2015/12/21

フルローンの開始で、東京のワンルームは高騰が続きそう

東京で賃貸管理をお願いしている不動産会社の方の情報ですが、同社が提携している銀行で、ワンルームマンション(区分)にフルローンを出すようになったそうです。(東京・神奈川圏)

ワンルーム投資の場合、頭金1割入れても、フルローン(頭金なし)でも、80万円程度の違いしかないため、銀行側のリスクは大して変わらないとの考えのようです。

不動産価格は、景気の状況や金利水準もさることながら、銀行の融資姿勢に大きく左右されると言われています。これは世界共通のことです。

我々もそこまで不動産投資歴が長いわけではありませんが、敷地付きの一棟物ではなく、区分ワンルームにフルローンというのは、これまで聞いたことがありません。それも、ノンバンクではなく、銀行です。

購入諸経費の60万円程度の資金があれば、800万円くらいの中古ワンルームが買えることになります。

もっとも、上記のフルローンの話は、同社の仲介で購入する場合に限定されています。ローンの返済が滞りかねない物件(家賃収入に比して価格が高すぎる物件)を顧客に勧めることはないと、銀行側に信頼されてのことです。

また、現時点では、年収500万円以上のサラリーマン限定とのことです。頭金(自己資金)を入れる場合と比べて月々の返済額が増えますから、銀行側としては、念のためサラリーから補てんする可能性も見ています。

今のところは限定された動きですが、ライバル行が追随してフルローンに取り組んだり、金利を下げたりするかもしれません。

これまでは投資用資金が最低140万円貯まらないと物件を購入できなかったのが、60万円貯まった時点で投資を検討できるようになります。

そうなると、物件を追加したい投資家、初めてワンルームを購入したい投資家の需要掘り起こしにつながりそうです。

銀行が低金利、低い自己資金比率で、高所得層以外にも融資を続ける限り、不動産価格が上がり続けるというのは歴史が教えるところです。(その期間が長いほど、逆流の痛みも大きくなりますが)

銀行が融資姿勢を変えない限り、当面は東京のワンルームマンションの価格は上昇(少なくとも高止まり)が続きそうです。

政府も物価上昇を指向していること、ワンルーム価格が高騰しても実需層への影響は少ないこと(庶民が住宅を買えなくなったとの不満には直結しない)、ワンルーム融資は金融機関の経営の安定性を損ねるほどの規模ではないことから、監督官庁がすぐに水を差すということはないと考えます。

2015/12/17

2025年の都市の競争力ランキング

英経済誌エコノミストのシンクタンク、Economist Intelligence Unitが、2025年時点で予測される都市の競争力ランキング"Hot spots 2025"を発表しています。

経済の強さに大きな比重が置かれていますが、都市インフラ、人的資源、文化活動、生活環境など、32項目で、世界120都市を採点したものです。

ランキング上位は以下の通りです。

1 ニューヨーク
2 ロンドン
3 シンガポール
4 香港
5 東京
6 シドニー
7 パリ
8 ストックホルム
9 シカゴ
10 トロント
11 台北
11 チューリッヒ
13 アムステルダム
14 ワシントン
15 コペンハーゲン
15 ソウル
17 ロサンゼルス
18 サンフランシスコ
19 ボストン
20 フランクフルト
20 メルボルン

上位5位の顔ぶれは、2015年現在の構図とそれほど変わりません。

注目すべきは、シドニーが6位にランクされていることです。今から10年後には、パリと同等か、それを上回る存在感を発揮するようになると予測されています。

近年のシドニー不動産の高騰は、シドニーが、かつてのオセアニアの地方都市から、世界的な大都市に変わりつつあることを織り込む動きだとすれば、納得できます。一等地どうしで平米単価を比べれば、まだ、シドニーはパリより安いはずです。

他にオーストラリアからは、メルボルンが20位に入っています。ロサンゼルスやサンフランシスコ、ドイツで最上位のフランクフルトに並ぶ都市に成長すると予測されています。

なお、オーストラリアの他都市は、調査対象に入っていません。世界的に知られた都市としては、まだ認知されていないようです。
人口200万人を超え、住みやすい都市ランキングでも取り上げられるようになったブリスベンが、ゆくゆくは調査対象に含まれるだろうと思います。

2025年予測では、東京は5位と、シンガポール、香港に追い越される予測となっています。

総合得点では、ニューヨーク 75.7、ロンドン 73.1、シンガポール 71.2、香港 68.1、東京 68.0、シドニー 67.3、パリ 67.0です。

上位2都市が頭抜けていて、それに次いでシンガポール、少し差を開けられて香港以下のグループが続いている構図です。

成長性という点では、これからの10年で香港、東京、パリと並ぶ世界的大都市になると予測されているシドニーが面白いと思います。今後2~3年は住宅価格も調整局面を迎えそうですので、その間に品定めをしておくといいかもしれません。

2015/12/10

2016年はディベロパー受難の年に

シドニー市場の大幅下落は予測されていないものの、これまで活況に沸いたディベロパーにとっては難しい局面を迎えそうです。

第一に売却価格の低下、第二にキャンセル続出の可能性です。

売却価格の低下
まず、シドニー、メルボルンの不動産熱が冷め始めており、想定していた価格で売りさばけない可能性があります。

特に、不動産価格が既に高騰していた2015年に土地を仕入れたディベロパーについては、業界からも心配する声が挙がっているようです。

なお、オーストラリアの大手ディベロパーに関しては、土地を仕入れて大規模マンションの建築許可を取り、そのうえで外国資本のディベロパー(主に中国本土)に高値で転売しているとの事例がよく報じられていました。(いわば土地ころがし)

中国系のディベロパーは、自国の投資家に売りさばく自信があるようですが、大丈夫でしょうか。かつてジャパンマネーも、ニューヨークやハワイ、ゴールドコーストでの苦い経験がありますが。

キャンセル続出の可能性
次に、プレビルド(完成前)の契約で売買契約を結んでいた場合、買い手(特に投資家)が決済に辿りつけない可能性が指摘されています。

監督機関の指導もあり、ここ数か月来、金融機関が消極的になりました。投資用に関しては、大手金融機関では頭金2割以上が必要です。

以前は追加の保証料を支払えば、頭金5%でも購入できたため、差額の現金を用意する必要が生じる投資家が大勢いると言われています。

例えば、2016年にマンションが完成した時点で50万ドル(4500万円)で購入するという約束で、2014年時点で建築開始前に契約したとします。

これまでの一般的なケースは、1割の頭金5万ドル(450万円)を自分で用意し、残額45万ドルは銀行から借りるというものです。2014年時点では、金融機関もそれで事前了解していたと思います。

しかし、金融機関の事前審査は、その時点での参考に過ぎません。当時の条件のままで、2016年に融資を実行する義務は金融機関にはありません。

現在は融資基準が変更されたため、2016年に決済を行う際、銀行からは8割(40万ドル)までしか借りられません。残りの1割、5万ドル(450万円)の現金を決済期日までに捻出する必要があります。

実際にはさらに厳しく、銀行が融資するのは、契約書に記載された購入金額の8割ではなく、銀行が査定した資産価値の8割です。
シドニー市場の軟化もあり、仮に資産価値40万ドルと査定されると、その8割の32万ドルしか融資を受けられません。

このまま50万ドルの契約を決済するためには、手付の5万ドルとは別に、13万ドル(1200万円弱)の自己資金を用意する必要があります。

このため、追加資金を用意できずに契約不履行(手付金没収)となるケース、あるいは、あえて手付金を放棄して契約から抜けるケース(40万ドルの価値しかない物件に50万ドル支払うくらいなら、手付5万ドルを放棄するとの判断)が続出するのではと言われています。

買い手が撤退した場合、ディベロパーは手付分は徴収できますが、当初予定していた売却代金を受け取ることができません。通常、ディベロパーも銀行から融資を受けているため、返済に行き詰るリスクが指摘されています。

2007年頃までの東京の不動産プチバブルでも、新興ディベロパーがもてはやされた時期がありました。シドニーも似たような道をたどるかもしれません。

バブルの歴史を研究した経済学者ガルブレイスによると、ブーム期には「革命児」としてスター扱いされた人物が、バブル崩壊とともに断罪されるというのは、大昔から全く変わっていないとのことです。

また、先日、創業者一代で売買・賃貸仲介ネットワークを築いた企業が、オーストラリアの不動産仲介業としては初となる株式上場を果たしました。(ディベロパーはいくつか上場企業があります)
こうした象徴的な出来事があると、ひとつの時代の終わりも近いと言われることもあります。

2015/12/09

オーストラリア不動産の買いやすさ

シドニーを中心に、近年の住宅価格の高騰が報じられているところです。

オーストラリア主要都市の平均値ですが、頭金が貯まるまでの期間、住宅ローン返済や家賃支払いの負担感の推移を示したのが以下のグラフです。

Source: propertyupdate.com.au

まず。グラフの赤線(右軸)です。住宅価格の20%の頭金を貯めるために、平均的な可処分所得の世帯で、約7年かかることが示されています。

これは過去20数年間で見ても最も長い期間ですが、所得の伸び以上に、住宅価格が高騰したことが示唆されています。

一方、グラフの青線(左軸)、ローン返済の負担については、可処分所得のうち26~27%となっています(頭金2割、ローン8割を前提)。これは過去と比べても平均的な数値です。
住宅価格は高騰したものの、住宅ローン(不動産投資ローン)金利が4~4.5%と、オーストラリアとしては過去最低水準にあることが要因です。

2008年頃は返済比率が35%を超えていますが、当時のローン金利は8~9%という水準でした。(その代わり、定期預金でも6~7%くらいの利息が付いていましたが)

住宅価格の高騰で、2割の頭金を用意するためのハードルは上がりましたが、ローン金利の低下で、月々の返済自体はそれほど苦しくないというのが現状です。

若い人にとっては頭金を用意し不動産マーケットに参入するのが大変ですが、既に購入を済ませた層にとっては、金利が急騰しない限り、ローン破綻が増えることはなさそうです。

現行水準の金利が続く限り、オーストラリアの不動産マーケットが崩壊するリスクもまずないと言えます(シドニーでは調整局面があるかもしれません)。
ローン返済を続けられるのであれば、あえて安値で投げ売りする必要もないわけです。

なお、変動金利と固定金利のどちらを選択するかについては、難しいところです。後で振り返ってみれば、間違った選択をする人が多いと言われています。

近年では、最も金利の高かった2008年ごろが、固定金利を選んだ人の割合が最も高かったそうです。金利はさらに上がるに違いない、さらに上がったら大変、と考える人が多かったと聞きます。

一方、歴史的な低金利の現在、固定金利を選択する人はかなり減っていると聞きます。さらに下がる可能性が高いというのが理由のようです。

株式市場で、ピークで買って、底値で売ってしまう人が多いのと似ている気がします。

なお、「これから金利が上がる」と一般に知れ渡るころには、既に金融機関は固定金利を引き上げているはずで、金利が上がりそうになったら固定金利に切り替える、という戦術はあまり上手くいきそうにありません。

固定金利を選択し、その後に変動金利がさらに下がれば、悔しい思いをするかもしれません。もっとも、現行の固定金利でそれなりに満足できるのであれば、安心のための保険料を支払ったと考えて、変動金利より高めの金利でも良しとするのもアリだと思います。

また、グラフの濃い青線(左軸)は、家賃支払いの負担を示しています。現在、可処分所得の21%程度です。自宅を購入しローン返済をするのに比べて、5%程度負担が軽いことが分かります。

その代わり、住宅のキャピタルゲインやローン元本の目減りを享受することはできません。賃貸の場合は、その浮いた5%分で、年金基金の積み立てを増やす、株に投資する、投資用不動産を買うなど、資産形成を行う必要があると言われています。

手元資金に余裕があるからと生活水準を上げてしまうと、大変な老後が待っているとよく言われているところです。

2015/12/05

住宅は買うべきか、借りるべきか-その2

将来の住宅価格、家賃水準、住宅税制、ローン金利を正確に予測することは不可能なため、厳密にどちらが良いと結論を出すことはできませんが、以下の要因で、自分なら、日本では賃貸、オーストラリアでは自宅所有を選びます。

日本の賃貸メリット
・賃借人の保護が手厚い
 (よほどのことがなければ意に反して追い出されない。期間更新が原則
 一方、賃借人側からは、事前の申し出で、契約期間中でも退去可能)
・中長期で、家賃は低下傾向

日本の自宅所有デメリット
・住宅価格は低下傾向(都心の一部を除く)
・ローン金額が現在の住宅価格水準で確定
 (例えば、将来3千万円の価値に下がるかもしれない物件を買うために、今、4千万円のローンを組む必要がある)

オーストラリアの自宅所有メリット
・中長期で、住宅価格は上昇傾向
・ローン残債の重みは、物価上昇とともに実質的に目減り(その分、ローン金利が高いので、効果はある程度相殺されますが)
・中古市場が厚く、売却も容易(ただし、雇用者数の伸びている都市部)

オーストラリアの賃貸デメリット
・賃借人の保護が薄い(居住が保証されるのは、あくまでも契約期間のみ。更新の保証なし
 契約期間中に自己都合で退去の場合は、空室期間の家賃を補てんする義務あり)
・家賃は上昇傾向

資産運用コンサルタントの内藤忍氏の言うように、日本での自宅所有は「趣味」と捉える必要があろうかと思います。いわば高級外車を購入するようなもので、損得ではなく、精神的な満足感の話ということです。

一方、オーストラリアで賃貸住まいを続けるのは、特に老後は、かなり不安定な立場に追いやられることとなりそうです。
現行制度では、契約期間(通常、半年~1年単位)が終わるのを機に、大家が自分で住みたい(子どもに住ませたい)から退去してほしい、リノベーションでバリューアップしたいから退去してほしいという要求を拒むことはできません。

また、大家が当該物件を売却した場合、買い手も投資家であれば問題ありませんが、買い手が自分で住みたいと言うケースもありえます。

住宅ローン金利が4~4.5%のオーストラリアでは、目先のキャッシュフローだけを見れば賃貸のほうが有利です。

一方、賃貸に住む限り、住宅の値上がり益を享受することはできません。老後に向けた資産形成の点では、賃貸に住む場合は手元に残った資金を株などに投資し、住宅とは別の形で資産形成を行うことが不可欠と言われています。(想定利回りの点で、貯蓄だけでは追いつかないでしょう)

住宅ローンを組んでいる人に比べて、当面の余裕資金は多くなりますが、これを投資(資産形成)に回さず使ってしまった場合は、老後が大変になるという点で専門家の意見は一致しています。

現状のオーストラリアの年金制度は、一般に老後を迎えるころには自宅を所有している(残債もゼロ)という伝統的なライフスタイルを前提に設計されています。年金から家賃を支払うことは基本的に想定されていません。

現状では、以下のように、55歳以上の年齢層では、8割以上が自宅を所有しており(残債なしは6割少々)、賃貸住まいは15%ほどです。
若い世代ほど自宅の所有率は低く(賃貸率は高く)なっています。
Source: propertyupdate.com.au

現役時代に住宅を購入しなかった場合は、老後を過ごすための自宅を現金一括で購入できる資金、あるいは、年金+金融資産等からの収入で、問題なく家賃を払い続けられる状況を整えておく必要があります。

これができなかった場合、その個人の年金原資(オーストラリアは確定拠出型)を取り崩し、それが尽きた時点で高齢者向けの生活保護を受給することとなります。ゆとりある老後を送ることは困難です。

住宅を購入した場合は、ローンの返済という形で、いわば強制的に貯蓄(および不動産投資)をしているようなものと言われています。

確かに、いくら住宅価値が上がっても、自宅に住み続ける限り収入は生みません。ただし、中古住宅市場が大きいオーストラリアでは、売却することで、まとまった老後資金を手にすることもできます(全期間、自己使用の場合は、譲渡所得税は非課税)。売却で得た資金の一部で、小ぶりなマンションに住み替え、残りを老後資金に充てることも可能です。

オーストラリアの平均的な世帯の資産構成は以下のとおりです。不動産が半分強を占めています。これは二十数年前からあまり変わっていません。
ほかに株式が7.2%、年金基金が21.7%、その他(現預金、国債など)が19.4%です。

Source: propertyupdate.com.au

2015/12/03

毎月の手取り家賃があれば安心か

日本では、老後の年金代わりに、不動産投資に関心を持つ方が増えています。
ワンルームマンション1件で月5万円、2件で月10万円の収入を年金に加えて手にできると考えるなら、悪い話ではなさそうです。

毎月一定の金額が振り込まれるならと安心しがちですが、10年後、20年後の現実に即した状況が示されていることは稀です。

『お金持ちの教科書』の著者、加谷珪一氏がおっしゃるように、「安心」と「安全」を混同しないよう注意しなければいけません。みんなやっているなら「安心」、プロに任せれば「安心」、とは必ずしも言えません。むしろ、闇雲に「安心」を求めてしまうと、カモにされるということであります。

人口減少や高齢化の問題はひとまず置いておくとしても、建物の老朽化、間取りや設備の陳腐化による家賃の下落は織り込む必要があります。

新築マンションの供給が一切ストップすれば、古い物件でも家賃を維持できるとは思いますが、ディベロパーは、買い手がいる限り新築マンションを建て続けます。

例えば、年平均1%の家賃下落があったとして将来の家賃収入を試算し、それでも年金代わりとして満足な額だと確認できたなら、ひとまず安全と言えそうです。(加谷氏の言葉を借りれば、具体的な数値などを基に「安全」と確認できたなら、ようやく「安心」することができます。)

一方、その想定家賃から維持管理費を差し引き(老朽化に伴い、維持管理費は高くなる傾向があります)、ほとんど手元に残らないということであれば、年金としては当てにすることができません。

さらに一定の空室率、入退去に伴う修繕リフォーム費・客付手数料、また、修繕積立金が足りずに一時金を徴収される可能性も見込んでおく必要があります。

安定した賃貸経営を続けていくためには、手元に残った家賃収入を年金として全て使うことはできません。不測の事態に備えて、企業で言うところの、内部留保として蓄えておく必要があります。

我々の経験では、一度退去があると、空室損、クリーニング費等のオーナー負担分、客付手数料・広告費で、家賃3~4か月分くらいはロスが発生します。(23区内、礼金なしの場合)

「築20年を過ぎれば家賃は下がらない」と言われること(セールス・トーク?)もありますが、実際には、「築浅のころに比べて、下落速度が緩やかになる」です。立地、広さが同水準であれば、築20年と築40年で家賃が同じということはありません。

仮に築40年の物件で、築20年の物件と同じ家賃を取ろうと思えば、相当な改修費がかかるはずです。労せず実現できることではありません。また、区分所有では自分の意志でバリューアップできる範囲も限界があります。
投資効率の面では、下手にコストを掛けてバリューアップを図るより、家賃を少し下げてそのまま貸したほうが良かった、という事例も中にはあります。

なお、サブリース契約(業者借上げ)も考えられますが、オーナー側への提示家賃は、上記の維持管理費や空室損などを加味したうえで、サブリース業者の収益分を差し引いた金額となります。(そうでなければ業者もビジネスになりません)

なお、こうした業者側の取り分は、建物の建築費に乗せられている場合もあり、この場合、当初のオーナーへの提示家賃は高めに設定されます。オーストラリアでも同様の事例が報告されていますが、この家賃水準がずっと続くと勘違いしてしまうようです。

サブリース業者がテナントから受け取れる家賃水準が下落(あるいは空室率が上昇)すれば、オーナーへの提示家賃を切り下げるのも当然の成り行きです。サブリースの場合も、受け取り家賃の下落、サブリースを解約した場合(業者に提示された家賃に同意できない場合)にどう運営していくかも想定しておかないと、安心とは言えません。

長期に日本の不動産へ投資する場合、取れる家賃は当初がピークで、基本的に減少していくことを念頭に、投資計画を練る必要があろうかと思います。

一方、将来の家賃が下がる可能性が高い(少なくとも伸びる可能性が低い)代わりに、当初の表面利回りは世界の大都市と比べて相当に高いため、例えば10年ほどでキャッシュを貯めたい、短期間で複数物件を買い進めたいという向きには利用価値があろうかと思います。(まともな価格で転売できる見込みがあることが前提です)

なお、オーストラリアでは、築古物件でも、基本的に家賃は上昇を続けています。これは、建物の老朽化による家賃下落よりも、物価や賃金の伸び、人口増加による家賃相場全体の上昇のほうが速いためです。

オーストラリアの住宅投資では、当初の家賃収入の利回りは低く(現状、4~5%の表面利回り)、短期ではキャピタルゲインのほうに主眼が置かれています。
もっとも、中長期で保有することで、家賃の水準も徐々に切り上がり、家賃利回りの上昇も狙える投資であると言えます。


2015/12/01

豪不動産、キャピタルゲインの実際

オーストラリアの住宅価格調査会社CoreLogic RP Dataが、住宅の値上がり(値下がり)状況に関するデータを公表しています。これは、2015年4月~6月の売買実績を基にしたデータです。
(元の記事とレポートはこちら

オーストラリア全体では、購入時に比べて、値上がりしたケースが90.9%、値下がりしたケースが9.1%。

価格が2倍に値上がりしたケースも、全体の30.8%を占めています。

値上がり分の平均額はプラス$259,174(約2,300万円)、値下がり分の平均額はマイナス$65,585(約600万円)です。

なお、上記の数値は、同一物件の購入時と売却時の価格を単純に比較したもので、売買に係る諸経費やインフレ率などは考慮されていません。

(投資用の場合)家賃収入も併せないと最終的な収支は不明ですが、諸経費や譲渡税も考慮すれば、実質的な値上がり益はより少なく、値下がりによる損失はより大きくなるはずです。

なお、平均保有期間については、値上がりしたケースは9.9年。さらに、価格が2倍になったケースでは、16.4年。
一方、値下がりしたケースの平均保有期間は5.3年です。

単純化すれば、長期間保有しているほど値上がり益を享受できる可能性が高かったと言えます。長く保有していれば、いつかは住宅市況の値上がり局面に当たるときが来ます。また、中長期では、都市圏の拡大(人口増)や賃金の伸び、物価上昇率など、住宅価格を押し上げる要因が効いてくることもあるでしょう。

過去3年間で40%超の価格上昇が起きたシドニーでは、当該四半期の売却事例のうち、約98%が購入時と比べて値上がりを記録しています。値下がりケースは、戸建て2.2%、マンション(区分所有権)1.8%にすぎません。

Source: CoreLogic RP Data

シドニーでの値下がりのケースは、資金難などのため、購入後、すぐに売却せざるを得ない状況に追い込まれたケースだろうと推察します。また、マンションのプレビルド案件(完成前の購入)で、実勢価格より高い値段で契約してしまったというケースもありえます。

これまでシドニーでは、住宅さえ保有していれば、よほどのことがない限り、誰でも保有資産の価値を増やすことができたと言えます。

もっとも、現在のシドニーの価格で参入した人が売却を始める数年後には、値下がり案件の割合は、だいぶ違った数字になっているかもしれません。

11月末時点の価格データが出始めていますが、シドニーでもついに市場全体的に価格が下がり始めたとの報道もあります。

上記のデータで、シドニー以外では様相が異なります。
値下がり事例の割合は、メルボルンでは、戸建て3.5%、マンション10.5%。
ブリスベンでは、戸建て7.2%、マンション16.6%です。

これでもまだ、値上がり事例のほうが8割~9割と圧倒的に多いのですが、誰でもほぼ確実に儲かったとまでは言えません。

住宅需要と比べ供給がひっ迫していると言われるシドニーでは、戸建てもマンションもそれほど変わらずに値上がりしました。値下がりケースの割合で見ても、双方それほど変わりません。

一方、メルボルンやブリスベンでは、戸建てとマンションの差が顕著です。これらの都市でマンションに投資する場合は、当該エリアの需要と供給の見極めが大切です。工場や倉庫、農地だった用地の転用で、新築マンションがどんどん建つおそれのあるエリアもあります。

個人的には、戸建てとマンションの値段があまり変わらない郊外のエリア(土地が安く、マンション価格のうち建物分の割合が大きい)では、マンション投資はリスクが高いと考えます。

仮にそうしたエリアで投資する場合は、おそらく住民もファミリー層が多いはずで、戸建てを選ぶのが素直だと思いますが、戸建ては家賃利回りが低めであること、建物管理の手間がかかるというデメリットもあります。

エリアの選択については、大都市圏(各州都)とそれ以外の地方部の平均値を比べると明白です。
同調査によると、大都市圏(Capital City)は、戸建ての5.0%、マンションの8.4%が値下がりを記録。
地方部(Regional)は、戸建て12.5%、マンション23.8%です。

全般に、大都市で中長期的に物件を保有するのであれば、かなり高い割合でキャピタルゲインを狙えると言えますが、都心から離れたエリアや地方部で投資する場合、特にマンションには注意が必要です。

2015/11/25

どの価格帯の物件を狙うべきか

以下は、主要都市各地区の平均的な住宅価格をもとに、価格上位25%、中間50%、下位25%と、3つの価格帯に区分し、過去10数年間で、それぞれどのような値動きだったかを示したグラフです。(オーストラリア主要都市全体の数値)

Source: propertyupdate.com.au

住宅価格の高い地区(suburb)では、値上がり期の上昇幅が大きい代わりに、値下がり期の下落幅も大きい、つまりボラティリティが高めである傾向が表れています。(2003年頃は低価格帯がキャッチアップを演じたようですが)

逆に、価格の低い地区では、値上がり期の上昇幅が比較的小さく、値下がり期は下落幅も小さい傾向が分かります。

そして、以下は、2015年10月までの12か月間の、各都市の価格帯ごとの住宅価格の値動きです。

Source: propertyupdate.com.au

ブームに沸いたシドニー、メルボルンでは、上位の価格帯ほど、上昇幅が大きくなっています。
過去の値動きに倣えば、典型的な上昇局面のパターンです。

一方、値下がりしたパース(天然資源産業が柱)では、高価格帯ほど下落幅が大きく、これも過去の値動きに倣ったものとなっています。

高価格帯のマーケットでは、資金に余裕のある投資家とともに、そこに住むためなら追加料金も支払える高所得の実需層の需要もあるため、上昇局面では価格が上がりやすいと言われています。目下の東京都心の状況でも、これは当てはまりそうです。

一方、低価格帯のマーケットでは、比較的低所得の実需層がメインとなるようですが、他の地区と比べて価格が低いことが購入の主な動機であるため、上昇局面では価格を押し上げる力が弱いと言われています。
もっとも、この価格帯では、投資家層の参戦がもともと少ないため、価格下落局面でも振れ幅が小さいと言えそうです。

過去の傾向が示唆するこれからの動きですが、
シドニー、メルボルンが下落局面に入った場合、高価格帯の物件ほど、値下がり幅も大きくなるおそれがあります。これから参入を検討している場合は注意が必要です。

ブリスベンでは、中間の価格帯が直近では一番強かったようです。投資家(特に海外)からの注目度が低かったため、実需層が中間価格帯のマーケットをけん引していたと考えられます。

もっとも、これから本格的に上昇局面を迎えた場合、過去の値動きに倣うなら、高価格帯の物件が上昇幅を伸ばす可能性があります。

これまでシドニー、メルボルンに投じられていた資金がブリスベンに向かった場合、シドニー、メルボルンとの価格差も考慮すれば、ブリスベンの上位25%が投資ターゲットとなる可能性が高いです。

もっとも、直近でシドニー、メルボルンの不動産が活況を呈したのは、サービス産業の比重が高く、雇用も多く生まれたことも要因です。

資源産業の景気が良かった時期であれば、パースやブリスベンに移住していた人々が、シドニー、メルボルンに留まり、過去に比べて人口の伸びも大きかったようです(住宅需要の増加)。

したがって、今後、より良いリターンを求めて、投資家の目は割安のブリスベンに向くかもしれませんが、雇用の増加、人口の増加の面でまだ不透明なところがあり、実需層の弱さがブリスベンの住宅価格の重しになるかもしれません。


2015/11/23

これから注目の世界の成長都市

世界80カ国に拠点を持つJLL(総合不動産サービス企業)が、都市の競争力に関するレポート「Globalisation and Competition: The New World of Cities」を公表しました。
元のレポートはこちらから。

ロンドン、ニューヨーク、パリ、東京、シンガポール、香港の6大都市を、'Established World Cities'(確立した世界都市)としています。都市インフラ、経済活動、人的資源などの総合的な指標で、別格という扱いです。

もっとも、今後10年間で他の都市が台頭し、この「6大都市」という枠は、「8大都市」や「10大都市」に拡大されると予測されています。この枠に新規に入る有力候補として、シドニー、ソウル、トロントが挙げられています。

また、近年、国際的な存在感を高めている'New World Cities'(新しい世界都市)として、以下の20都市が挙げられています。

コペンハーゲン
ウィーン
ミュンヘン
モントリオール
オスロ
ハンブルク
トロント
バルセロナ
ベルリン
バンクーバー
ボストン
メルボルン
シアトル
マイアミ
ブリスベン
オークランド
デンバー
ケープタウン
テルアビブ
サンチアゴ

オーストラリアからはメルボルン、ブリスベンの2都市が'New World Cities'に入っています。

従来は、シドニー、メルボルンの2大都市が有名でした。一方、ブリスベン都市圏の人口も200万人を超え、中長期的に人口増加が続く見込みで、これから世界的な認知度が高まりそうです。

近年、エコノミストやモノクルなどが主催する、世界の住みやすい都市ランキングでも、ブリスベンが取り上げられるようになりました。
従来はおそらく「調査対象外」の無名都市だったと思いますが、昨年のG20開催もあり、世界的に名前が売れつつあります。

なお、ブリスベンで2028年の夏季オリンピックを招致する動きがあり、州政府・市役所として正式に招致活動を行うか否か、2016年中に結論を出すようです。

シドニー、メルボルンでは過去に開催していること、また、現在のIOCのルールで7月~8月(オーストラリアでは冬)の開催が要件となっていることから、将来オーストラリアで開催する場合は、1年を通じて温暖なブリスベン・ゴールドコースト周辺しか選択肢がないと言われています。

また、上記リストのうち、トロント、バンクーバー、シアトル、マイアミ、メルボルン、オークランドは、海外からの投資資金の流入で、住宅価格が高騰しているとよく報じられています。6大都市と比べて市場規模が小さいため、沸騰しやすいと言えます。

特に途上国の富裕層は、将来の移住の可能性(子女の留学もその足掛かりと言われる)も視野に入れているため、英語圏で生活環境の良い都市が選好されるようです。

'Established World Cities''New World Cities'とは別に、存在感を高めている途上国の大都市が'Emerging World Cities'として挙げられています。分類は以下のとおりです。

その地位を確立しつつある都市
上海、北京

競争力ある巨大都市
イスタンブール
クアラルンプール
台北
メキシコシティ

機能的な新興都市
ドバイ
サンチアゴ
バンガロール
深圳

インフラ整備に課題を抱えるが、潜在力のある都市
ムンバイ
マニラ

ジャカルタ

マニラ、ジャカルタも中長期的な成長が魅力的ですが、個別物件の賃貸管理のリスクを勘案すると、我々がいずれ投資するなら、REITか、住宅やオフィスを開発・販売している企業に投資するかなというのが、現時点での感覚です。

人口が増えるということは、新規の住宅供給も相応に増えるということです。自分が購入する物件の将来の競争力がどうなるか、より好立地に高層マンションが林立しないか、都市の中心が移動しないか、など見極めが大切だと思います。

どの地区の人気が高まり住宅価格が上がるかは分からないが、とにかくどんどん住宅が建ち、買い手もいくらでもいるという状況が想定されるのであれば、住宅の売り手サイドへの投資も面白いと思います。住宅の売れない時期を乗り越えられる経営陣の先見性、企業体力があることが前提ですが。

2015/11/19

オーストラリア住宅価格予測--2015~2016年 (2015.10月現在)

豪4大銀行の一角ナショナル・オーストラリア銀行(NAB)の見通し(2015年10月現在)によると、今後、シドニー、メルボルンは急減速、2016年にはブリスベンが上昇率1位となりそうです。

予測値(年間上昇率)のイメージが示されたグラフは以下のとおりです。


NAB Quarterly Australian Residential Property Survey

ブリスベンが1位といっても、年率5%弱で、力強い上昇とまでは言えません。シドニーの次の値上がり都市はブリスベンと過去2年ほど言われてきましたが、NABの見通しでは、ブームにまではならないようです。

もっとも、上記グラフに表れた傾向が続けば、シドニー、メルボルンは2017年にはマイナス成長となる可能性があります。今後2年間で言えば、ブリスベンが最も堅調な値上がりが期待できそうです。
家賃収入4~5%+キャピタルゲイン5%であれば、それほど悪い数字ではありません。

ただし、アナリストが出すこうした予測は、現在の傾向が続いたらというシナリオを前提とします。世界経済に予想外のことが起こったり、可能性が低いと想定されていたことが実際に起こった場合、おそらく異なる結果となります。

例えば、オーストラリアの景気が想定以上に悪化し、移民流入(人口増加)も減速したり、あるいは逆に、途上国でキャピタルフライトが起き、特定の都市に資金が流れ込んだ場合は、この予測とは異なる結果となるでしょう。

ところで、同レポートでは、外国人投資家の動向も紹介されています。

以下のようにビクトリア州(メルボルン)では、売りに出された新築マンションのうち28.5%を外国人投資家が購入したようです。

NAB Quarterly Australian Residential Property Survey 

もっとも、この数値には、豪国籍(永住権)を持つ親族など、海外からの投資であることを当局に報告する義務のない他者名義で購入する「裏口」は含まれていないため、実態の数値はさらに高いと言われています。
(豪当局は、ようやく今年から捜査権限を国税庁に移管し、本格的に取り締まるようになりました。罰則も厳格化されています)

また、3か月前に比べて、クイーンズランド州(ブリスベン、ゴールドコースト)の数値が上昇し、NSW州(シドニー)を上回るに至りました。
まだ割安とされるブリスベン、ゴールドコーストに外国人投資家の目も向き始めたようです。

一方、日本でも「シドニーでは普通の戸建てが1億円」と報道され、オーストラリアの不動産はバブルではないか、大丈夫かと聞かれることもあります。

確かに、現状、適正価格よりは割高と言われていますが、「普通の戸建て」と言っても、平均的な敷地面積は400~600㎡あります。

今、東京の練馬区(平和台駅徒歩7分)で、175㎡の敷地で1億円で売りに出ている中古戸建が見当たりますが、平米単価で見れば、東京のほうがよほど高いです。
ただ、オーストラリアでは、戸建てもマンションも、ロットが大きいため、「戸当たり」で見た価格はどうしても高くなりがちです。

日本の1980年代後半のバブルでは、ピーク時、新宿の新築ワンルームが1億円で売れたと聞いています。専有面積20㎡程度と思いますが、平米単価500万円と、これこそが正真正銘のバブル価格です。

現在建築中の、目黒駅前のマンションが平米単価200万円程度のようです。好立地ではありますが、千代田区の番町や港区の麻布、赤坂と比べ、東京の一等地の中の一等地とまでは言えません。
それが平米200万円するのであれば、シドニーの価格も都市の規模に比して割高ではあるものの、バブルと喧伝されるほどではなかろうと思います。

2015/10/25

最近のオーストラリア不動産市況の動き

シドニーのオークション成約率は、今週も70%を割り込んだようです。2016年半ばごろからの価格下落を予測する声が増えてきました。

一方、ブリスベンは60%弱と、60%前後での推移が定着してきました。市場が温まってきたようですが、どんどん値上がりするほどの熱気ではありません。

シドニーとブリスベンの住宅価格の差は、十数年ぶりの水準にまで拡大しています。今後数年のスパンでは、ブリスベン、ゴールドコーストが価格上昇の主役候補として挙げられることが多いですが、年率45%程度の穏やかな上昇というのが大方の予測です。

ブリスベンが割安とはいえ、資源価格の低迷が続き地域経済もそれほど好調とは言えないこと、金融機関がローン金利の引き上げに転じたことが、穏やかな上昇に留まる理由とされています。

4大銀行の住宅ローン金利は、Westpac銀行を皮切りに、1、2週間のうちに、ローン金利引き上げで全行そろい踏みとなりました。金融機関の横並び意識は、世界共通のようです。

今回の利上げは過熱する不動産市場への警鐘が主な理由とされており、他行も追随して対策を取った形にしておかないと、後で経営責任を問われかねないという考えかもしれません。

これから中小の金融機関にもローン金利引き上げが広がると言われています。少なくとも、金利を下げて顧客を獲得しようとする競争にはストップがかかったと言えます。

豪中央銀行が利下げすると、金融機関も住宅ローン金利を下げるというリンクは、今回の動きで途切れました。
中央銀行としては、不動産市場の過熱を気にすることなく、景気刺激策として利下げしやすい環境となるため、豪経済全体にとっては悪くない話かもしれません。

過去の値動きを見ても、シドニー、メルボルンで価格が高騰してから、ブリスベンも後追いで価格が上がりはじめる傾向があります。このタイムラグは、概ね1年から1年半と言われています。

今回もようやくブリスベンに順番は回ってきそうですが、残念ながら全般的な投資環境に関して逆風が吹いている状況です。

専門家の見解も以前と比べてトーンダウンしており、おそらく、2018年くらいまでの今回の上昇局面では、ブリスベンが大幅上昇を見せることはなさそうです。次回の上昇局面で、金融機関の積極的な融資姿勢、資源価格の回復が重なると、シドニーとの価格差を埋めるべく、ブリスベンがブームを迎えるかもしれません。

また、ブリスベンの戸建ての価格は、シドニーと比べればそれほど高くありません。シドニーでは比較的都心に近いエリアに住みたければ、一般の人には戸建ては論外で、当然マンションとなりますが、人口が半分のブリスベンではまだ戸建てにも手が届きます。

当然ながら、同じエリアでそれほど値段が変わらないのであれば、マンションよりも戸建てが選好されます。また、「郊外の戸建てよりも、都心のマンションのほうが格好いい」という意識は、シドニーでは浸透してきていますが、ブリスベンではまだまだです。

したがって、当面のブリスベンの価格上昇局面では、おそらく戸建て中心に値が上がっていくと考えられます。単純化すると、手が出ない価格まで戸建て価格が上昇すれば、価格差を埋めるべくマンションも高騰が始まるというイメージです。

もっとも、自分が住む場合はともかく、投資物件としては、戸建てには維持管理の手間や、木造ならシロアリ、価格の割には家賃が取れない(家賃利回りが低い)などの問題もあります。

ブリスベンのような地方都市でマンションに投資する場合は、戸建てとマンションの価格差が大きい地区で、しかも新築マンションの大量供給が起きにくい地区を選定するべきと考えます。

戸建てとマンションの価格差が大きい地区とは、言い換えれば、地価が高く、よほどの高所得世帯でないと戸建てには手が出ないため、それなりの所得がある世帯でもマンションを選択せざるを得ないという地区です。

なお、近年の東京市場では、統計上、戸建てよりもマンションのほうが値上がり率は高いですが、これは戸建てが多い郊外エリアと、マンションが多い都心エリアの立地の違いが大きいでしょう。

オーストラリアでは、相続税がないことも関係していると思いますが、都心に近いエリアにも400600㎡の敷地を有する戸建てがたくさん残っています。

2015/10/19

シドニー住宅市場 クールダウンの兆候

マーケットの熱を反映しやすいオークション成約率ですが、シドニーでは徐々に切り下がっています。
3か月前までは82%前後でしたが、10月17日時点、ついに65%まで低下しました(黒い折れ線)。週によって上下動はありますが、趨勢として下がってきているように見えます。

Source: Domain

一方、緑の棒グラフはオークションで売りに出された物件数(各週)です。こちらは趨勢的に増加しています。売り惜しみしていたオーナーが、そろそろ潮時と読んで売り物が増えていると考えられます。
※10月3日が少ないのは連休中を避けたためで、その前後の週が増えています。

先日、4大銀行の一つが、住宅ローン金利を0.2%切り上げたところですが、買い手の意欲は徐々に沈静化しています。一方、売り物は増えているため、複数の買い手が競って値を吊り上げることも起こりにくくなります。

なお、この銀行の動きが衝撃を与えたのは、投資用ローンだけでなく、自宅用の住宅ローンの金利も上げたためです。豪中央銀行はどちらかというと利下げに向かっているにもかかわらずです。
このため、(特にシドニーの)住宅市場はそんなにヤバいのか(銀行は、返済リスクを読み取ったから金利を上げた)という印象を与えました。

もっとも、シドニー住宅の価格については、中心地から離れた一部の地区を除いて、下がったという報告はまだありません。大方の予測では、もう少し(例えば5%程度)はまだ上がると言われています。その後も、緩やかな価格調整(1~2年をかけて、5~10%の下落)を予測する声が大勢です。

ピークに達した後も、株のように価格が急激には下がらないのは、住宅の6~7割が自己使用(自宅)であること、また、売却にも相応の取引コストがかかるため、価格が多少下がったとしても売りが売りを呼ぶ状況にはならないためです。

また、アメリカのサブプライム・ローン問題の際は、銀行差押えの競売が多発し、これが値崩れを誘発したようです。この原因は、(金融機関どうしの過剰競争で)誰にでもノン・リコースローンが提供されていたためと言われています。
※ノン・リコース:抵当に入れた住宅を銀行に明け渡せば、ローン残債は免除

オーストラリアでは、個人への融資でノン・リコースはありません。値下がりした自宅を売却したとしても、残債の返済を続ける必要があり、自宅を簡単に売りには出しません。結果として、住宅市場の値崩れが起きにくいと言われています。

もっとも、大都市の中の特定の地区については、投資用物件が8割を占めるケースもあり、もう儲からないとなったら売りが増えるおそれのある地区もあるため注意が必要です。

2015/10/15

ブレビルド(完成前)物件のリスク-シドニーの事例

シドニーのプレビルド案件については、近頃、所定の期日までに完成できないという理由で、ディベロパー側から既存の契約を解除し、改めて別の買い手に高値で売る事例が複数報告されています。

既存の契約者としては、頭金は返却してもらえますが、その間の物件の値上がり益を享受することができません。2~3年間を無駄に過ごしたことになります。

今回報告された事案では、マンションは完成しましたが、当初に約束された内容とはずいぶん違うというものです。

シドニー在住のK氏は、2012年、まだ建築が始まっていない段階で、都心の1LDKのマンションを約5000万円で購入する契約を結びました。

2015年の現在、間もなく完成ということで内覧したところ、パンフレットで示された以下のイメージと全く異なるものだったとのことです。

パンフレットでのイメージ
Source: Domain

1LDKですから、寝室1つと"LDK"で、全部で2部屋あるはずです。しかし、内覧したところ、仕切りの壁もドアも全くなく、1部屋しかないワンルームの状態だったというのです。

専有面積は予定通りだったとしても、1LDKとワンルームでは、需要層も異なりますから、資産価値も違ってしまいます。

本来は前掲イメージのとおり、仕切り壁とスライド・ドアで独立した寝室になるはずでした。
ディベロパーの言い分によると、市役所が当初どおりのレイアウトでは建築許可を出さなかったため、仕方なく壁を撤去したとのことです。

確かに写真を見ると、採光窓も通気口もありませんので、本来はベッドルームとして認められません。

ディベロパーとしては、固定の壁ではないからグレーゾーンで認められると見込んでいたようですが、結局、この場所に壁を作り寝室を設けてはいけないと市役所に言い渡されたようです。

ディベロパーとしても一部、非を認めており(少なくとも、契約者に告げずに建築を続行したのは問題です)、契約を解除して頭金を返却するか、内装をアップグレードした上で広めのワンルーム物件として受け入れるか、の選択肢を提供しています。

K氏は弁護士と相談中とのことですが、裁判をするにしても訴訟費用と時間がかかります。

なお、当該物件の内部専有面積は42㎡とのことですが、シドニーでは1LDKとして許可される最少面積は50㎡です。本件では、購入前に専門家に相談していれば、何かがおかしいということは明らかだったとも言えます。

シドニー(NSW州)での最低専有面積(バルコニーを含まない)は以下のとおりです。日本のワンルームのような20㎡ほどの物件は存在しないため、投資金額はどうしても高くなりがちです。

  • 35m2 for studio (ワンルーム)
  • 50m2 for 1 bedroom
  • 70m2 for 2 bedroom
  • 90m2 for 3 bedroom


当初予定より部屋の数が一つ少ないというのにK氏はショックを受けたようですが、他にもパンフレットで説明されていたグレードとの違いを指摘しています。ご参考までに、比較写真を以下に紹介します。

他にいくつも物件を保有しており、一つくらい失敗しても大した問題ではないという方は別として、やはり完成後の新築物件を内覧したうえで購入契約を結ぶほうが安全です。完成前に完売してしまうようなブーム期を避けるということでもあります。

パンフレットのイメージ

 完成時の実際
おそらく向かい建物とのセットバックの関係で
バルコニーは縮小。キッチンも別タイプに

パンフレットのイメージ
 高級ホテルのようなバスルームになるはずが、

完成時の実際
普通のタイル張り、シャワーもシンプルに。
ただし、こうした内装変更がありうることは、通常、契約書にも明記されています。
Source: Domain

2015/10/01

割安の郊外物件に投資するリスク

シドニーの都心から30~40km離れた周縁地域では、オークション成約率が50%にまで低下したと報告されています。どんな地区でも、どんな物件でも売れるような熱が冷め始めたことは確かなようです。

この点から、将来の投資にあたっての示唆を見出すとすれば、たとえ人口増加が続いているとしても、周縁地域から先に投資熱が冷め始めるという点は留意しておくべきと思います。

通常、こうした周縁地域は、価格が上がり始める時期も後れを取ることが多いため(都心近くの住宅が手が出ないほど高額になってから、ようやく周縁部が注目される)、結局、値上がり局面の期間が短いということになります。

住宅を探すにあたっては、できることなら、より勤務地に近い場所、より便利な場所に住みたいと考えるのが自然な感情です。予算の都合でそれが叶わない場合、1駅、2駅遠い地区を検討し、それでもダメならさらに遠方を、という順序で検討するケースがほとんどと思います。

都心近くでも、街の雰囲気や治安によって、必ずしも郊外より高いとは限りませんが、基本的には、価格も家賃もまず都心近くのエリアで上昇し、周辺に波及していくのが通常です。

割安と感じられる価格が形成されているのは、それなりの理由があるはずです。周縁地域や地方の小規模都市で「一発当てる」ことを狙う場合は、他の大勢のマーケット参加者がまだ気付いていないポテンシャルを見抜く必要があると思います。

電車の新線が開通する、新駅ができるというのが典型的ですが、大当たりを狙うなら、こうした話が住宅価格に織り込まれていない段階で動く必要があります。

その場合、大きなリターンを狙う代わりに、新線が計画倒れに終わるリスク、開通が遅れるリスク、駅や線路の位置が当初計画と変わるリスクを取ることとなります。

一方、こうした計画の実施がかなり確実になってから参入する場合、まだアップサイドは残されていると思われますが(騒音問題などの不確実要素の裏返し)、リスクを取って初期に参入した投資家や、たまたま昔からそこに住宅を持っていた人に比べて、リターンは少なくなると考えられます。

なお、真の初期参入者は、住宅の買い手ではなく、そこで広大な土地を仕入れて、期が熟すのを何年も待っていたディベロパー(住宅の開発事業者)です。

オーストラリアでは、都市部の鉄道はたいてい州政府が運営しています。ディベロパーは、政権交代などで新線の計画が白紙撤回された場合、買い手のつかない広大な土地を持てあますリスクを負っています。その一方で、プロジェクトが無事に完遂されれば、リターンも大きく取ることができます。

住宅の購入者も、将来、予想通りに街が発展すればリターンは狙えると思いますが、ディベロパーが初期参入者として一定のリターンを取りますから、過剰な期待は禁物です。

2015/09/29

シドニー住宅投資の買い時を探る

次の買い時については、前回こちらの記事で価格水準の面から検討しました。今回は、「マーケットの熱気」の面から検討したいと思います。

以下は、シドニーのオークション成約率の推移です

Source: CoreLogic RP Data


2015年半ばにかけて、オークション成約率は90%近くに達していました。ほとんどどのような物件でも、売り手の希望価格を上回る買いが入る状況です。「今買わないと、二度と買えなくなる」という心理が支配していたと言えます。

その後、徐々に沈静化し、現在は70%ほどに低下しています。売れる物件と、そうでない物件の選別が始まっています。

過去2年間、一時的に成約率が70%まで低下し、そろそろシドニーの住宅ブームも終わりかと言われましたことが何度かありましたが(折れ線グラフで谷になっている時期)、その後、盛り返す動きが繰り返されました。

今回は、90%という歴史的水準に達した後で、そのまま低下を続けるのか、これまでのように盛り返すのか、注目を集めています。

なお、今回のブーム前、2010年から2012年にかけて、シドニーでのオークション成約率は50%程度で横ばいとなっていました。

過去の数値を参考とするなら、今後、成約率が低下を続け、1~2年の間、50%水準での推移が続く局面を迎えたとしたら、次の上昇局面の準備が整いつつある買い時と考えることができそうです。

もっとも、すぐにこの局面には到達しそうになく、これから数年はかかるかもしれません。

数年先になるかもしれないことを今お話ししている理由は、事前調査から実際の購入まで時間がかかるためです。

頭金の準備、ローンの事前審査、投資する地区、ストリートの選定(できれば事前の下見)などは一定の時間が必要です。仮に買い付けを入れたとしても、競合者もいますので、一発で購入できるとは限りません。

これまでのシドニー市況でも、これだという物件が売りに出ない、売りに出ても競合者に持っていかれる、という状況で、買いたくても買えない状況が1年以上続いている購入希望者の話は珍しくありません。そうして機会を逃している間に、価格は15%も値上がりしています。

「今が買い時だ」と誰もが思うようになってから情報を取り始めたのでは、出遅れる可能性があります。

豪在住の方は、今から行動を起こす必要はないかもしれませんが、特に海外から投資を考えている方の場合は、機会を捉えて、投資候補先のエリアを旅行がてら下見しておくのもよいと思います。

2015/09/23

次のシドニー住宅ブーム(バブル)に乗るために

このところ、大手の金融機関、投資銀行がシドニー住宅市場へ警鐘を鳴らす頻度が増えました。

適正な住宅価格に比べ、ゴールドマンサックス(米投資銀行)によると20%割高、バークレイズ銀行(英)によると14%割高とのことです。ソース記事(ブルームバーグ)はこちら

また、それとは別に、モルガンスタンレー(米投資銀行)もオーストラリアの不動産市場はピークに達したと表明しています。

「シドニー住宅市場はバブルだ」と言われることもありますが、ゴールドマンサックスの主張する20%程度の割高であれば、バブルとまでは言えないのではないでしょうか。

過去3年間で45%上昇というのは相当な伸びですが、2012年時点の価格が割安だったという要因もあります。現在はオーバーシュート(過熱)局面であろうと考えます。

いずれにせよ、投資家としては、今のシドニー市場にこれから参入するのは得策とは言えません。そこで、次に参入するならいつが適切か、以下のシナリオ(ソフトランディング)をもとに検討します。

- 2015年現在は適正価格より20%割高
- 2016年は上昇率が5%に鈍化
- 2017年、2018年は、年5%下落
- 2019年以降は横ばい
- 潜在的な「適正価格」は毎年4%上昇

「適正価格」については、物価上昇(インフレ)率2~3%、実質賃金伸び1.5%、人口増加2%(大都市圏)を考慮すれば、基本的に上昇が続くと想定されますが、少し弱めに年4%上昇として検討します。

過去数十年のデータでは、住宅市場全体を見ると、年平均7%で価格が上昇してきたようです。もっとも、直近では資源ブームによる好景気、その前は高金利(物価高)、共稼ぎ世帯の増加(世帯収入増)、ローン借り入れの増加という、住宅価格を押し上げる明確な要因がありました。

これから当面は低金利、資源価格の低迷、世帯収入や借り入れは微増ということで、年7%ペースでの上昇は続かない、せいぜい年5%程度が妥当との意見が大勢です。

なお、我々が実際に投資する際には、住民の所得が平均以上に伸びており、さらに人口増加による住宅価格の上昇圧力を受けやすい(新規供給が需要に追い付かない)地区を選定しています。

2012年のシドニー住宅の実勢市場価格を100とし、2015年の価格を145(45%上昇)として、上記のシナリオをあてはめたものが下表です。(筆者作成)


これをグラフ化したイメージは以下のとおりです。

この試算を前提とすると、今回のシドニー住宅ブームが始まった2012年は、適正価格より7%割安であったと言えます。

また、これから徐々に住宅価格が落ち着き、物価や賃金の上昇が概ね現状どおり続くと仮定すると、2019年には市場価格が適正価格を下回り、2020年には2012年当時と同じような状況となりそうです。

当面は東京の不動産市場の活況に乗っておき、オリンピック頃を契機に、シドニー不動産に乗り換えるという戦略も考えられます。

なお、今回のシドニー市場の上昇局面がさらに続き、本当にバブルと言える状況になった場合、あるいは物価、賃金の伸びが想定以上に低下した場合は、調整期間が長引き、割安感が出るまでの時期が後にずれると思われます。

過去の株や不動産バブルの研究によると、バブルが発生するためには何らかの「神話」が必要なようです。

「地価は絶対に下がらない」「IT革命」「新興国経済は先進国の停滞と切り離されている」など、価格が上がり続ける理屈を多くの専門家が提唱し、一般の人々もそれを確信するようになる必要があります。

少し前に大幅に下落した中国株も、「政府が下落を容認しないはず」と多くの人が信じていたようです。

こうした「神話」に当初は懐疑的だった人、投資に縁遠いタイプの人(最後の買い手)が、周りの知人も儲けていると聞き、ついに我慢できずに参入した時点が、バブルの最終局面です。

バブルの時期には、みな合理的な行動をしているつもりであり(投資していない人のほうがバカにされる)、さらなる価格上昇が行動の正しさを裏付けるため、それがバブルかどうかはバブル発生中には通常気づきません。
崩壊した後で、「あれはバブルであった」と初めて一般に認識されるようです。

昭和の株、不動産バブルのときは、価格が下がり始めた際も、「これは調整であって、すぐにまた上がりはじめる」と考えていた人も多かったと聞きます。

目下のシドニー住宅市場の場合、まだ価格は下がっていませんが、既に「バブルだ」「割高だ」と多方面から声があがっています。一般の住民、投資家も、このペースで価格が上がり続けると信じている人はほとんどいません。バブル相場の典型的な要素が欠けているようです。

なお、豪国内ではシドニー市況が割高であることは「常識」と言えますが、かく乱要因としては、人民元建て、米ドル建てで換算すると、そこまで割高になっていないことです。特に中国から大量の資金が流入すると、人口2400万人に過ぎないオーストラリアには相当な影響を与えます。

豪金融当局も不動産投資向けローンの増加に歯止めをかけるよう指導しており、少なくとも国内要因では、過熱感は収まりつつあります。
もっとも、貸出総量の増加速度を緩やかにするという趣旨であって、前年比で減少させるという趣旨の指導ではないため、相場のクラッシュにつながるとは考えられていません。

なお、シドニー、メルボルンの不動産市場が沈静化すれば、豪中央銀行は心置きなく追加利下げができると言われています。為替を扱われている方は、この点も留意すべきと思います。

今回は本当のバブルには至らず、ブームのレベルで幕を閉じそうです。現在は資源価格も低迷しており、オーストラリア経済がどこまでも成長するといった「神話」を描くには至りませんでした。

もっとも、次回のシドニー住宅ブームと、資源価格上昇のタイミングが重なった時、正真正銘の住宅バブルが発生するかもしれません。ただ、資源価格が要因となる場合、2000年代半ば頃の実績から考えると、ブリスベン、パースのほうが爆発力がありそうです。

2015/09/19

オーストラリア地元投資家の動きも参考に

日経新聞記事によると、日本で投資用不動産を所有しているのは320万人。一方、オーストラリアでは180万人です(税務統計)。オーストラリア人口は日本の1/5であることを考えると、オーストラリアでは不動産投資がかなり活発と言えます。

また、自宅として使用の場合も、多くの人は資産価値(将来の売却価格)を強く意識しています。実需層も実質的には投資家の視点で自宅を購入していると言えますが、これはオーストラリアの年金制度が自己責任の割合が大きいこと(確定拠出型)が要因と考えられます。

また、これは家庭によるところもありますが、子供のころから親と「モノポリー」という不動産取引ゲームで遊んだり、18歳の誕生日には「これからは自分で資産を築いていくんだぞ」という意味合いで株やファンドを贈られたりすることも珍しくありません。(アングロサクソンの文化でしょうか)

子供のころから投資ゲームに親しんだり、若い時から投資に向き合っている人は日本よりも多いようです。なお、我が家にある「モノポリー」の対象年齢には、8歳~成人と書いてあります。

ご自身が物件の購入を検討している場合、他の購入希望者(地元の人)がどのようなタイプかに目を配るのも参考になると思います。抜け目のなさそうな投資家タイプか、業者に言いくるめられそうな経験の浅いタイプか、などです。

また、地元の華人ネットワークを持っているような中国系の富裕層投資家の動向はどうでしょうか。ただし、購入の目的が違う場合もあるので、あくまでもトレンドの参考としてです。

経験ある地元投資家なら寄り付かないような案件を避けるだけでも、大やけどする可能性を下げることができます。

なお、仲介業者や販売業者が提示する「想定家賃」は参考にはなりますが、実勢相場より510%高めであることは、お約束のようなものです。詳しく聞けば、「家具付きで貸せば、それくらいの家賃が取れる可能性はある」と答えるかもしれません。

我々も内覧の際に想定家賃を尋ねますが、それはそのエージェントの「誠実さ」や「その地区の特性を理解しているか」を計るバロメーターとして聞いています。

各エージェントは数多くの案件を担当していますので、必ずしもその地区の、そのストリートの特性に詳しいとは限りません。

一方、あるベテランのエージェントは、自身もその近くに住んでいたことがあったそうですが、物件の周辺事情にも詳しく、「近隣のこの家とあの家は歴史建造物に指定されているので、取り壊されてマンションに変わることはない(新規供給が限られている)」など教えてくれたこともあります。

想定家賃については、大手のサイトで実際の相場を自分で確認するのがベストです。郊外の新興住宅地でまだ実績がない場合は、周辺のより便利な(都心に近い)エリアの相場を調べ、そこから少し割り引けば、参考になるでしょう。
より便利なエリアと同水準の想定家賃を提示しているようなら、ちょっと膨らませているということが分かります。

もっとも、少し膨らませるのは業界のお約束なので、悪徳業者だとまでは言えません。家賃水準にせよ、その地区の将来性にせよ、相手の言うことを少し割り引いて検討する、自分でも裏を取ることが大切です。

2015/09/17

オーストラリア主要都市の空室率

投資の是非を検討する際、「オーストラリアの空室率」を指標としても意味がありません。
以下のように、都市によって大幅に異なるためです。
Source: petewargent.blogspot.com

また、以下は各都市の家賃水準の変化を示しています。右端が過去12か月間の変化率です(上段が戸建て、下段がマンション)。

Source: SQM Research

資源(鉄鉱石)産業の拠点であるパースは、地域経済の低迷が、空室率(3.7%)、家賃水準(戸建て8%減、マンション5%減)にも顕著に表れるようになりました。

一方、シドニーでは、空室率1.7%、家賃上昇率(年間)は約2%と底堅く推移しています。

ホバート(タスマニア)は大きな産業はありませんが、住宅のひっ迫(空室率1%)で家賃も年78%上昇しています。

ブリスベンの家賃は若干のプラスですが、物価上昇率には追い付いていません。実質的にはマイナス圏と言えます。

家賃水準は都市によってかなり異なりますが、ブリスベン-シドニー-メルボルン間はそれぞれ約900㎞あり、「他の都市のほうが空室が多くて、家賃も安いから移住しようか」とは簡単にはなりません。

オーストラリア内での人の移動は、地域の景気、仕事があるかに左右されます。この点は、大都市、特に東京に人が集まり続ける日本でも同様かと思います。 

また、一つの都市の中でも、空室率、家賃水準は地区によって異なります。この点は、東京でも、港区、練馬区、多摩市のマーケットを同列で扱うことができないのと同様です。

「次に大幅に価格が上がるのはブリスベンだ」と言われ始めて2年が経過しますが、いまだにパッとしないのは、地域経済が力強さを欠くためと言われています。
景気が悪いということはありませんが、他の地域から人を引き付けるほどの新しい仕事(職)が生まれていません。人口の伸びも直近では鈍化傾向です(これは、移民の流入減のため、オーストラリア全体の傾向でもあります)。

2、3年先までの今回の上昇サイクルでは、シドニー、メルボルンとの価格差を少し埋める程度の上昇に留まりそうです。中国本土でブリスベン投資ブームでも生まれれば別ですが。

おそらく、次のブリスベンの不動産ブーム(年10%超の上昇が続く状況)は、原油価格が6080ドルで安定し、いずれ100ドルに戻るなどと言われるようになったころでしょう。
そうなると、シドニー、メルボルンより大幅に住宅が安い上に、地域経済も強い、移住者も増えているということで、爆発的に値段が上がる可能性があります。
ブリスベン経済は資源に依存しているわけではありませんが、州北部で産出される天然ガス、石炭も主要な産業です。

もっとも、ブリスベン全域に及ぶほどの好景気(資源ブーム、不動産ブーム)になることは、当面は見込まれていませんので、現時点で参入するなら、需要と供給のバランスで需要のほうが多いエリアに投資するのが手堅いと考えます。

ブームになれば、以前は見向きもされていなかった割安な地区のほうが、高い値上がり率を示すこともあるでしょう。
ただし、そこに至るまでには、まず都心に近いエリアで住宅価格が高騰し、都心周辺では手が出ない人が増え、周縁部に目を向ける人が増える必要がありますが、ブリスベンの場合、その状況になるまでには相当な年数を要します。

我々がシドニーを見るときは、将来のシドニー人口が900万人になったとき、今のロンドンや東京で言えばどんなエリアに該当するかを考えます。
同様にブリスベンでの投資先を検討する際には、現在のシドニーで言えばどんなエリアに該当するかです。
ただし、現在の人口増加率(年1.52%)を前提とすると、そうした大都市と同規模の人口になるまでに、約40年かかることも考慮しなければいけません。

自分が購入した物件を20年後に売却するとして、将来の買い手も、その先の10年、20年の将来性を考えて購入の是非や価格水準を検討するはずです。自身が想定している保有期間の2倍くらいの期間は、ファンダメンタルズ面をチェックしておく必要があろうかと思います。

2015/09/15

シドニー住宅市場の熱さの度合い

豪不動産マーケットの「熱さ」の尺度となるオークション成約率をみると、シドニー住宅市場の鎮静化の兆しが表れています。
以下はシドニーの地域別のオークション成約率です。今年6月から8月までの推移から、全体として熱が冷めている様子が見てとれます。


 特に、シドニー西部(West)、南西部(South West)での成約率が大幅に低下しています。これらの地域は都心からも距離があり、昔から低所得層が多いとされるエリアで、(当該エリアとしては相当な価格まで上がってしまい)割安な物件を狙う域外からの投資家の熱が冷め始めたこと、金融機関が投資用ローンを絞り始めたことが、オークション成約率低下の要因と分析されています。言い換えると、地元の実需層だけでは買い支えることができないマーケットだと言えます。

オークションで住宅を売却する場合、売り手が事前に設定した最低落札額を超えた場合のみ、オークションでの落札に至ります。(いわゆる競り売り)

需要の強いマーケットでは、複数の買い手が競って値を吊り上げ、最低落札額を大幅に上回る価格で落札されることがあります。
一方で、売り手が強気の額を設定したものの、買い手側がそこまで払いたくないという市況では、オークション成約率が低下します。

なお、オークションで成約に至らなかった場合、売り手は別の期日に再度オークションを実施するか、当日に最も高い値を提示した買い手候補者と個別に交渉することとなります。

概ね、成約率が80%を超えるとかなり需要が強い市況(売り手優位)、70%でも売り手にとって良好な市況、5060%で需給バランスの取れた市況と言われています。
ただし、伝統的に、シドニー、メルボルンでは高め、ブリスベンでは低めであることが通常です。シドニーで60%というのは弱い数字ですが、ブリスベンで60%なら悪くない数字です。

シドニーでは一時期、90%に達していたこともありました。オークションに出るのは優良物件ばかりとは限りませんから、成約率90%というのは、ほとんど何でも買われているような状況です。

今回のシドニーブームは、都心に近いエリア(特にInner West)が上昇を牽引し、徐々に割安と思われる周辺地域へ価格上昇の波が広がっていきました。西部、南西部の需要の弱さを考えると、価格が下がり始めるのは、上昇局面とは逆に、これら周辺地域が最初となりそうです。

一方、歴史的に裕福な層に好まれるLower North、近年若い年齢層(なかでも金融関係、弁護士、会計士などの専門職タイプ)の人気が急上昇したInner Westでは高い成約率を保っています。これらの地域では、底堅い需要が見込める点で投資家の人気も高く、また、実需層も十分な購買力を持っています。

以上は、近年、東京でも都心に近いほど地価やマンション価格が上昇している状況と似ています。東京のマーケットが下落局面に入った時、都心は価格調整があっても下支えされそうですが、周辺地区では近年の上昇分を完全に打ち消す下落になるかもしれません。

確かに、周辺地域でも価値が見直され、住宅価格が大幅に伸びることはあります。東京でも、利便性が大幅に改善された武蔵小杉の例があります。

もっとも、投資としてこれを狙うのはなかなか難しいです。公的機関や企業が新たな路線、駅の構想を発表したところで、本当に実現するか、いつ実現するか保証はありません。

ブリスベンでも、州政府の政権交代を機に、大規模な地下トンネル(バス・地下鉄)計画が白紙撤回されました。この計画を見込んで投資していた人がいたとしたら、大きな痛手です。

また、将来のプロジェクトの完成に賭ける場合、住宅価格が上がってしまう前に(利便性の向上が誰の目にも明らかになる前に)参入する必要もあります。

大規模プロジェクトの成功に賭けるという投資手法を、政治リスクも含めた「土地勘」のない海外でやるのは非常にリスクが高いのではないでしょうか。
「土地勘」のある人であれば、政治や企業の動向など、雲行きが怪しくなった時点で早めに撤退するなど、軌道修正もできると思いますが、通常、海外からの不動差投資では、買ったままになるケースが多いはずです。

政府が特段のプロジェクトを実施しなくても、自然に人々が集まり、追加料金を支払ってでもそこに住みたいと思わせるエリア、企業が自主的にオフィスや店舗、住宅の開発に資金を投じているエリアのほうが、投資先として安定感が高いと言えます。

現状のシドニーで言うと、Inner WestLower Northなどの地域ということになります。

2015/09/14

オーストラリアでの不動産投資戦略

いつ何に投資すべきかは、投資目的、資産背景によって異なりますが、現在の市況に照らして、一般的にこうではないかと思われる見解を共有したいと思います。

実需層
オーストラリア在住で、いずれにせよ住む場所が必要という場合です。

シドニー、メルボルン、ブリスベンで、自分の住んでいる(住みたい)地区で手ごろな物件が売りに出れば、買ってもよいと考えます。ただし、絶好の買い時という時期でもありませんから、決して無理をせず、ちょうど買いたいと思っていたような物件が売りに出され、競合も少ないようであればです。

世界恐慌のような事態を想定するなら別ですが、多少の景気減速くらいでは、家賃も価格もほとんど下がらないと想定されています。むしろ、既に相当な上昇を見せたシドニー、メルボルンですら、物価上昇率(23%)程度はしばらく上がり続ける可能性も指摘されています。

2008年から2010年にかけての、サブ・プライムローン問題、リーマンショックのあった時期でも、シドニーの不動産価格は数%程度しか下落していません。

実需層の場合、住宅を購入しなかったとしても、いずれにせよ家賃を支払う必要があります。資金を用意できるなら、今のうちに購入も検討すべきと考えます。

また、現在、オーストラリアとしては歴史的な低金利です。さらに、ひと月ほど前から、ローン金利と頭金の割合に関して、投資家よりも自宅購入者が優遇されています

銀行の融資姿勢は予告なく、急に変わることもあります。景気の停滞で住宅価格の下落に賭ける(その時まで待つ)としても、その経済情勢では銀行も新規融資をかなり絞るはずで、ローンを組むのが難しくなっているかもしれません。
いつかは自宅を購入したいという実需層の場合は、住宅ローンの面からも、買えるうちに買っておいた方がよいと言えます。

賃貸のほうが目先の支出は少ないかもしれませんが、物価上昇、人口増が続くと見込まれるオーストラリアでは、いずれ家賃も上昇する可能性が非常に高いです。

ところで、手持ち資金がある場合、不動産ではなく、株など他の資産に投じることも考えられます。どちらが得意かという側面もありますが、一般的には不動産のほうが(比較的安心して)レバレッジを利かせやすく、価格の変動も緩やかなため、資産形成の土台として向いていると思います。

シドニー、メルボルン、特に割安なブリスベンでは、自宅購入を検討すべきでしょう。パースは資源価格によって景気や住宅需要が左右されるのと、それ以外の小規模な都市では、人口、経済成長の面で不透明な面もあり、将来の資産価値が少々心配です。

老後の年金も自己責任の部分が大きいオーストラリアでは、自宅購入の場合でも、将来の資産性を考えることが大切だと思います。
十分な資産価値があれば、リタイアの際に売却し、コンパクトなマンションに住み替えて、余った資金は生活費に充てるといった選択肢も増えます。老後は日本でという場合も、終の棲家を購入する資金に充てることができます。

そこで、シドニー、メルボルン、ブリスベン以外の地方都市に在住の場合は、自宅は賃貸を続けながら、前記三大都市に投資物件を購入するのも選択肢です。

ただし、シドニー、メルボルンの好立地では、市場はまだ加熱状態が続いています。オークションなどで、採算度外視(海外への資産逃避を優先)の購入者につられて、必要以上の高値を支払わないよう注意が必要です。

シドニー、メルボルンで自宅購入が現時点で難しい場合、割安なブリスベンで投資物件を購入し、ひとまず不動産マーケットに参入する足掛かりとするのも選択肢でしょう。

オーストラリアの若者の間でも、自宅購入前に、投資物件を購入するケースが増えているようです。特にシドニー、メルボルンでは都心近くの物件価格が高騰し、若い人にはとても手が出ない水準です。都心近くに賃貸で住みながら、手ごろな価格で購入できる郊外に投資物件を購入するケースをよく耳にするようになりました。

都心近くに住みたいが、高くて買えない。賃貸なら何とか払える。一方で、不動産ブームには乗りたい。自分自身は郊外に住みたいわけではないが、投資用として買っておこう、という発想です。

東京では1520㎡くらいのワンルームもあり、都心マーケットへの参入もそこまで難しくないですが、オーストラリアでは最低でも40㎡以上といったサイズですから、若い人にとっては都心への参入は難しいのが実際です。

逆に、子育て世帯で都心から離れた郊外の戸建てに賃貸で住んでいるが、当該地区の住宅価格の上昇に確信が持てない、それでも自宅を購入すべきかというケースも考えられます。
その場合、戸建ての賃貸を続けながら、都心近くのマンションを投資用として購入するのも選択肢です。(ただし、オーストラリアでは賃借人保護が弱いので、この点は自宅を購入する場合と比べて注意が必要です)

なお、永住者等の場合は中古物件も購入できるため選択肢が広がりますが、Off-the-planや新築に関しては、ブリスベンでも目下の市況で売り手が強気の値段を付けており、慎重な検討が必要です。

投資家-資産形成目的
投資として利益を上げること、資産を築くことが優先の場合です。

オーストラリアの不動産投資(住宅系)は、基本的にキャピタルゲイン狙いです。中長期の価格上昇や家賃上昇が織り込まれているため、当初の家賃収入利回りは低め(表面利回り4~5%)です。

初めからそれを大幅に超える利回りがある場合は、当初期間だけの家賃保証、地方の小規模都市、敷地に別棟を建て増ししているような特殊な物件になるでしょう。将来の家賃、価格の伸び悩みリスクを織り込んだ利回りと言えます。

キャッシュフローよりもキャピタルゲインというタイプの投資では、自己資金の割合しだいで当面、持ち出しが発生することも珍しくありませんが、キャピタルゲイン(含み益)は最終的に売却するまで課税されないという利点があります。
給与収入などがかなり多く、所得税率の高い方の場合は、キャピタルゲイン型のほうが有利とされています。
なお、海外投資家の場合、8万ドルまでは32.5%の税率で所得税が課税されます。賃貸経営に直接かかるコストや減価償却は差し引くことができますが、海外在住者には「基礎控除」はありません。

保有期間に関しては、今回のシドニー相場のように、運よくピンポイントで底値を拾い、天井で売り抜けたとしても、最低3年のスパンで投資する必要があります。通常は、底値、天井の時期は事前には分かりませんので、少なくとも不動産相場のひとサイクル、7~10年は保有する必要があります。

短期保有で10%、20%程度の値上がりで売却してしまうと、売買のコスト、譲渡所得税も考慮すれば、効果的な資産形成とはなりません。

また、オーストラリアの不動産に投資する利点は、中長期的な人口増、物価上昇、実質所得増にあります。できるだけ長いスパンで保有したほうが、ファンダメンタルに沿った結果が出やすいと考えます。

今、資金を投じたいという場合は、今回の上昇サイクルでまだ上昇余地のあるブリスベンがお勧めです。これは私個人の見解というよりも、大方の業界専門家の見解です。

やはり代表的な都市であるシドニー、メルボルンを狙いたいという場合、今回のサイクルではほぼピークに達しています。上昇余地が限られている一方で、価格下落のリスクもあります。

また、一旦保有してしまうと、維持管理やテナント仲介に係るコスト(一年あたり、物件価格の1.5%目安)、ローンを組む場合は金利の負担も発生します。これらは、物件の価値が上昇しようが、下落しようが負担し続けなくてはいけません。

したがって、特にローンを組む場合、シドニー、メルボルンの物件が投資対象であれば、我々なら今の時期は見送ります。マーケットが落ち着き、物件価格が調整され、物価や賃金、家賃の水準が追い付いてきた時点で、参入を検討します。
今のところ、2019年~2020年頃と考えていますが、中央銀行の金利政策、銀行の融資姿勢、景気動向によって前後しそうです。

一方、大方の予測に反して、シドニー、メルボルンの相場が堅調に上昇を続けた場合、機会を逃すこととなります。この点は、各投資家のリスク許容度しだいでしょうか。我々の場合、実需ではなく投資としては、そこまでリスクを取りたくない(収益の機会を逸しても仕方がない)というスタンスです。

投資家-海外への資産分散目的
利益を上げることよりも、リスク分散、資産保全が優先の場合です。

中国の富裕層では、これに加えて、将来移住するための足掛かりと考えている人が多いと言われています。(オーストラリアで不動産を所有していても、それだけで永住権を取得できるわけではありませんが。ただし、数億円単位の投資ができる富裕層には、投資家ビザ制度があります)

こうした投資家層の場合、一千万円、二千万円くらい割高でも、大した違いはないという感覚でしょう。現在、割高と言われていますが、中長期的に見て底堅いシドニー、メルボルンへの投資が続いても不思議ではありません。為替も考慮すれば、本国の不動産相場と比べて、むしろシドニーのほうが割安かもしれません。

これまで中国に関しては、人民元高(豪ドル安)のため、相対的にオーストラリアの不動産が割安となり、大量の資金が流入していると言われてきました。一方、昨今の人民元の切り下げ、さらには一層の切り下げの思惑で、買うなら今のうちとオーストラリアへの資金流入がむしろ加速するのではとの観測も聞かれます。

早い時期に海外へ資産を分散したい、目先の損得は度外視して、中長期での資産保全を優先という場合は、人口の増加、多様な産業の面で底堅いシドニー、メルボルンがお勧めです。

現在、シドニー、メルボルンの不動産相場は過熱していると言われますが、待っていれば下がるとも限りません。仮にシドニー、メルボルンの不動産価格が下がったとしても、そのとき自国の通貨や資産の価値が目減りしていれば元も子もありません。

メルボルンは自動車産業など、ものづくり系の企業が拠点を置く都市として発展してきました。一方、シドニーは金融、保険、会計・法律などの企業の多くが拠点を置いています。中央銀行、証券取引所の本部所在地もシドニーです。

近年、自動車工場の撤退が相次いでいますが、人件費の高いオーストラリアでは、豪ドル相場がよほど低下しないかぎり、製造業系は苦戦を強いられそうです。

一方で、英語、イギリスの流れを汲む法体系・商慣習といったプラットフォームの強みを活かしやすい金融、会計・法律に関わる産業を擁するシドニーのほうが、アジア・オセアニア地域の拠点として繁栄が続く可能性が高いとみています。

なお、今後数年のスパンでは、ブリスベンが最も有望視されており、中国からの投資家の注目を集め始めているようです。ただし、ブリスベンの人口規模は、シドニー、メルボルンの半分程度です。マーケットの規模が違いますので、投資先の地区を選ぶ際にも注意が必要です。

都心から10kmという立地の場合、シドニーなら都心に近いという印象ですが、ブリスベンではちょっと離れた郊外という印象です。

資産の保全を目的とするなら、ブリスベンのみに集中投資するというよりは、シドニー、メルボルンでも物件を保有しながら、ブリスベンにも分散投資というのが妥当だろうと思います。

2015/09/10

プレ・ビルド(完成前販売)の新たな問題点

最近、シドニーで問題となったケースを共有したいと思います。

ある投資家は2012年にシドニー郊外で戸建ての購入契約を結びました。ディベロパーが土地を造成し、十数戸の戸建てを建築して分譲、2015年に残金支払い・引き渡し予定というものです。

契約金額は、2012年当時の相場を反映したものです。その後、2015年までに、シドニーでは平均住宅価格が40%も値上がりしました。

2012年の契約時の価格が5000万円とすれば、現在の価値は7000万円ということです。

投資家としては、価値の上がった住宅を割安の価格で購入でき、投資として大成功となるはずでした。

一方、ディベロパーとしては、面白くありません。今、改めて売りに出せば7000万円で売れるにもかかわらず、2012年に結んだ契約のせいで5000万円しか受け取ることができません。

そこで、ディベロパーのほうから契約を解除するケースが散見されると報じられています。

プレ・ビルド(オーストラリアではoff-the-plan)販売の場合、通常、契約にサン・セット(日没)条項が盛り込まれています。これは、特定の期日までに完成させることが不可能となった場合、ディベロパー側からも契約を解除できるという条項です。

もちろん、ディベロパー側には期日までに完成させる義務はありますが、努力義務に留まります。役所の審査が長引いた、建築ブームで人手や資材を確保できなかったなど、ディベロパー側も止むを得なかったと主張していますが、真相は分かりません。

「わざと完成を遅らせたのではないか」と裁判に持ち込むことも考えられますが、時間も経費もかかります。他の購入者の意向を取りまとめるのも容易ではありません。

手付金(通常、価格の1割)を返却してもらって、あきらめるしかないのがほとんどのケースでしょう。

プレ・ビルドで購入する場合、ディベロパーの信用、実績が大切です。どの企業にもスタート・アップの時期はあり、全ての新興ディベロパーがダメだとは言えませんが、不動産ブームに乗って急速に規模を拡大している新興ディベロパーは見極めに注意が必要です。日本でも、2005年に耐震強度偽装事件がありました。

完成前に販売価格が決まっているとすれば、ディベロパー側の利益をさらに増やすためには、建築コストを削るほかありません。

購入者側は、良質な物件を、できるだけ安く買いたいと考えます。一方、ディベロパー側は、できるだけコストは低く、販売価格は高くと考えます。利害が相反することを前提に、交渉、契約に臨む必要があります。

契約書には、止むを得ない事情がある場合、内装はもとより、占有面積の広さまで変更できる条項が盛り込まれているケースが多いようです。当然ながら、変更がある場合は、より低いグレードに、より狭い面積へとなります。変更権限をディベロパー側が握っている以上、その逆はありません。

専有面積が当初計画より10%狭くなることを許容する条項もあると聞きます。シドニーでは、平米単価100万円程度も珍しくありませんから、50㎡のつもりが45㎡の物件を引き渡されたのでは、500万円も価値が目減りしています。

当初は敷地いっぱいに建物を建築する計画だったが、役所から修正を言い渡され、計画通りの総戸数を建築するためには、戸当たりの面積を小さくするほかない、というケースもありえます。

もっとも、こうした可能性が契約書に明記され、購入者がそれにサインした以上は、後でどうすることもできません。

したがって、こうした計画変更(設計ミス)が起きる可能性が低く、仮に計画が変更されたとしても誠意を持って対応してもらえると考えられる、実績あるディベロパーを選ぶことが大事です。

オーストラリアでは、建築許可の履歴が市役所のウェブサイトで公開されています。これを見ても、当初の計画通りに完成ということは通常ありません。何か月も、時には何年にもわたって、計画の提出、役所の審査、計画の修正が重ねられています。

こうしたリスクを避けたい場合は、既に完成した新築物件を、(自分が雇った)建物診断士の検査のうえで購入することもできます。

既に完成した物件の場合、眺望の良い部屋などは既に売り切れているかもしれません。しかし、自分が住むわけでなく、あくまで投資として考えるなら、賃貸に出した時の想定家賃と購入価格の見合いで、十分検討に値する物件もあるはずです。

もっとも、同一建物の他物件と比べて、明らかなマイナスポイント(ごみ置き場、駐車場出入り口のすぐ近くなど)がある物件は、割安でも避けるのが無難です。

(購入時の値段も相応に高いはずですので)必ずしも最上階、角部屋でなくても良いと思いますが、少なくとも、可もなく不可もなくの水準に留めないと、将来のテナント、売却先の層が限定されてしまいます。

「総じてクオリティは低いが、値段が安ければ買ってもよい」と自分が考えたなら、将来の買い手、借り手も同様に考える可能性が高いです。内装は後で変更できますが、立地、位置取りは変えることができません。

現在のシドニーのように不動産ブームの時期は、売れ残り物件も減少します。理想的には、人々の関心が不動産投資から離れた時期に、たくさんの売れ残り物件の中から、自分に最も有利なものを選ぶことができる時期に参入するのがベストです。



完成前に買わないと売り切れるという市況のときもありますが、大勢の人が不動産購入に殺到している段階で参入するのがそもそも投資として得策か疑義があります。

2015/09/04

シドニー不動産の買い時はいつか

キャピタルゲイン狙いを前提とするなら、シドニーでの次の買い時は、2019~2020年頃と考えています。

2016年まで上昇継続(ペースは鈍化)、2017~2018年は横ばい(やや下落)、2019~2020年に反転(底打ち)の兆し、という経過の想定です。

丁度良いタイミングで、目当てのエリアで、いい物件が売りに出るとも限りませんので、底値をピンポイントで買うのは非常に困難です。

一方で、金利の支払い、保有コストを考えると、ピーク期や、回復前のあまり早い時期に参入するのは避けたいものです。キャピタルゲイン狙いの物件の場合(一般に、家賃収入の利回りは低い)、頭金2割程度であれば、毎月の持ち出しが発生します。

1、2年は価格が動かなくても仕方がありません。しかし、毎月の持ち出しが発生する一方で、5年間、思ったように価格が上がらない、むしろ下がっている、という状況では、いくら中長期投資とはいえ、精神的にも、金銭的にも持ちこたえるのが難しくなります。

この点で、最初から収支が黒字のキャッシュフロー型の不動産投資とは異なる考慮が必要です。

もっとも、中国の通貨切り下げで、中国からの資金逃避が起きているとも言われています。こうした資金は、儲かるかどうかよりも、とにかく安全なところに移したいという動機のほうが大きいため、オーストラリアへの流入が一層加速する可能性があります。

この場合、シドニー不動産の上昇局面が想定より長引くかもしれません。既に、2014年ピーク説、2015年ピーク説と、多くの専門家の予想も裏切られ続けています。我々も、以前は2018年頃が次の買い時(底値圏)と想定していましたが、少し後ずれさせました。

過去3年間の上昇率(約40%)、鈍い平均所得の伸びを考えると、わずか2、3年の調整期間で、また価格が大きく上昇するとは考えられません。今回のピークを打った後、物価や賃金、家賃の上昇が追い付くまで、少なくとも数年はかかりそうです。(前回サイクルでは、2002~2008年まで横ばいが続いたようです)

直近数週間では、シドニーのオークション売却成功率は、以前の80%から70%水準へと低下しており、沈静化の兆しが見られます。現在の価格水準では買いたくないという人が徐々に増えているということです。

そして、9月(春)を迎え、クリスマス休暇まで、伝統的に売買の活発な時期を迎えました。大量の売り物件を吸収するほどの需要があるのか、注目されています。

一方、ブリスベンでは、以前は40~50%に低迷していた同率が、60%前後で推移しており、ようやく市場が温まってきたと実感しています。

近隣でも、ここ数か月、「物件を売りませんか」「価格を査定します」という投げ込みチラシがかなり増えました。仲介業者も、売り物件の在庫が不足しはじめたようです。以前は「買いませんか」のチラシしかもらったことはなかったのですが。

シドニーの高騰を受けて、国内外の投資家が、上昇余力のあるブリスベンに資金を投じはじめたとのニュースも報じられています。過去2年間、継続して報じられていた「シドニー市場がピークを迎え、投資資金がブリスベンに向かう」というシナリオもずいぶん後にずれました。ついにこのシナリオが実現するのでしょうか。

我々がターゲットとするエリアで調査した限りですが、一等地(超一等地ではない)のマンション価格を比べると、平米単価でシドニー1万ドル、ブリスベン5千ドル程度と約2倍の開きです。

都市全体の平均的なマンション価格(実際に取引された価格の中央値)で見ても、シドニー68万ドル、ブリスベン37万ドルと相当な格差です。

平均的な世帯所得で見ると、シドニーのほうが5%高いですが(2011年国勢調査)、所得差では説明できないほどに住宅価格の差が生まれています。

2015/08/25

オーストラリアの都市と地方の格差

オーストラリアの国土面積は日本の20倍以上ですが、実は居住に適した土地はそれほど多くありません。広大な国土に人口が点在しているわけではないのです。

北部は熱帯、内陸部は砂漠、乾燥地帯と、快適に住める地域は中緯度の沿岸部周辺に限定されます。このため、オーストラリアの都市人口率は約90%と、日本同様に世界有数の高さです。

日本の場合、東京都の人口は1300万人。日本の総人口の約10%です。首都圏全体で3000万人と、約25%です。

シドニー(都市圏)の人口は480万人。豪人口の約20%です。メルボルンも440万人と、約18%を占めています。

シドニー、メルボルン、ブリスベン、パース、アデレードの5大都市で、人口の約6割を占めています。

不動産投資家にとってのメリットは、投資先地域のターゲットを絞りやすいということです。さらに、将来の成長性、地域経済の安定性の観点からは、シドニー、メルボルン、ブリスベンに絞られるでしょう。

なお、将来の資源価格の反発を見込んで、パースや地方の鉱山都市の不動産を今のうちに仕込もうと狙っている投資家も一部います。しかし、いつ資源価格が上昇するかは見通せません。

いずれ資源価格が上昇することに賭けるなら、資源会社や資源価格インデックスに賭けるほうがシンプルだと思います。不動産の場合は売買の手数料も決して安くありませんし、保有期間中の維持管理、ローン返済にもコストがかかります。

また、資源産業中心の都市で不動産価格が高騰しやすいのは、資源価格が上昇を始めた時期よりも、資源会社が新しい鉱山を開発するなど、新規のインフラ投資を行っている時期です。建設需要で多くの人手が必要となり、住宅需要も一気に高まります。

資源会社が新規投資を活発化するには、資源価格が高値で安定すると見通せる状況になる必要があり、少なくとも今から数年を要するでしょう。

以下は2005年から2015年にかけての大都市(州都:青色)と地方(茶色)の住宅価格の推移です。

Source: propertyupdate.com.au

2005年から2008年頃までは、大都市も地方も同じように価格が上昇しています。しかし、2009年以降、天然資源や農作物の価格が下落してから、大都市と地方で大きな格差が生まれています。

個人資産のうち住宅の占める割合が大きいオーストラリアでは、近年、資産形成の面でも都市と地方で明暗が分かれました。過去5年間、地方でも、総じて見れば、値下がりしてはいませんが、物価上昇率も考慮すれば、実質的には住宅の資産価値は増えていないと言えます。

以下のグラフのように、大都市の間でも、詳しく見ると、各都市の主要産業によって明暗が分かれています。
2004年から2008年にかけて資源ブームのころは、資源関連企業の拠点が多いパース、ブリスベンの上昇が顕著でした。当時、シドニーの住宅価格はほとんど横ばい、下落している時期もあります。

Source: propertyupdate.com.au

一方、2013年以降は、大企業の本社が置かれ、金融、サービス業など多様な産業に支えられたシドニー、メルボルンが力強い上昇を見せています。

ただし、過去のシドニー、メルボルンの値動きを参照すると、力強く上昇した後は、数年間、横ばいが続いています。

いつまで上昇が続くか、ピークを打った後、何年横ばいが続くか事前には分かりませんが、少なくとも、今は無理をしてまで(多額のローンを組んでまで)シドニー、メルボルンで買う時期ではないだろうと考えています。

なお、オーストラリア大都市の人口は、「シドニー市」などではなく、「都市圏」で括られることが通常です。シドニーには、日本の政令指定都市に該当する自治体が存在しません(メルボルンも同様)。38の中小規模の自治体にまたがる都市圏が、「シドニー」と呼ばれています。東京で例えれば、「東京都」や「都庁」が存在せず、区市町村だけが存在するようなものです。

現状、州政府がシドニー全体を所管していますが、都市のグランドデザインを描くためにも、将来はシドニーの都市政策専任の役所を設けてほしいものです。英ロンドンもかつては同様の状況でしたが、2000年に都市政策を担う「ロンドン市役所」(GLA)が設けられました。

一方、ブリスベンには、人口100万人を擁する「ブリスベン市」が存在します。隣接するベッドタウンの自治体も合せて、ブリスベン都市圏では人口200万人規模とされています。