これは、豪中央銀行所属のエコノミストが先日(個人の見解と断りながらも)発表したことでもあります。

当面予測されるローン金利、家賃水準、住宅価格の上昇などを考慮すると、同程度の物件を借りるよりも購入するほうが有利との研究結果です。

ただし、当該研究では、オーストラリアの全国平均値を使っているため、特定の都市で買ったほうが得かどうかまでは言及されていません。

いずれにせよ、最終的にどちらが良かったかは結果論で、将来を正確に見通すことは不可能です。

もっとも、オーストラリアのように人口が伸び、住宅価格、家賃も上がり続けると想定されるマーケットでは、現在の値段で住宅価格(保有コスト)を確定させることに意義があります。

例えば、将来6千万円に値上がりする可能性があるマンションを、今なら4千万円で買うことができ、借入金額もこれで固定できます。(もちろん、金利上昇に備えて手を打っておく必要はあります)

金利水準が概ね変わらなければ、将来の返済金額(保有コスト)もそれほど変わりません。例えば、4千万円のローンで、金利が4%であれば、毎月の返済(金利分)は13.3万円です。10年後、金利が4%で変わっていなければ、(元本返済が進んでいないとしても)やはり返済は月13.3万円です。

一方、賃貸を続ける場合、物価の上昇、人口の増加が続く限り、好立地物件の家賃は上がり続けると予測されます。

現在の家賃が月13万円、物価上昇率が年2%で家賃も同率上がるとすると、10年後、家賃は月16万円ほどに上がっています。20年後は月19万円です。人気地区であれば、物価以上に家賃が上昇するかもしれません。

賃貸を続ける場合は、この点に中長期でのリスクを抱えます。

平均以上に所得を伸ばせる世帯でない限り、家賃の高騰で、徐々に都市の周縁部へ押し出されるおそれがあります。こうした現象はgentrification(ジェントリフィケーション)と呼ばれ、シドニーでは既に相当進んでいますが、ブリスベンでもその兆候が見られます。

その地区に賃貸で住んでいる人にとってはたまりませんが、住宅オーナーにとっては、さらなる価格、家賃の上昇につながる好現象として認識されています。

将来もその地区に住み続けたいのであれば、特に需要の多いエリアほど、今の値段で買っておいたほうが安全というわけです。

一方で、中長期にわたり人口が減少し、物価もそれほど上がらないと予測されている日本の状況です。

オーストラリアとは逆のことが当てはまると考えます。東京ですら、中長期で見て、住宅価格や家賃が、物価以上に上がることはないでしょう。

インフレになれば名目値での価格は上がるかもしれませんが、例えば、物価10%上昇に対して、家賃5%上昇であれば、実質的には5%の下落です。

港区など都心なら大丈夫とも言えません。周辺区での価格・家賃が大きく下落すると、そんなに安く住めるならそちらで構わないという人が転出していき、都心にも間接的に下落圧力がかかります。(同様に、千葉、埼玉での価格下落は、都内周辺区の価格にも影響を及ぼすでしょう)

都心と周辺区との間に物理的な境界でもない限り、都心だけ家賃が高止まりすることは考えられません。

もっとも、望ましいことではありませんが、ロンドン、ニューヨークのように、地区によって治安が大きく異なり、安全のために特定の地区に住まざるを得ない状況になったなら、都心だけ価格・家賃が高止まりするかもしれません。

中長期的に見て、住宅価格、家賃が共に下落すると考えると、現在の価格水準で保有コスト(ローン返済額)を固定してしまうのは、経済的に得策とは言えません。

住宅購入と賃貸に関する様々なシミュレーションを見ても、住宅価格や家賃の下落を織り込んでいないものが散見されます。

経済的観点からは、20年後に1千万円の価値しかないと思われる資産を、今、3千万円で、しかもローン金利を支払ってまで買うのは合理性を欠きます。(満足感などは別です)

これから人口減少の進む日本では、一般的には、収入があるうちは賃貸を続けて家賃下落の恩恵を受けながら、引退後は全国どこでも住みたい場所に住宅を購入するのがバランスの面で理にかなっていると考えます。

一生賃貸を続けることも考えられますが、高齢になってから、家主と揉めて引っ越さなければいけないといった事態は大変です。どこかの時点で、引退後の自分のニーズにあった終の棲家を(現金で)購入するのが、経済的合理性と安心感、安定感も含め、総合的にベストではないでしょうか。

おそらく20、30年後には、地方都市の住宅価格は相当下落しているはずで、中古マンションを現金で購入するのは現在より容易になっているはずです。現在、新築で売られている物件を、20年後に「築20年」の価格で買うということです。

価格・家賃の上昇が見込める海外で不動産を購入し、自分は日本で賃貸に住むという選択も考えられます。
最終的にその物件に自分が移り住むことも考えられますし、将来海外の物件を売却し、終の棲家の購入と老後資金に充てることも考えられます。また、外貨建ての家賃を受け取り続け、年金を補うことも選択肢です。

日本国内の不動産に投資する場合は、中長期では売却価格、家賃が下落することを見越したうえで、どの時点で売却し利益を確定するか、リノベをしながら保有を続けるか、戦略的に取り組む必要があります。

今のところ、東京都の人口は年10万人程度増加が続いています。当面は底堅いですが、将来の転換点を視野に入れておく必要もあるでしょう。

現在は家賃から十分なキャッシュフローがあるとしても、20年後、30年後も同水準の家賃収入を保てると考えるのは非現実的です。

建物の老朽化、間取りや設備の陳腐化もさることながら、将来は人口減少にともなう空室率の増加、空室を埋めるための競争の熾烈化が想定されます。

また、住宅価格は金利(金融機関の融資姿勢)に左右されやすいと言われますが、一方、家賃の水準は所得の伸びに左右されると言われています。

東京のワンルーム投資の場合、当面は高齢者等の単身世帯が増加するため、空室が急激に増えることはないとしても、入居希望者の所得(年金)の低下に伴い、マーケット全体として見れば、支払える家賃水準も徐々に低下していく可能性があります。

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